
資産を守り安定的な運用を考えた場合、かつては国際分散投資が極めて重要な手段でした。しかし、グローバル化が進展した現在、運用の現場ではその効果を感じにくくなっています。ここでは、国際分散投資の有効性が下がっている理由と、「時間的分散」のメリットについて考察します。※本記事は、コモンズ投信株式会社代表取締役社長兼最高運用責任者の伊井哲朗氏の著書、『97.7%の人が儲けている投資の成功法則』(日本実業出版社)より一部を抜粋し、長期投資を成功させるポイントを解説します。
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グローバル化が進展し、世界中の連動性が強くなると…
「分散投資」には、積立投資による時間分散のほかに、異なる会社や、異なる国・地域に分散投資するという考え方があります。
同じ株式市場に投資するにしても、日本の株式市場だけに投資するのではなく、たとえば米国やイギリス、フランス、ドイツ、中国、インドネシア、シンガポール、中南米諸国というように、さまざまな国・地域に分散投資することによって、特定の国・地域で株価が急落しても、他の国・地域の株価が下落していなければ、あるいは上昇していれば、株価下落リスクを軽減できるはず、という考え方です。
この国際分散投資は、私が新入社員として証券会社に入社したときも、いちばん大切な考え方として学びました。資産を守り安定的な運用を考えると極めて重要な手段でした。しかし、この20年くらいでグローバル化が加速度的に進展し、金融市場も世界中の連動性がとても強くなりました。企業のビジネスもどんどん国境を超えていますし、インターネットの世界では、もっと簡単に国境を越えられるようになりました。こうした時代の変化に、国際分散投資による効果は得られ難くなってきました。
近年の事例をみてもその傾向は顕著です。リーマンショックのときは強烈でしたが、震源地米国の株が急落するやいなや、瞬く間にその勢いは伝播して世界中の株が暴落しました。その後のギリシャショック、チャイナショック、そして記憶に新しいイギリスの国民投票でブレクジットが確定したときも同様に、それぞれの国の株価下落を震源地にして、その影響は世界中の株式市場に波及していきました。
グローバル分散投資が有効に機能したのは、それぞれの国が独自に自己完結的な経済活動を行なっていた時代のことです。しかし、経済活動におけるグローバルなつながりは、ここ20年くらいで急速に強まってきました。いわゆるグローバル・サプライチェーンの確立によって、経済は国内自己完結型ではなくなったのです。
たとえば米国のアップルなどは、その代表例でしょう。アップル社の製品は米国内で生産されていません。アップル社の製品のパーツは日本の部品メーカーから調達し、製品の組み立ては台湾や中国で行なわれています。アップルに限らず、このようにグローバルなサプライチェーンを持つ巨大企業はたくさんあり、それが国境を超えた経済的なつながりを一層強めています。
したがって、たとえば米国の景気がスローダウンしたら、日本や中国、台湾の景気も後退しかねないのです。
注目すべきは「時間的分散」によるリスク軽減効果
このように実体経済面においてのつながりが強まっていることに加え、インターネットの発展によって地球の裏側で起こった出来事までもが、瞬時に世界中に伝達されるようになったことも、グローバル分散投資が有効に機能しなくなった要因です。
たとえば米国で景気減速懸念が強まり、株価が大きく売られたらどうなるでしょうか。米国で巨額の資金を運用している機関投資家のなかには、これ以上、損失が膨らまないように、株式などのリスク資産の圧縮に動きます。こうした機関投資家はグローバル運用をしていますから、米国の株価急落で米国株を売却するだけでなく、日本や欧州、新興国の株式も売却します。結果として、世界中の株式市場が米国株の下落に連動して売られることになります。
同じことは、他の国にも当てはまります。中国経済がいま以上にスローダウンしたら、イギリスがEUから合意なき離脱をしたら、北朝鮮が再び核開発を推し進めたら、やはり震源地となる国だけでなく、世界的に株価は急落するでしょう。
さらには、AIなどのプログラミング売買が、機械的にこうした動きを増幅させる傾向になってきています。
国際分散投資が有効に機能しないのではないかということは、まだ、統計的なデータとして実証されているわけではありません。しかし、運用の現場にいる者として、最近とくにそのことを実感するケースが増えています。分散投資は、資産運用のリスクを軽減させる有効な手段と考えられてきましたが、少なくとも国際分散投資については、その有効性について再考する余地があるのかもしれません。逆にいえば、だからこそ国・地域の分散ではなく、時間的分散、つまり積立投資のリスク軽減効果に注目するべきだとも思うのです。
伊井 哲朗
コモンズ投信株式会社 代表取締役社長/最高運用責任者
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