各国の永住権は、大枠として5種類に分類される
各国の永住権には、大枠として次のような種類があります。
①一般永住権
主に就職などで就労、居住許可を得ている人に対して、その国での働き、生活実績をもとに申請資格が与えられます。通常その資格を得るには4~6年を要します。
②公募永住権
申請者の年齢、学歴、職歴、資産、資格や語学力などの各項目のレベルをポイント制で評価し、一定数のポイントを申請条件にしている国が多くあります。この公募永住権制度を採っている国は、イギリス、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、アルゼンチンなどです。各国とも高得点の人から順に永住権を獲得できますが、年々申請者が増え取得が難しくなっています。このうち、アメリカは抽選制もあり、アルゼンチンは任意審査といって在日大使館で書類審査と面接で審査します。
③特別永住権
公募永住権以外で、国や州などによって特別に制度化された永住権を指します。本書(『日本×フィリピンで実現する 究極のデュアルライフ』)第4章などで詳しく説明しているフィリピンの特別永住権(APRV)もこの一つで、オーロラ州独自の永住権プログラムです。
④投資永住権
海外からの投資による経済振興を狙った施策で、各国で資格申請に必要な投資額は異なります。主に起業家に対して提供されるプログラムですが、すでに起業して事業を行っている人も対象となります。
⑤配偶者(婚姻)家族永住権
永住権保有者の配偶者や家族に対して永住権を付与するものです。ファミリークラスと呼ばれ、必要性の高さから、最も取得が容易に認められます。そしてこの取得条件において、各国にあまり大きな差異はありません。
各国の永住権比較
この項では、日本人に人気のある国の永住権を比べてみます。ここに例示した条件には各国ごとにさらに細分化された規制、条件があり、いつ変更が入るか分かりませんので、詳しくは各国の大使館などに確認することをお勧めします。
❶ 米国
米国の永住権を取得すると、日本でもおなじみの通称グリーンカードが発給されます。このカードの発給承認条件は、家族、雇用、投資、コンピュータによる抽選に大別できます。
①家族が米国籍を持つもの
米国国籍あるいは永住権を持つ配偶者や親、兄弟や子供の家族が対象となります。
②自己の才能、能力によるもの
★世界的にも著名で並外れた能力を持つ人、優れた業績のある学者、研究者がまず対象となります。科学、芸術、教育、スポーツとその対象分野は幅広いです。
★高学歴者、通常マスタークラス(博士)の学位を持つ人も対象となります。各分野の専門家で米国の経済、文化、厚生部門に貢献できるということが対象条件です。
★企業の役員、管理職で米国内の親会社や支社、系列会社で活躍が期待される人を対象とします。
③投資によるもの
100万米ドル(1億1000万円)以上の投資をし、2年以内に10人以上の米国人の直接雇用が条件となります。このほかに時限立法として特定の地域内で50万米ドル以上の投資で永住権の対象となるプログラムもあります。これは特定地域の発展と雇用促進を目指す期間限定措置です。
④コンピュータによる抽選
抽選によって取得する移民多様化ビザ抽選プログラム(DiversityImmigrantVisaProgram)です。年1回抽選があり、当選すると永住権が発給されます。年間5万件の認定があると言われています。
移民率の低い地域、国ほど多く配分されるようにコンピュータによって抽選が行われます。ただし、過去5年間に5万人以上の移民を米国に送り込んだ国は対象外となります。
グリーンカード認定は年間100万件を超えるともいわれますが、トランプ大統領は国内雇用の拡大のために、大幅な縮小を目指し議論を呼んでいます。
また近年はこの永住権や市民権を放棄する人が増えているようです。その理由は、2010年に成立した外国口座税務コンプライアンス法(FATCA)により、海外資産や取引などの報告を義務付けられるようになったことです。特に永住権の場合、いかなる理由があっても1年の半分以上を米国外で過ごすと永住権剥奪の可能性がある、所得税も一般的には日本より高い、また災害や紛争など有事の際に救済される優先順位は市民権の保有者より低いといった理由も大きいと思われます。
❷ カナダ
2016年に人口が3500万人を突破したカナダは、先進国でもトップクラスの人口成長率を誇っています。最近も30万人の移民受け入れ計画を示しました。そのように多くの移住者を迎えながら、出身国や宗教に特定の偏りが生じないような戦略的な移民プログラムを実施。人種差別や暴動なども目立たず、国民の多様性の実現を目指し巧みな移民政策を取っています。他の国と同様な市民権や永住権保持者の家族を対象とした永住権付与のほか、次の人が対象となります。
雇用による取得
次の種目がありますが、いずれも一定の語学力と就労経験など、経済的に自立できる能力が求められます。
●技能移民(Federal Skilled Worker Program=FSW)
国内外問わず指定の専門的な知識や技術を要する職での就労経験が1年以上ある人。
●技能トレード移民(Federal Skilled Trade Program)
技能移民の中でも建設、メンテナンス関係、シェフなどの指定された職業に、国内外問わず過去5年のうち2年以上就労経験のある人。この対象者に求められる英語能力は高くありません。
●カナダ経験クラス(Canadian Experience Class)
カナダ国内で最低1年間、指定の専門的な知識や技術を要する職業での就労経験のある人。
●ケアギバープログラム
ケアギバーとは、子供の保育や要介護者のケアをする介護職のことを指します。過去4年間のうち2年以上の保育または介護職での就労経験が必要です。英語またはフランス語のビジネス会話(初級レベル)ができる語学力が求められます。年間2750人の枠があります。
●州ごとの永住権付与プログラム
カナダには州ごとに独自の永住権を付与するプログラムがあります。州に必要な人材を確保することが目的のため、人口が少ない州(マニトバ州、ユーコン準州など)では条件が比較的緩くなっています。
●アーティスト、アスリート、自営業者向け
アーティスト、アスリート、農業経営者などで世界トップレベルで活躍している人。一定の語学力などのポイント審査で最低条件を満たしている人が対象となります。
❸ オーストラリア
広大な国土を持つオーストラリアも積極的な海外からの移民導入で人口を獲得してきました。総人口が2400万人になった2017年は年間38万8000人が増加、そのうち60%余り、24万人が海外からの移住者によるといいます。同国の移住政策は、高度な技術、経営ノウハウなどを持ち、経済発展に寄与する人材を特に重視しています。
雇用による取得
●技術独立永住ビザ
SOL(Skilled Occupations List)に掲載されている技術職での就労経験があり、18歳以上49歳未満で一定の語学力(英語検定の一つIELTSで6.0以上)がある人。学歴や資格、就労経験などで付与されるポイント制の審査の通過を条件にしています。近年はポイントの引き上げや発給人数の引き下げにより取得が困難になっています。
●ワーキングホリデーから
ワーキングホリデー中にオーストラリア国内で雇用主を探し、スポンサーとしてサポートしてもらうことができる人。雇用されるポジションで必要なレベルの語学力がある人が対象です。
投資による取得
●一般投資家ビザ
資格条件を評価するポイント審査で最低65ポイントを有すること、申請時に55歳未満であることが必要です。自分のスキル、経験を申告する証明書(EOI)を提出し、移民局より承認を受けます。州政府・準州政府の推薦も必要です。以上をクリアした上で、150万豪ドル(1億2000万円)以上の適格投資を行い4年間継続可能なことが条件です。
●上級投資家ビザ
EOIを提出し、州政府による承認を受ける。ビザ取得後、4年間のうち160日以上の滞在が可能なこと。以上をクリアした上で、500万豪ドル(4億円)以上の投資を行うことが必要です。
●プレミアム投資家ビザ
EOIを提出し、オーストラリア貿易促進庁による承認を受けること。1年後に永住権を申請する前提で、1500万豪ドル(12億円)以上の投資が条件です。
❹ ニュージーランド
ここ数年、過去にない人口増を記録し487万人(2017年)になったニュージーランドは、海外からの移住者が、その増加の多くの部分を占めます。最近は中国、インドからの流入が多いのですが、2017年の労働党への政権交代によって移民政策に変化があり、移住者により高い技能、資産、資金力を求めるなど、永住権についても発給を抑制する傾向にあります。
雇用による取得
●技能移民ビザ
年齢が20歳以上55歳未満、健康で犯罪歴が無く、語学力が十分にあること。EOIを提出し、一定ポイント以上獲得できる人が対象です。
●起業家ビザ
起業資金最低10万NZドル(750万円)、一定の語学力、その他、ビジネス運転資金や生活資金などの証明も必要です。
投資による取得
●一般投資家ビザ
65歳以下で、事業経験年数が最低3年以上あり、申請者及び扶養家族に一定の英語力が必要です。以上をクリアした上で、300万NZドル(2億2500万円)以上の投資を行い、4年間継続して投資できることが条件です。
●上級投資家ビザ
年齢制限なし、英語力不問、事業経験不要と、どんな人でも申請できます。滞在義務も3年の投資期間のうち2年間で年間44日以上居住すれば良いだけです。以上をクリアした上で、1000万NZドル(7億5000万円)以上の投資を行い、3年間継続して投資できる人が対象です。
❺ 英国
旧英領植民地、イギリス連邦の英国臣民の移民に大きく門戸を開いた英国は、移民の増加によって人種差別や暴動を招きました。またEUの中でも経済の立ち遅れた東欧諸国などからの流入も多く、就労の機会減少を危惧する国内の労働者などの反発もあり、それがEUからの離脱の要因にもなったといわれます。これらを背景に、移住の容認、永住権付与にはその条件の厳格化が進んでいます。規制条件の変更が続いていますが、永住権の対象者に英国の経済発展への貢献を求める姿勢が前面に出ています。
雇用による取得
ビザを取得した上で合法的に5年間継続してイギリスで就労している人。労働許可ビザ保有者、投資家、報道関係者、アーティスト、高度技術者などが対象です。
長期滞在による取得
ビザの種類に関係なく、合法的にイギリスに10年以上滞在している人。あるいは合法、非合法に関係なく、イギリスに20年以上滞在している人を対象とします。
投資による取得
★100万ポンド(1億4000万円)以上を投資し、5年間継続したことが条件です(個人名義の資産が200万ポンド以上であれば、投資額を借り入れすることができます)。
★500万ポンド(7億円)以上を投資し、3年間継続した人。
★1000万ポンド(14億円)以上を投資し、2年間継続した人。
坂野 広通
Hallohallo Inc. Executive Management Group
Director
坂元 康宏
株式会社myコンサルティング
代表取締役