真面目で誠実という「経営者の鑑」のような社長であっても、事業がうまくいっているとは限りません。本連載では、週6日遊びながらも会社を成長させ、70億円の資産を築いた筆者が、「社長が遊ぶほど会社が儲かる」理由と仕組み、「遊びのメソッド」について解説します。今回は、本業の調子がよい時にこそ本気で新事業に取り組むべき理由について見ていきます。

時世に合わなくなったら「創業事業」でも転換が必要

筆者は常々、大企業の経営“論“や、大経営者の正“論“は、中小企業の経営にはほとんど役に立たないと思っています。ただし、過去の“事実“は別です。ひとつの企業が、経営上のどんな課題にあたり、それをどんな発想で乗り越えたかという現実の歴史からは、企業規模にかかわらず、共通して学べることがあります。

 

社会環境というのは、常にダイナミックに変化しています。それに対応していかねば、大企業であっても破たんが待っています。今の事業が、「もはや時代に合っていない」とうすうす感じている経営者もいるかもしれません。その感覚にふたをしてしまえば、もはやそれまで。その事業と心中していくことになります。本書(『社長が遊べば、会社は儲かる ―週6日遊んで70億円の資産を築いた経営者のストーリー―』)第1章で述べた通り、例え創業事業であっても、時世に合わなくなったと感じたら潔く撤退し、新たな事業を展開しなければいけません。

 

わかりやすい例を挙げましょう。時代の残酷さから目を背けることなく、現実をしっかり受け入れて対応した企業があります。それは、富士フイルムです。

 

富士フイルムはもともと日本トップのフィルムメーカーであり、フィルム事業のピークであった2000年度においては、全体の利益の20%を、フィルム事業が担っていました。また、フィルムが売れれば、撮影した写真をプリントするための現像液や印画紙の売り上げも伸びていきます。売り上げの70%近くは、フィルムとその関連事業で占められていました。富士フイルムにとってのフィルムは、ホンダでいえば車、JRなら鉄道にあたるほどの、根幹事業だったのです。

 

ところが、デジタルカメラの登場により、世界は一変しました。利便性においても、将来の可能性においても、フィルムよりも明らかに優れた次世代技術の登場で、フィルム市場は遅かれ早かれ縮小を余儀なくされるのは間違いない状況でした。それが見えていたとしても、自社の根幹を成している創業事業をたたむというのは、大きな決断です。

 

大企業ほど、方向転換が難しいものですが、富士フイルムでは、いち早く事業の転換を決定。フィルム開発の過程で身についたナノテクノロジーの技術を化粧品開発に用いるなど、過去に培ってきた技術を、医療分野や化粧品開発といったまったく違う領域に転用した結果、華麗なる転身を果たしたのです。

 

大企業でもそれができるのですから、よりフットワークの軽い中小企業にできないはずはありません。経営者の「鶴の一声」で、新たな船出をするのはいつでも可能です。これまでの常識にとらわれず、未来を冷静に見つめて、必要ならどんどん新規事業を手掛け、会社を改革し続けるのが、今後の中小企業の経営者の、あるべき姿だと筆者は考えています。

本業の調子がいい時こそ「新規事業」を始める

新規事業について、中小企業の経営者は特に「なんとなく」で考えている人が多いように思います。

 

「なんとなく、将来必要にはなりそうだ」

「なんとなく、探しておいた方がいいかもしれない」

「いい話があれば、なんとなく考えてみよう」

 

このような漠然とした意識では、いつまで経っても新規事業は始められません。余裕がある時こそ、必要に迫られていない時こそ、新規事業を本気で始める最良のタイミングです。そこに十分な投資ができる資金もあるでしょう。

 

逆に、新規事業を探す際にやってはいけないのは、「必要に迫られて」探すことです。「本業が落ち目になってきたから、他で挽回しなければ」という状況に追い込まれると、新規事業の将来性をじっくりと見定める余裕もなく、かつそこに充てる満足な資金もありません。中途半端な状態にもかかわらず、すがる思いで見切り発車をして、失敗してしまうという例は、枚挙にいとまがありません。

 

中小企業が置かれている状況は依然、厳しいですが、そんな中でも着実に成功を収めている企業はもちろんあります。そうして堅実に成功している経営者が陥りがちな罠として「うちの業態は安定しているから大丈夫」という慢心があります。

 

経験者は、バブルを思い出してください。あれほどの好景気で、断っても、断っても仕事があったのに、たった一年ほどで、一気に仕事が蒸発し、倒産の危機に追い込まれる……。そんなことが現実にあると、予想していた人はほとんどいないのではないでしょうか。しかし実際に、それは起きたのです。バブル期のような大きな「追い波」が来ていると、経営者にはおごりが生まれ、危機感を忘れがちです。しかし、景気がいい時だからこそ、業績が悪化した場合の備えを行っておくべきです。

 

ここでいう備えとは「内部留保」のことではありません。新規事業を探し、新たなビジネスの種をまいておく、ということです。

 

筆者は日々、経営者の方とお会いしていますが、事業が順風満帆だと、本業でどうやってさらに儲けるかにばかり気を取られ、新規事業を手掛ける方には意識がいかない人が多くいます。いい時にこそ、次の手を打つ。いい時にこそ、悪くなった時を想定しておく。経営の基本でありながら、意外に実践できていないことだと思います。

遊びで築いた「信頼関係」が新規事業のきっかけに

筆者は2008年から不動産に積極的に投資し、5年間で70億円の資産を築くことができました。ただ、それは結果のひとつであり、過去にもいくつも新規事業を立ち上げ、会社の収入源としてきました。

 

創業事業である運送業以外で、現在、子会社化して手掛けているのは、ガソリンスタンド事業の「株式会社トレジャーシステム」、自動車リースおよび点検、販売などを行う「中日本自動車株式会社」、内装工事やリフォームまで行う「株式会社装芸三重」などです。また、株式会社宝輪として手掛ける事業にも、一見すると運送業とは何の関係もない、ユニークなものがいくつもあります。それらはすべて、遊びの中から生まれたものです。

 

ここでいくつかの事業の詳細と、それが生まれたきっかけを紹介していきましょう。現在の安定した収入源のひとつとなっているのが、パチンコの特殊景品業です。これまで20年ほどやってきましたが、年間1億円ほどの利益が出ています。その業務は、アルバイトが伝票を切るだけでほとんど終わり、人件費以外の経費はゼロに近いですから、大変利益率の高い事業です。パチンコ業界の景品を扱う事業は、基本的には大手に優先的に回っていき、中小企業の出る幕がなかなかありません。

 

それなのになぜ、筆者のもとにそんな仕事の話がきたのか。きっかけとなったのは、釣り仲間のひとりが、パチンコ店の経営者だったことでした。当時はパチンコ業界が、スロット台を普及させようと動いていたタイミングであり、県内事業者が合同で組合を立ち上げ、釣り仲間の経営者はその理事長に就任しました。そこで、「よければ商品業者をやってみないか」と誘われたのでした。投資額は、1億円。

 

パチンコ業界というのは不安定で、特に景品事業は、法律改正ひとつで消滅してもおかしくありません。加えて、筆者にはパチンコ業界についての知見はまるでありませんでした。それでもやってみようと思ったのは、運送業における成長がもはや「頭打ち」であることを感じていたからです。毎年、同じ程度の利益を上げ、安定していたのですが、将来的な人手不足などを考えれば、これ以上の拡大は難しいだろう。そう予測していました。

 

余談ですが、現在の運送業の人手不足は極めて深刻であり、その一方で輸送費はさほど上昇していないという悪循環に陥っています。やはり「頭打ち」になったと言わざるを得ず、多くの中小企業が薄利多売で苦しんでいます。順調な時に次の手を打っていたからこそ、筆者の会社は生き残っているのだと思います。

 

話を戻すと、パチンコの景品業を紹介してくれた仲間との信頼関係も、筆者の背中を後押ししました。同じ船で航海し、命を互いに預けた経験から、相手がどういった人間かがよくわかっていたのが大きかったです。逆に相手としても、筆者のことをよく知り、信頼してくれていたからこそ、あえて大手企業には持ちかけずに、筆者に話を持ってきてくれたのでしょう。

 

この信頼関係は、遊びを通じて育まれたものであるのは、言うまでもありません。

 

 

谷田 育生

株式会社宝輪 代表取締役社長

 

社長が遊べば、会社は儲かる ―週6日遊んで70億円の資産を築いた経営者のストーリーー

社長が遊べば、会社は儲かる ―週6日遊んで70億円の資産を築いた経営者のストーリーー

谷田 育生

幻冬舎メディアコンサルティング

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