前回は、所有不動産をお金に換える「ハッピー・リセット」のメリットなどを説明しました。今回は、充実した老後を過ごすための「ハッピー・リセット」の重要性について、筆者の体験談を交えながら見ていきます。

使われないお金が貯まっていくことに意味はあるのか?

筆者が「ハッピー・リセット」を考えるようになったのは、数年前に父を看取ってからです。私の父は、料理人という昔気質の職人で、原宿にウナギ屋を開いて、家族5人を養ってくれました。

 

しかし、ウナギ屋のような客商売は、決して収入が安定しているとは言えないので、父はそのうちに貯めた小金で不動産投資を始めました。そのおかげで、うちは都内に2件のビルを持つ小地主になれたわけです。父に先見の明があったおかげで、地価の上昇の恩恵を受けることもできました。

 

そんな父ですが、2015年の2月に81歳で世を去りました。原因は脳出血です。それまでは元気で、まだ仕事などしていたのですが、ある日、突然、脳出血で倒れて、広尾の救急病院に運ばれました。その後は普通の病院に入院したのですが、元の状態に回復することなく、ほとんど寝たきりになってしまいました。とはいえ、病院にはいつまでも入院させてもらえません。

 

病院は、治る病気を治療するところですから、慢性患者のためのベッドはないのです。それに、長期入院患者の場合は保険点数が下がってしまうので、病院の経営上からも、患者を1カ月以上入院させるわけにはいかないのです。

 

病院を退院させられた父は、次は老健(介護老人保健施設)という公的施設に入りました。老健は終身入居を前提とした特養(特別養護老人ホーム)と違って、リハビリによる退去を前提とした短期入居施設ですが、その入居者のほとんどは長期入居者です。日本の介護制度の歪みがこんなところにも表れています。

 

父は老健で約3年を過ごし、そのまま亡くなりました。脳出血で倒れる前の父は、ウナギ屋を息子(私の弟)夫婦に譲って隠居生活に入っていたとはいえ、午前中だけは店を手伝って厨房に入っていましたし、ほとんどお金を使わずに暮らしていました。

 

不動産から上がる収入が多くて生活には余裕があったので、その気になれば夫婦で世界一周旅行でもなんでもできたのに、そのような楽しみはいっさい追い求めず、70歳を超えてもまだウナギ屋で働いていました。

 

倒れた父を見舞いに行くたびに、私は「この人は何のために生きてきたんだろう。他にやりたいことはなかったのだろうか」と思わざるを得ませんでした。

 

倒れる直前まで一生懸命働いていた父は、私を含めた子どもたちにそれなりの財産を残してくれました。私が同じようにすれば、財産はまた増えて、私の子どもたちに受け継がれるでしょう。そうして増えていくばかりで使われないお金が貯まっていくことに何の意味があるのでしょうか。

 

もっとも、父の場合は老健に入居したので、最後の3年間は毎月30万円の費用がかかっていました。3年間を合計すると1000万円以上の出費になったので、お金を貯めておいてよかったのかもしれません。しかし、私はそのような人生のエンディングを迎えるのは寂しいと感じます。

お金は増やすだけでなく、計画的に使うことも大事

人生を80年だと考えたときに、最初の20年は大人になるための勉強、次の20年は仕事で一人前になるための勉強、次の20年は社会に貢献してそれなりのお金を得て、最後の20年はそのお金で人生をエンジョイしなければ、何のためにそれまでがんばってきたのかわかりませんし、もったいないと思います。

 

60歳まではバリバリ働いてガツガツと稼ぐものの、60歳を超えたら、徐々に消費にシフトしていく。そのためには、ある程度お金を計画的に増やして、また計画的に使っていくことが大事です。

本連載は、2016年1月29日刊行の書籍『「ワケあり物件」超高値売却法』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

「ワケあり物件」超高値売却法

「ワケあり物件」超高値売却法

松本 俊人

幻冬舎メディアコンサルティング

「駅から遠い、築年数が古い、ごみ収集所が近くにある――そんな物件を持つオーナーは、高値売却の方法について頭を悩ませているのではないでしょうか。本書では、どんな「ワケあり物件」であっても優良物件に変える巧みな「演…

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