収益用マンションの共同相続が「争族」に?
都市部の資産家の方によく見られるのが、「自宅以外に収益不動産(賃貸マンション、アパート、駐車場など)を所有しているが、現金資産はほとんどない」というケースです。このような方の相続においては、収益不動産を均等に遺産分割しなければならないという状況が発生することがあります。
この場合の問題について、以下のケースで考えてみましょう。
●Xさんは70歳。大手不動産会社を定年退職後、年金と賃貸マンション1棟の家賃収入で比較的裕福な暮らしをしている。
●Xさんの資産は、このマンションと自宅のみ。マンションをローンなしで購入したため、現金資産はほとんどない。
●Xさんには、すでに他界した妻との間に、長男Aと長女Bがいる。
●A・Bはともに結婚してそれぞれ自宅を持っている。Xさんは一人暮らし。
●A・Bは不仲で、いつもいがみ合っている。
Xさんは子供たちの不仲を心配し、遺言による「争族」対策を考えています。税理士の試算によると相当額の相続税がかかりそうです。納税資金は、不要となる自宅の売却で賄ってもらうこととして、残るマンションを均等に相続させる必要があります。
このマンションは立地条件がよく、まだ築浅ということもあって、今後長期に渡って高い収益性が見込めます。A・Bもそれを知っており、マンションはどちらが相続するかで揉めていたこともありました。
均等に1/2ずつ相続させるにしても、不動産を共有させてしまうと、建替えや大規模修繕の決定はもちろん、テナントとの個々の賃貸借契約も2人が共同で行う必要が出てきます。ただでさえ不動産の素人である2人が、今のような不仲の状態で、まっとうなマンション経営などしていけるでしょうか。そして将来A・Bに相続が発生した場合は、共同相続によりさらに不動産持分が細分化され、意思決定が完全に滞ってしまうことも考えられます。不動産の共有にはリスクが伴うのです。
Xさんの遺言作成は行き詰ってしまいました。
信託の活用で所有名義の一本化ができる
こんなときの選択肢のひとつとして、「不動産信託」が考えられます。
A・Bが望んでいるのは、賃貸マンションという資産と、そこから生み出される賃料収入であり、不動産の経営ではありません。運営自体は管理会社に任せることは可能ですが、不動産名義がA・Bにある限り、個々の契約などの意思決定には関わる必要があります。それを避けるためには、不動産名義という(形式的な)所有権と、賃料収入をもらうという財産権を別々にしてしまえばよいのです。
Xさんの場合、以下のような信託契約ができるでしょう。
●Xさんを委託者、不動産経営に詳しいXさんの弟Yを受託者、A・Bを受益者とする。
●Xさんの死亡を信託の効力発生条件とする。
ノウハウがあり、人格的にも親族から尊敬されているYをマンションの名義人(受託者)とすることで、日々の契約事務・管理業務は、Yの名義で適切に行うことができるようになります。名義はYの単有であるため、共有の場合のように意思決定が停滞することもありません。
A・Bは、マンションの賃料収入という利益(受益権)を享受しながら、手間のかかる賃貸業務からは解放されます。さらには、契約に定めることによって、A・B死亡後の受益者を誰にするか、Yの死亡後の受託者を誰にするか、何年後に物件を売却して現金化するかといった、将来の運営方針も事前に定めておくこともできるのです。
このように、不動産共有リスクの回避にも活用できることも、信託のメリットといえるでしょう。