税務署の調査結果は交渉を想定して予め上乗せしてある
銀行に加えて、多くの経営者が苦手意識を持っているのが、税務署です。
税金に関しては、「税理士にすべて任せている」という経営者は多いと思いますが、税理士は基本的に、税務署寄りの判断をするものです。万が一、税務署の監査にひっかかってしまえば、自らの評判が深く傷つくわけですから、それは当然といえます。
こうした安全重視の申告は、実は大いに会社の利益を損なっています。税金は、節約した分だけ、利益に上乗せできます。たとえば会社の純利益が5%だとすると、1億円の売り上げがあったとしても、500万円しか儲かっていない計算です。しかし、そこで100万円の節税ができたら、労せずして売り上げが1.2倍に増えたのと一緒です。事業で売り上げを1.2倍にするには、それなりの投資や企業努力が必要であることを考えれば、節税の威力がいかにすごいか、想像に難くないと思います。このように、自社の利益に直結するものだからこそ、経営者は税理士任せにはせず、自分で税務署と交渉していくべきなのです。
今でこそ、税務署はそれなりに丁寧で愛想がよくなりましたが、昔は本当にひどい態度でした。証拠もないのに犯罪者扱いされ、社員がその場にいても糾弾してくるような税務署員がたくさんいたのです。
ある時、査察が入ったという報を受けて会社に戻ってみれば、うちの社員たちは自分の机の横に立ちっぱなしで、税務署員がその机で座って作業をしているという状況でした。しかも社員に対し、我が物顔で「あれはどこだ」「これを出せ」と指示しています。
筆者はフロアの中央に行くと、拍手で全員の注目を集めた上で、こう言いました。
「今現在、立っているばかりで業務をしていない社員は、業務規程違反にあたるので、全員解雇します」
社員たちは、筆者のそうした言動に慣れているので驚きませんでしたが、慌てたのは税務署の職員です。「解雇を自分たちのせいにされてはたまらない」とばかりに、さっと立ち上がって、社員に席を譲ったのでした。
このように、無礼な税務署員に対しては、筆者は徹底して戦いました。税務署が出してくる最終調査結果は、ほぼ必ず、自分が思っているより大きな金額になるものです。そして通常の納税者であればそれに対し、「ここがおかしいのではないか」などと交渉し、「このあたりが落としどころ」として金額が決まります。
逆に言えば、税務署の最終調査結果は、納税者から文句があるのを想定した上で、あらかじめ膨らませてある可能性があるわけです。
ある時の税務調査で、筆者は最終結果に対し、「わかった、全額払う」とあえて受け入れてみました。すると税務署の職員は慌てた様子で「いやいや、一度検討したほうがいい」と言います。
「これはやはり、膨らませているな。それが後でばれると困るんだな」筆者はそう感じました。そしてそれを盾に強く出ることで、税務署員の圧力を跳ね返しました。この駆け引きにより、筆者が使える経費の幅は大いに広がりました。
税務署との「駆け引き力」は遊びの中で磨かれる
たとえばフェラーリは「お客様に何かあった時、夜中であっても最も速いスピードで駆けつける必要があるから買った」。船は「震災などで道が途絶えた場合、一台でも多くお客様のバイクを運ぶのが使命」。その時はそれで、相手の首を縦に振らせることができたのです。
なぜこんな駆け引きが有効だったかといえば、税務署員は普段から自分の方が「強い立場」にあると勘違いしており、歯向かわれることを想定していなかったからでしょう。
税務署が相手だからといって、特別恐れる必要はありません。むしろ徹底的に対峙するという気概が、譲歩を引き出します。一度そう腹をくくれば、税務調査に過敏になり、ストレスを抱えるようなことがなくなります。筆者は税務調査を楽しんでいます。
筆者はここまで、ありとあらゆる節税を行ってきました。経費の基準というのは、最高裁判所の判例などに基づいて、税務署が決めているものなのです。
たとえば、社長の乗る社用車は、「クラウンまでならOKだが、ベンツはNG」といったように、ある程度の線引きが存在しています。
しかしそれは絶対ではなく、相応の理由があれば、経費として認められます。その理由を考えるというのも、立派な節税といえます。
筆者はフェラーリや船を、「社用」として申請し、福利厚生の経費で賄うことができています。その大きな理由は、うちの会社には、「スポーツカークラブ」と「マリンクラブ」があるためです。その上で、「フェラーリや船には定期的に社員が乗り、福利厚生に大いに役立っている」というのが、税務署に対する説明でした。
そうして相手を納得させるだけの準備をしておくのが、筆者なりの節税のコツです。
こうして税務署の想定外の理由、納得せざるを得ない「奇策」を考案するには、柔軟な発想が必要です。
その能力は、会社にいては身につかず、遊びの中でこそ磨かれていきます。柔軟な発想力というのは、同じ環境にいてはいつまでたっても身につきません。違った環境の中に飛び込み、出会ったことのないタイプの人々と交流して、視野を広げることで初めて、発想に柔軟性が出てきます。
次回は、筆者が実際に税務署とどのように交渉したのかについて、その一例を示したいと思います。
谷田 育生
株式会社宝輪 代表取締役社長