総合不動産企業・株式会社イーミライ・ホールディングスの代表取締役である福本啓貴氏が、不動産鑑定価格の評価方法や、不動産鑑定士を脅かす「依頼者プレッシャー」の実態について解説します。

「不動産鑑定価格」を算出するための3つの方法

「不動産鑑定評価」と呼ばれる不動産価格の求め方があります。鑑定評価とは「不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること」であり、国家資格である不動産鑑定士(不動産鑑定士補も含む)のみが、不動産鑑定業者の業務として、行うことができます。

 

具体的な評価方法等については国土交通省が作成している不動産鑑定評価基準で定められており、以下のように①原価法、②取引事例比較法、③収益還元法の3種類があります。

 

①原価法

 

不動産の価格を判定する時点で、評価対象となる不動産を再び一から作り直すとすればどれだけのコストがかかるかを求め、その価格から、対象不動産の建築後から現在に至るまでの間に目減りした価値を差し引いて現時点の試算価格を求める方法。

 

②取引事例比較法

 

収集した多数の取引事例の中から適切な事例を選択し、その取引価格に必要に応じて補正・修正を加えたうえで、対象不動産との関係で地域的、個別的な要因を比較して求められた価格を比較考量して、対象不動産の試算価格を求める方法。

 

③収益還元法

 

対象不動産が将来生み出すことが期待される純収益の現在価値の総和を算出することにより、対象不動産の試算価格を求める方法。収益還元法には不動産から得られる特定期間の純収益を一定率で割り戻すことによりその価値を求める直接還元法と、不動産の保有期間中に得られる純収益と期間満了後の売却によって得られる予定の価格を現在価値に割り戻して合算するDCF法の二種類がある。

 

鑑定評価を行うにあたっては、これら①から③のすべてを適用するのが原則となっています。

「不動産鑑定評価基準」では、さらに4つの価格を算出

さらに、不動産鑑定評価基準では、①正常価格、②限定価格、③特定価格、④特殊価格という4つの価格の概念が定められています。それぞれの意味は次のとおりです。

 

①正常価格

 

市場性を有する不動産について合理的な自由市場があったならば、その市場で成立するであろう適正な価格

 

②限定価格

 

市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合または不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市場価値を適正に表示する価格

 

③特定価格

 

市場性を有する不動産について、法令等による社会的要請を背景とする評価目的の下で、正常価格の前提となる諸条件を満たさない場合における不動産の経済価値を適正に表示する価格

 

④特殊価格

 

文化財等の一般的に市場性を有しない不動産について、その利用現況等を前提とした不動産の経済価値を適正に表示する価格

 

不動産鑑定評価では、原則として①正常価格を求め、必要に応じて②~④を求めます。

「依頼者プレッシャー」に悩まされる不動産鑑定士

なお、不動産鑑定士が不動産鑑定評価を行う際に、依頼者が評価をつり上げたりあるいは引き下げようと“圧力(依頼者プレッシャー)”を加えてくることがあり、高度の公正さが求められる不動産鑑定評価のあり方を歪めるものとして問題視されています。

 

この“依頼者プレッシャー”の発生を未然に抑止するための対応策として、日本不動産鑑定士協会連合会は、平成24年から「依頼者プレッシャー通報制度」を実施しています。

 

その名称が示すように、“依頼者プレッシャー”があった場合に、鑑定業者または不動産鑑定士から、日本不動産鑑定士協会連合会への通報を義務づけ、同会において審議のうえ、依頼者や監督官庁等にその旨を通知・通報する制度です。通報が求められている「依頼者プレッシャー」の項目としては次のものがあげられています。

 

①評価内容に関する事項

 

・一定の不動産鑑定評価額の要請や誘導

・妥当性を欠く評価条件の設定

 

②評価業務に関する事項

 

・評価内容に影響を与える低廉報酬に関するプレッシャー

・著しく短期間での評価スケジュール

 

もっとも、このような対策だけでは“依頼者プレッシャー”を防ぐことは難しいらしく、2017年7月5日付朝日新聞の「不動産鑑定、政治家や企業の圧力排除へ国交省が対策」と題された記事の中では「国交省が公認会計士や税理士らに行ったアンケートでは、65%が依頼者に都合の良い鑑定評価額となっている可能性も否定できないと回答した」と伝えられています。

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    福本 啓貴

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