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人口が増えれば、経済の規模は拡大するが…
そもそも、世界の名目GDP成長率が2%+α成長するという根拠は何でしょうか。それは人口動態にあります。
経済の規模は教科書的にいうと、「人口×生産性」で求められます。つまり人口さえ増えていれば、経済の規模は拡大します。戦後、日本が高度経済成長した理由は、もちろん自動車産業、家電産業などが大きく伸びたからではありますが、ベビーブームによって人口が急増したことも強く後押ししました。
ちなみに戦後の日本の総人口は、終戦直後の1945年には7214万7000人でしたが、1948年には8000万人台を突破しました。その後も順調に増加して、1956年には9017万2000人に、1967年には1億19万6000人と初めて1億人を超えてきたのです。こうした人口の急増が、日本経済を大きく押し上げたのです。
今後はどうかといえば、ご存知のように、日本の総人口は2008年の1億2808万8000人をピークに、徐々に減少傾向をたどっていますが、世界の人口はこれからもしばらく増え続けます。
国連の数字などを基にして総務省が作成した世界人口の推移を見ると、1950年は全世界で25億3600万人だったものが、2000年には61億4500万人になり、2011年には70億4300万人になり、2018年は76億3300万人に達しました。しかも年々、人口増加のピッチが速まっており、今後の見通しだと2025年に81億8600万人、2050年には97億7200万人となり、2100年には113億人になるといわれています。
人々が生きていくうえでは衣食住が必要です。リーマンショックが起こったからといって、人々が何も食べなくなったり、裸で外出したり、野宿したりすることはあり得ません。人々の生活に必要なものをつくっていて、グローバルに展開しており、海外の競合を相手に勝てるだけの競争力を持っている日本企業はどこなのか。こうした企業が長期投資の対象となっていくわけで、それを探すのが私たちの仕事ということになります。
自らマーケットをつくりだした「ユニ・チャーム」の例
ひとつ事例を挙げてみましょう。銘柄はユニ・チャームです。この銘柄は、コモンズ30ファンドで約9年間、投資し続けています。
ユニ・チャームが設立されたのは1961年のこと。四国は愛媛県で産声を上げました。いまの社長、高原豪久さんは大学卒業後、都銀を経て1991年に入社した二代目です。私はセミナーで「1990年頃にユニ・チャームの社長をやりませんかと言われたら、誰でも躊躇したと思いますよ」と言っています。
ユニ・チャームが「ムーニー」ブランドで紙おむつ市場に参入したのは1981年のことでしたが、すでに日本の出生率は低下傾向をたどっていました。出生率が2人を維持していたのは1974年までのことで、1981年時点では1.74人でした。ちなみに1990年のそれは1.54人で、明らかに減少傾向をたどっていたのです。
紙おむつを主力ビジネスとしているのですから、子供の数が減れば、それだけ需要が後退して、業績の悪化につながる恐れが生じてきます。それが明らかな企業に入り、いずれは社長になるというのは、誰でも躊躇すると思います。
しかし、ユニ・チャームの業績はそこから大きく伸びたのです。とくに2001年に高原豪久さんが社長に就任してから、ユニ・チャームの売上は4倍近くになりました。株式の時価総額は7倍です。どうして、赤ちゃんの数が減っていく日本で、ここまで業績を大きく伸ばせたのかというと、海外に新しいマーケットを求めたからです。
コモンズ30ファンドでユニ・チャームに投資したのが2010年のことです。それ以前から良い会社だなとは思っていたのですが、ユニ・チャームとユニ・チャームペットケアの親子上場だったため、投資を控えていました。
ところが、2010年に両者は統合され、新生ユニ・チャームになったため、いよいよ投資を始めたのです。投資した当時の海外売上比率は30%程度。そこから5年たらずで60%になりました。しかも2017年まで9年連続過去最高益を更新し続けました。2018年は減益となりましたが、2019年決算では再び過去最高益を更新してきています。
9年連続で過去最高益更新ということですが、この間には2008年のリーマンショックがあり、2011年の東日本大震災があり、1ドル=75円の超円高局面もありました。その都度、ユニ・チャームも含め日本株は大きく売られましたが、ユニ・チャームの業績は過去最高益を更新し続けていました。だから、私たちも自信を持って、同社の株式に投資し続けることができたのです。
これからも株価を大きく揺るがす出来事は度々、起こると思っています。残念ながらリーマンショックのようなこともどこかで起きるでしょう、また、大きな震災などの天災もいずれは起こる可能性を否定できません。一時的な円高もあるでしょう。しかし、過去にそうした大きな苦難を連続最高益で乗り越えてきたユニ・チャームは、そのときの経験を活かしてさらに筋肉質な経営体質になっていますので、仮に同じような苦難に直面してもその強さを発揮して乗り越えてくれることでしょう。
このように、さまざまな苦難に直面しながらも過去最高益を更新し続けられたのは、ユニ・チャームという会社が高い競争力を持っているからです。
たとえば紙おむつの利用率は、日本においては100%ですが、中国ではまだ20%程度です。年間1700万人(ユニセフ世界子供白書2017)もの赤ちゃんが生まれているにもかかわらず、紙おむつの利用率はまだまだ低いのです。
インドに至っては、中国よりも多く2500万人(ユニセフ世界子供白書2017)の赤ちゃんが生まれているにもかかわらず、紙おむつの利用率はたったの3%です。世界で最大の人口を抱えている中国とインドにおける紙おむつの利用率を見れば、まだこの先も相当の伸びしろがあると考えることができます。
では、紙おむつや生理用品、高齢者向け紙おむつの市場において、ユニ・チャームは世界的にどの程度の位置にいるのかを見ると、それぞれにP&Gなどが上位にいますが、赤ちゃん用の紙おむつが10%で世界3位、生理用品が9.9%で世界2位、高齢者向け紙おむつが11.2%で世界3位というシェアになっています。地域をアジアに限定すると、いずれの分野もP&Gなどをおさえてトップシェアを誇っています。アジアには中国、インドという、これからさらに大きく伸びる可能性のある国も含まれているのですから、それらの国で本格的に赤ちゃんの紙おむつが普及してくる段階となれば、ユニ・チャームの世界シェアはさらに上昇する可能性があります(図表)。
しかも、ユニ・チャームは自らマーケットをつくりにいっています。たとえばインドでは、生理用品を使っている女性が非常に少ないのですが、それは母親や学校教育で生理用品の重要性を教えてもらっていない部分が非常に大きいのです。そこでユニ・チャームは地元の大手のNGOと組み、さらにJICA(国際協力機構)のサポートも得て、インドの小学校や地域を一つ一つ回り、自分たちの商品を配布しながら、衛生教育を行なっています。
このように自らマーケットをつくり、ブランドを浸透させようとしている企業の競争力が弱いはずがありません。まさに、それが競争力の源泉になっているのです。
もちろん、ユニ・チャームのような企業はそう簡単に見つかりませんが、それでも一所懸命に探せば、数十社はあります。このように、世界でシェアを取れる企業の株式に投資すれば、日本株への投資でも、世界の成長を十分に取り込むことができるのです。
新興国は上場している産業に偏りがあるため、注意を
長期的な成長を取るという話になると、必ず出てくるのが新興国投資です。新興国の定義ですが、経済水準は米国、日本、イギリスやドイツ、フランスといった先進国に比べて低いものの、高い経済成長が期待できる国というところでしょうか。
具体的な国・地域名を挙げると、中国やインド、ASEAN諸国、中南米諸国、アフリカ諸国、東欧諸国などが含まれます。
中国が新興国かといわれると、いまやGDPで見れば米国に次いで世界第2位ですから、もはや新興国とはいえないと思いますが、その経済成長率はかつてに比べて低くなったとはいえ、それでも6%台を維持しています。米国や日本などの先進諸国に比べれば、まだ十分に新興国の一角ととらえてもいいのかもしれません。
「中長期的に高い経済成長が期待できる国・地域」
「いまの新興国は日本の昭和30年代のようなもの」
「いずれ米国や日本のGDPを超える経済成長が期待できる」
だから、新興国のインデックスファンドを買っておけば、自分の資産が中長期的に大きく増えるはずと思っている人は多いのではないかと思います。
それは本当でしょうか。私は、大きな誤解があると思っています。たしかに、新興国・地域の経済水準は、これから高まっていく可能性はあります。しかし、問題はその国の企業がどの程度成長するのか、ということです。
ベトナムでもインドネシアでもいいのですが、新興国の株価インデックスを構成する企業が何かをきちんと調べてみれば、大半が内需型企業だとわかります。ベトナムの株価インデックスであれば、ベトナムのゼネコン、金融、不動産、エネルギーなどに関連する企業が入っているのですが、少なくとも現時点において、ベトナムのこうした企業はグローバル展開のステージには達していません。まだまだ地場産業の域を抜け出ていないのです。よく考えてみてください。みなさんはインドネシアの自動車メーカーが製造している自動車に乗っていますか?
インドネシアには、アストラインターナショナルというコングロマリットがあり、その自動車部門が世界中の自動車メーカーと合弁企業を設立して自動車を生産しています。しかし、日本でその自動車に乗っている人は、皆無でしょう。日本に入ってくる輸入車といえば、ドイツのメルセデス、BMW、フォルクスワーゲン、イギリスのジャガー、ランドローバー、フランスのシトロエン、ルノー、イタリアのアルファロメオ、フィアットあたりが定番です。つまりインドネシアの自動車産業はまったくグローバル化しておらず、あくまでもインドネシア国内の需要に応じているだけと考えることができます。
あるいはベトナムの製薬業界を見てみると、近年、東南アジアの医薬品新興市場は注目され、そのなかでもベトナムの医薬品業界は注目を集めています、しかし、それでもベトナムの製薬会社が日本や先進国に進出してビジネスを展開しているとの話は聞きません。むしろ、ロッシュ、ファイザー、ノバルティスなどの世界的な製薬会社が新興国に外資として進出しているのです。
しかし、ベトナム株のインデックスファンドが組み入れているのは、あくまでも自国製薬会社の株式であって、ロシュやファイザー、ノバルティスの株式ではありません。ということは、ベトナム経済の成長と、ベトナムインデックスの値動きは決してイコールではないことになります。ベトナムのインデックスファンドを買った人は、ベトナム経済そのものを買ったつもりになっていますが、実態としては、そうなっていないわけです。
このように、新興国はまだまだ上場している産業にも偏りがあり、その国の株式市場がその国の経済全体を反映しているわけではないのです。
もし、どうしても外国の成長を直接享受したいと考えるなら、私はニューヨーク・ダウのインデックスファンドを買ったほうがいいと思います。というのもニューヨーク・ダウを構成している銘柄は、インテル、マクドナルド、P&G、ジョンソン&ジョンソンというように、グローバル企業ばかりだからです。
伊井 哲朗
コモンズ投信株式会社 代表取締役社長/最高運用責任者
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