現状は不公平「喫煙者へのペナルティ」を強化すべき明白な理由

※ 本記事は、2017年5月30日刊行の書籍『病院崩壊』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

禁煙外来で喫煙者を減らすことは医療費削減につながる

予防医療の具体的な分かりやすい例として「禁煙外来」があります。2006年度の診療報酬改定で、タバコをやめたくてもやめられない人を対象に医療機関が実施する「禁煙外来」に医療保険が適用されたのです。ただし、敷地内禁煙を実施できていない医療機関は対象外です。病院では敷地内禁煙が義務付けられましたが、地域の事情でなぜかできない病院があるのです。

 

禁煙外来への評価は、タバコをやめたくてもやめられない状態を「ニコチン依存症」という病気とみなし、その治療に保険を適用するという枠組みです。がんの発症予防につながると考えれば、この禁煙外来への保険適用も重症化予防の一環と言えます。

 

禁煙外来の診療報酬では、日当たりの喫煙本数と喫煙年数とを掛け合わせた指数で依存度を判定します。もともとはこの値が200以上の人が対象でしたが、これだと若年の喫煙者をすくい上げることが難しいため、2016年度の診療報酬改定ではこの基準を35歳未満の人には適用しないこととされました。この基準を仮に200以下にすると、「132.5億円の医療費削減効果があると試算している」とも言われています。短期的に医療費が増えたとしても、将来がんになる人を減らせるのなら、長期的にはそれを上回る医療費が削減できるわけです。

禁煙外来よりも喫煙者には保険料率のペナルティを

医療費の発生を抑えるなら、禁煙を促すだけでなく、がんや動脈硬化、心筋梗塞等の病気を引き起こす原因とされる喫煙の規制も考える必要があります。非喫煙者の保険料率を喫煙者よりも低く設定するなどタバコ対策も強化推進すべきでしょう。医療に長年従事していますが、喫煙者と非喫煙者が同じ保険料ということに常々疑問を感じています。健診・人間ドック等を毎年行って健康に注意している人は医療費の負担で優遇されても良いのではないでしょうか。

 

世間では保険料率の引き上げは消費増税ほどにはクローズアップされません。国の財政悪化が深刻な中、社会保障を安定的に運営できるようにするには、消費税率を引き上げて財源を確保する必要があります。

 

しかし消費税率の引き上げ自体が国民になかなか理解されず、これを持ち出すだけで政権が揺らぐ始末です。ところが、医療保険の保険料率は近年約8%より約10%まで引き上げられました。これは国民の負担増に直結する話ですし、もっと注目されて然るべきでしょう。

 

わたしがこれを強調するのは、医療費の発生を防ぎながら医療の財源を確保するヒントがここにもたくさんあると思うからです。たとえば、国民の理解を比較的得られやすいと考えられる一つが、喫煙者へのペナルティの導入です。実際、民間の生命保険では非喫煙者が有利な仕組みの商品ができているようですし、これなら医療費の適正化と新たな財源の確保を同時に見込めるはずです。

 

タバコには麻薬と同じように習慣性があり、「ニコチン依存症」という病名まであります。2006年度の診療報酬改定で「禁煙外来」が保険適用の対象になったことはある意味では画期的ですが、医療保険の大切な財源を禁煙外来に使うことは非喫煙者にとって本来不公平です。そこで喫煙者の保険料率を非喫煙者より高く設定するのです。逆に非喫煙者の保険料率を安くする考えもあります。

タバコを薬機法でなぜ取り締まらないのか

タバコは発がん性物質を数多く含んでいます。これは本来薬機法で規制すべきものです。先進国の中では、タバコにかけては一番発展途上国と言える日本が、今こそ世界に先立って規制を強化すべきです。


 

発がん性の証明されていない1ミリシーベルトの放射線の被ばく量を問題にするよりは、はっきりと発がんリスクが証明されているタバコを規制するほうが先決です。

 

タバコの値上げが喫煙を減らす一番の近道であることは、諸外国で証明済みです。1箱を1000円ほどにするだけで、効果は抜群でしょう。国民の健康を守るために、タバコ生産農家に米の減反政策のような補助金を出しても良いくらいです。

 


世界保健機関(WHO)の調べでは、喫煙が原因で死亡する人は世界規模で年500万人に上り、間接喫煙でも毎年60万人が死亡しているといいます。一方、厚生労働省によると、日本国内でも喫煙者で年に12万〜13万人、家族や周りの人の受動喫煙では6800人が死亡しています。特に女性の喫煙は妊婦の流産、早産の原因にもなりハイリスクです。

 

タバコタールにたくさんの発がん性物質が含まれていることは科学的にも証明されていて、喫煙者の場合、肺がんをはじめ多くのがんの罹患率は非喫煙者の〜倍にもなるとされています。その上、喫煙に伴う動脈硬化症は心臓血管病や脳卒中なども引き起こします。

 

喫煙をきっかけにがんや心臓血管病、脳卒中などの病気になるのであれば、医療費が増えるのは当然です。逆に言うと、タバコを吸わなければ病気になるリスクが激減し、医療費を大幅に削減できることも明白でしょう。

 

国は2012年にまとめた「健康日本」(第2次)の中で、タバコをやめたい成人の喫煙率を2022年度までに12%に引き下げる目標を掲げました。これに対し、2015年の喫煙率(男女計)は18.2%となお隔たりがあります。男女別では、女性の7.9%に対し男性が30.1%と、依然として3割を超えています。また、年代別では30代が最も高く41.9%。この年代の男性は今もなお5人に2人が喫煙していることになります。

 

国が2007年に策定した「がん対策推進基本計画」では、がんによる死亡率(年齢調整後)を2015年までに2005年比で20%下げる目標を掲げましたが、結局、達成できませんでした。国の検証では、目標達成の前提となる喫煙率が下がらなかったことが未達に終わった大きな原因だとされています。

 

もっと踏み込むなら、喫煙を法律で取り締まるなど、国はもっと本気で禁煙対策に向き合うべきです。これほど明白なタバコのリスクをマスコミはなぜ大きく取り上げようとしないのでしょうか。そして国はなぜ発がん性のあるタバコ、喫煙を薬機法で取り締まらないのでしょうか。喫煙を厳しく取り締まることでタバコ税の収入が減ることを恐れているのかと勘繰りたくなります。


 

医療法人中央会尼崎中央病院 理事長・院長

医学博士。1930年生まれ。
1955年に大阪大学卒業後、フルブライト交換留学生として訪米。
インターン外科レジデントとして5年間米国留学。
帰国後、1965年より大阪労災病院にて外科医として勤めた後、1975年からは大阪厚生年金病院(現・JCHO大阪病院)にて外科部長として勤務。
1985年、叔父の経営していた医療法人中央会尼崎中央病院理事長・院長に就任。
その後も全日本病院協会常任理事・監事、日本医療機能評価機構評議員、兵庫県私立病院協会(現・兵庫県民間病院協会)理事・副会長などを歴任。
日本外科学会専門医、日本外科学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本医師会認定産業医、麻酔標榜医。

著者紹介

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