個人投資家はプロにはかなわない、と感じている方は多いと思います。でも個人投資家には、プロにはできない「強み」があります。今回はその強みを株式投資に生かすための方法をお伝えします。
プロと個人投資家の違い
株式投資をしている投資家の中には、投資信託を運用するファンドマネージャーや、年金・保険資金を運用する機関投資家といった、「プロ」の投資家も大勢います。
彼らは、投資が本業ですから、銘柄分析にかけることができる時間も豊富です。プロ独自の情報ルートに基づいた大量の情報を使って分析することもできます。そして頭脳という面でも非常に優秀です。
これに比べ、筆者も含めて個人投資家の多くは別に仕事を持っていますから投資に対してなかなか時間を費やすことはできません。さらには使える情報にも限りがあります。
こうしてみると、やはり「プロにはかなわない」、と思うのも無理はありません。
「長期保有できること」は個人投資家の強みか?
これに対し、個人投資家は「長期保有できること」が強みだ、という方も多いです。
プロは常に四半期単位、年間単位でプロ同士の競争にさらされているのが現実です。そのため、たとえ自分が「3年後、5年後に大きく上昇するはず」と思っていても、今年1年の運用成績が悪ければクビになってしまいます。自然と目先の利益を追求するような運用になってしまいがちです。
でも個人投資家は、1年単位で成果を求められることはありません。良い銘柄だと思えば、それが1年、2年は上昇しなくとも、じっくりと長期間保有を続けることで、長い目でみた株価の大きな上昇を享受することができます。
これが、個人投資家の強みは「長期保有できること」と主張する方の論拠です。
確かにこの考え方は、長期的に株価が右肩上がりの上昇を続けていた、30年前のバブル崩壊までは正しかったかもしれません。
でもバブル崩壊後の日本株は右肩上がりの上昇とはならなくなってしまいました。良い銘柄だと思っても、その判断が誤っていれば、長期保有すればするほど株価が下落し、資金を大きく減らしてしまうことにもなりかねません。
現に、バブル時期に買った株の株価が一向に上がらず、30年間も塩漬け状態のまま持ち続けている、という方は今でも大勢います。
ですから、長期保有できることは必ずしも個人投資家の強みとは言えない、というのが筆者の見解です。
プロが決してかなわない、個人投資家の本当の「強み」とは?
では、個人投資家にとって、プロには決して真似できない本当の強みとはなんでしょうか?
それは、「小回りがきく」ことです。具体的に言えば、買いたいときにいつでも好きなだけ買え、売りたいときもいつでも好きなだけ売ることができる、という点です。
プロ投資家は、非常に多額の資金を運用しています。そのため、小回りをきかせた運用ができないのです。
たとえば、1000億円の資金を運用している投資信託が、リサーチにより有望な銘柄を見つけたとしましょう。そして、この銘柄を全資金の1%、10億円組み入れることに決め、早速買い始めることとしました。
でも、10億円分の買い注文を1日にまとめて出すと、それだけで株価がストップ高買い気配になってしまい、買うことができません。そのため、投資信託は数日~数カ月をかけて少しずつ買い注文を出し、10億円分を買い付けていく必要があります。その間、株価が上昇してしまうこともあるでしょう。でも、まとめて買うことができないのですから仕方ありません。
個人投資家なら、買いたい株を一度に買える
一方、個人投資家であれば、資金の量が小さいですから、「この銘柄に投資しよう!」と決めたら、買いたい株数を一度にまとめて買うことができます。
もし、その後株価が順調に上昇したとしたら、投資信託が長期間かけて買い集めるよりも買い単価が低くなるはずです。つまり、プロよりも安く買うことができる可能性が高いのです。
その逆も同様です。投資信託が1,000億円のうち10億円を組み入れている銘柄を、業績に陰りがみえてきたので売却しようとしても、一度に売ればストップ安売り気配で売ることができません。そこで、時間をかけて少しずつ売却していきますが、この間に株価が大きく下がってしまうこともあります。
でも個人投資家なら、一度に保有株の全部を売ることができます。もしその後、株価がさらに大きく下がったならば、投資信託よりも高い株価で売ることができた、ということになります。
このように、個人投資家は一度に必要な数量を買ったり売ったりできるという「小回りの良さ」があるため、プロに比べて安い株価で買い、高い株価で売ることができる可能性が高いのです。
「危ない」と思ったらすぐキャッシュに換えることもできる
もう1つは、危機的状況の際の対応です。株式投資を長年続けていると、「あれ?ちょっと雲行きが怪しいなあ」と直感的に感じることがあります。今までとは異なる株価の動きが突然生じたような場合です。
こんなとき、個人投資家であれば、「ひとまず保有株を売って様子を見よう」ということができます。その後、仮に株価が急落したとしても損失を小さくすることができるように、キャッシュの比率を高めておくのです。
株価がそこから急落したら正しい判断だった、ということになりますし、株価が堅調な動きに戻ったのであれば、「気のせい」ということで再度買い直しをすることかできます。
でも、プロはこのようなことはできません。多額の資金を運用しているので、一度に売り注文を出すことができないからです。
そのため、投資信託では相場環境が悪化した場合、景気の悪化による業績の変化が小さく、株価が相対的に下がりにくいディフェンシブ銘柄に資金をシフトさせることで急場をしのぐケースが多いです。
それでも、株価が急落するような状況の時は、株式を保有しているよりキャッシュに換えておいたほうが安全です。個人投資家はそれができますが、プロにはできないのです。
このように、実はプロよりも有利な点もあるのが個人投資家です。プロにはできない「小回りの良さ」を味方につけ、ぜひプロよりも高い運用成果を目指してみてくださいね。
足立 武志
足立公認会計士事務所
※本記事は、2017年11月16日に楽天証券の投資情報メディア「トウシル」で公開されたものです。