前回は、「人口減少地区」の物件を高値売却する工夫を紹介しました。今回は、売却に時間がかかる「共有名義不動産」を高値かつスムーズに売却する方法を見ていきます。

「共有名義不動産」の売却が難しい理由とは?

この事例は、物件自体は非常に条件のよいものでした。都心につながる路線のある駅からは徒歩約12分で、緑あふれる緑道や公園が近くにある閑静な住宅地です。土地50坪、建物は30坪で築30年近く経っていました。

 

一人で住んでいたおじいさんが亡くなったために、遺産分割協議が行われ、この自宅物件が売却されることになったのですが、問題が一つありました。

 

なんと、この物件の所有権は、おじいさんの子ども5人の共有名義になっていたのです。これが売却にあたっての問題となりました。売却するときには、当然ですが所有権を持つ5人全員の同意が必要になります。しかし、5人のうち一人はアメリカで暮らしていて、連絡が取れない状態でした。

 

相続担当の税理士さんに頼まれて、弊社が仲介をして買い手を見つけたのですが、連絡の取れない一人の同意が取れないままでは売却がままなりません。税理士さんは大変困っていましたが、弊社も、せっかく見つけた買い手がしびれを切らして、他の物件に移ってしまうではないかと、気が気ではありませんでした。

 

結局、税理士さんがアメリカへ郵送でやりとりして同意をもらうことで、ようやく手続きが進みました。その結果、買い手が見つかってから、遺産分割協議書にサインしてもらって売買手続きに入るまで、3カ月もかかってしまいました。

 

一般的な相続手続きだと、売り手が決まってから遺産分割協議に入りますが、今回のように3カ月もかかると、お客様はキャンセルしてしまいます。今回もお客様がキャンセルをしてしまったので、最終的に弊社で買い取ることにしました。

 

それでも、売り主希望の価格での売買ができたのは、弊社自身が買い主になったために、事業としての予算と時間を把握していたからです。

 

また、今回は建物を解体(解体費等約200万円)して更地で売却するケースですが、建物の解体費約200万円分も買い主負担として、古家付きのままの売買としました。仲介会社として売り主の希望と出口の感覚を摑んでいるプロならではの取引といえます。

 

このような共有名義の物件では、5人との連絡、利害調整などのコストがかかってしまいます。しかし、不動産は相場で動くものなので、それらのコストを売り値にかぶせることができません。そのため、売却は非常に難しいものとなってしまうのです。

「プロの不動産業者」を買い手として交渉する

この物件の売買のポイントは、5人の相続人と税理士が、買い手がついてから遺産分割協議に署名をしたことです。つまり、現金化の目処がついてはじめて相続手続きを前に進めることで、相続人同士の負担を減らすことができました。

 

相続人の一人となかなか連絡がつかなかったために、時間はかかりましたが、その時間を待っていただけるような買い手(弊社)を見つけたことも、スムーズに売却できた理由でしょう。このような時間のかかる物件の場合は、個人や法人のお客様よりも、プロの不動産業者を買い手として交渉することで、スムーズに、なおかつ高く売却できる可能性が高くなります。

 

また、プロの分譲業者に売ったことで、解体費用がかからず、相続人のそれぞれが、満足のいく金額を手にすることができました。

 

共有物件の売却のキモは、交渉や調整です。このコストがバカになりません。交渉や調整がうまくいってはじめて売却が成立することを頭に入れてください。交渉・調整もコストなのです。

本連載は、2016年1月29日刊行の書籍『「ワケあり物件」超高値売却法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「ワケあり物件」超高値売却法

「ワケあり物件」超高値売却法

松本 俊人

幻冬舎メディアコンサルティング

「駅から遠い、築年数が古い、ごみ収集所が近くにある――そんな物件を持つオーナーは、高値売却の方法について頭を悩ませているのではないでしょうか。本書では、どんな「ワケあり物件」であっても優良物件に変える巧みな「演…

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