信託の成否のカギを握るのは「受託者」だが・・・
これまでの2回の連載では、事業承継・資産承継を円滑化する手法として、それぞれ「次期社長となる息子」「不動産経営に詳しい弟」を受託者とする信託の事例を紹介してきました。
どちらも「信頼できる個人」に財産の管理・運用を託すという形ですが、万が一、この受託者が不正を働いて、受益者に供すべき利益を私欲のために使ってしまったとしたら、あるいは、この受託者が亡くなり、その役目を引き継ぐ者がいなくなってしまったとしたらどうなるでしょうか。
円満に財産を引き継いでいってほしいという委託者の思いは、いとも簡単に反故にされてしまいます。信託の成否のカギは受託者を誰にするのかにある、と言っていいでしょう。
受託者を「一般社団法人」にして信託の弱点を克服
「受託者」という信託の弱点を克服する方法のひとつとして、「一般社団法人」の活用が挙げられます。一般社団法人とは、株式会社などと同様に法人格を有する団体ですが、以下のような特徴を持っています。
●「社員」と呼ばれる「人」の集合体に法人格が与えられたものである。
●社員の資格を自由に設定できる。
●社員の合意により選ばれる「理事」が実際の業務を執行する。
※「社員」とは、いわゆる「従業員」という意味で使われる一般的な用語とは全く別の法律用語です。
つまり、意思決定はメンバーの合議制によりながらも、メンバーの入れ替えに条件をつけることができ、かつ、特定の人間に実務を任せることができるという、非常に使い勝手のいい制度なのです。
では、一般社団法人を受託者にするとどのようなメリットがあるでしょうか。
まず、複数人による意思決定という原則により、横領などの不正に対する相互監視が可能になります。理事が暴走を始めたら、社員はその理事を解任できますし、一部の社員が不正を働こうとしたら、他の社員はその社員を除名することができます。
また、個人の場合と違い、社団には「死亡リスク」というものがありません。社員の誰かが亡くなったとしても、ほかに社員が2名以上いる限りは社団は消滅しません。社員の数が足りなくなった場合は、新たな社員を加入させることも可能です。
さらに、社員資格として「Aの親族であること」などを設けることにより、全くの無関係な第三者の関与を排除することもできます。「一般社団信託」により、受託者の業務の適正とスキームの安定を図ることができるのです。
前回までの「株式信託」「不動産信託」の事例では、それぞれ次のような設計ができるでしょう。
●株式信託のA社(第1回)
後継者である長男、長男の妻、X社の長年の幹部役員の3名を社員に、長男を理事とする一般社団法人に信託する。
●不動産信託のX家(第2回)
不動産経営に詳しい弟Y、長男A、長女Bの3名を社員に、弟Yを理事とする一般社団法人に信託する。
どちらの場合も、社員を3名とすることで意思決定の膠着を防ぐことができ、理事ではない社員2名は互いに利害が重ならない者とすることで、理事が自分の意思に反して解任されてしまうことも回避することができます。
一般社団法人と合わせて活用することにより、信託はよりその実効性を発揮できるのです。