父親が所有するマンションを、息子家族に無料または低廉な家賃で貸与する場合、相続・贈与など税務上どのような問題が生じるのか考えてみましょう。相続税やその税務調査の実態に詳しい、税理士の服部誠が解説します。

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安価な不動産賃貸の相続税と贈与税

マンションなどの不動産を親族間で賃貸する場合に、とくに押さえておきたいのは「贈与税」「相続税」「所得税」に及ぼす影響です。それぞれのポイントは次の通りです。

 

(1)贈与税について

 

対価を支払わないで、または著しく低い価額の対価で利益を受けた場合、その利益を受けた者が、その利益を受けたとき、その利益に相当する金額を贈与によって取得したものとみなされます(相続税法第9条)。

 

たとえば、通常の家賃相場が月額20万円の父所有の物件を、月額10万円で子に賃貸借したとしましょう。この場合、上記の「著しく低い価額の対価」での貸与に該当するため、相続税法第9条に規定する「利益を受けた場合」に該当するものと思われます。

 

ただし、相続税法基本通達9-10においては、利益を受ける金額が少額である場合または課税上弊害がないと認められる場合には、強いてこの取扱いをしなくてもよいとされています。実務上も、親子間等の不動産の賃貸借に関して、それが無償または低廉な価額で行われていたとしても、贈与税を課していることは通常ありません。

 

これは、親が子に対して住宅を貸与するのは、経済的行為として行っているのではなく、親子間という特別な関係に基づいて行われるものだからです。また、貸主である親の財産を積極的に減少させているものでもないため、「課税上弊害がないと認められる」こととなり、贈与税を課税していないものと思われます。

 

(2)相続税について

 

家屋や土地は、賃貸されているかどうかによって相続税評価額が異なります。具体的には、借地借家法の適用のある賃借人に賃貸している家屋は「貸家」、その貸家が存する土地(敷地)は「貸家建付地」として扱われ、通常の家屋や土地に比べて、家屋は30%、土地は20%前後、相続税評価額が低くなります。

 

ただし、賃料が無償または固定資産税程度の使用貸借により貸し付けられた家屋については、「貸家」には含まれません。つまり、通常の相続税評価額となります。

 

そもそも、「貸家」および「貸家建付地」の評価額が通常の家屋や土地に比べて低くなるのは、借地借家法で保護されている借家権を考慮しての取り扱いです。ところが、上記のように相場が20万円の物件を10万円で賃貸する場合、使用貸借ではありませんが、親子間という特別な関係に基づいて低廉な価格で賃貸借されています。その結果、借地借家法で保護される賃貸借には該当せず、通常の家屋および土地としての評価になるものと考えられます。

 

(3)所得税について

 

土地や建物などの不動産の貸付けによる所得は、「不動産所得」に該当します。そして、その不動産所得の金額は、次のように計算します。

 

「不動産所得の金額=総収入金額-必要経費」

 

この場合の必要経費となるのは、その年の総収入金額を得るために直接要した費用の額およびその年における販売費・一般管理費、その他これらの所得を生ずべき「業務」について生じた費用の額とされています(所得税法第37条)。

 

不動産賃貸業において「業務」といえるのは、相当の対価を得て継続的に貸付を行っている場合を指すものと解釈されます。そのため、上記のように経済的行為ではなく、親子間という特別な関係に基づいて低廉な価額で賃貸借されているものについては「業務」とは考えにくく、本来の不動産所得の計算が成立しないと考えられます。

 

具体的には、親族に低廉な家賃で賃貸し、意図的に不動産所得の損失を発生させ、他の所得と損益通算を企てることなども考えられます。しかし、実務上はそのような損益通算は容認されないものと思われます。

とくに相続税・所得税には注意が必要

このように、マンション賃貸による税金の扱いも、相続・贈与の状況によって異なることがわかります。

 

もちろん、親族間で低廉な価額で賃貸借すること自体は可能ですが、とくに“相続税(不動産の評価)”および“所得税(不動産所得)”の計算については注意を払う必要があります。あらかじめ留意しておきましょう。

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

 

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本記事は、『税理士法人レガート』ホームページのコラムを抜粋、一部改変したものです。

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