息の長い好景気の裏で、休・廃業する企業も増加中
日本の景気は2008年のリーマンショック後、大きく落ち込みましたが、2012年末に誕生した第2次安倍政権の「アベノミクス」によって立ち直り、2019年1月の時点で6年2カ月となりました。これは、過去最長とされてきた2002年2月から08年2月までの6年1カ月を超えるものです。
息の長い好景気によって国内企業の業績はおおむね順調です。その証拠に、企業の倒産件数は大幅に減っています。
東京商工リサーチの調べでは、2018年の倒産件数は8235件で前年から2.0%減少。2009年から10年連続で前年を下回り、バブル景気がピークを迎えた1990年(6468件)以来の低い水準となりました。
その一方、2018年に休廃業したり解散したりした企業数は4万6724件。2016年以来、2年ぶりに増加(前年比14.2%増)し、約1万3000件だった2003年からはほぼ一貫して増えています。
[図表1]企業の倒産件数の推移
[図表2]休廃業・解散件数と倒産件数の推移
しかも、休廃業したり解散したりする多くが中小企業で、その半分は黒字だというデータもあります。
中小企業の廃業等が増えている理由は、いくつか挙げられます。ひとつは、経営者が高齢になり、体力や気力が続かなくなっていることです。
もうひとつは、「子どもに継ぐ意思がない」「子どもがいない」「適当な後継者がいない」といった後継者難です。私のまわりでも、そうした声をよく聞きます。
黒字なのに休廃業したり解散したりする中小企業が増えれば、従業員の雇用が失われ、国や自治体にとっては税収が減少し、GDPにもマイナス。中小企業の廃業そのものが、大きな国家的損失です。
最大の問題は「人手不足」の深刻化
好景気を手放しで喜べないのは、企業規模の大小を問いません。最大の問題は、先ほども触れた人手不足の深刻化です。
有効求人倍率はその時代その時代の社会情勢によって大きく上下しており、2008年のリーマンショックで翌年には0.40倍まで低下。内定取り消しや派遣切りが話題になりました。
それが2018年10月には1.62倍と約4倍に上昇。完全失業率もリーマンショック後、5%を超えていたのがいまや2.4%と半分以下になっています。
[図表3]有効求人倍率と完全失業率の推移
しかも、いまの人手不足は企業規模や業種によって、想像を超えた大きな差が生じているのが特徴です。
新卒に限ったデータ(リクルートワークス研究所「第35回 ワークス大卒求人倍率調査」)ですが、従業員5000人以上の企業の求人倍率は0.37倍と、前年の0.39倍から0.02ポイント低下しています。
逆に、300人未満の企業(中小企業)では9.91倍と、前年の6.45倍からプラス3.46ポイントと大きく上昇して過去最高です。その差は20倍を超えます。
[図表4]従業員規模別 求人倍率の推移
業種別では、さらに大きな差があります。流通業は12.57倍と、前年の11.32倍より1.25ポイントの上昇。建設業も9.55倍と、前年の9.41倍より0.14ポイント上昇しています。一方で、金融業は0.21倍、サービス.情報業も0.45倍に過ぎません。その差は最大50倍ほどにもなります。
[図表5]業種別 求人倍率の推移
人手不足になれば当然、賃金は上昇します。国が定める最低賃金はここ3年、年3%のペースで引き上げられており、大都市圏では時給1000円時代が目前に迫っています。うっかりしていると、最低賃金法に抵触する中小企業が出てきてもおかしくありません。
「働き方改革」が中小企業にもたらすインパクト
さらに、ここにきて企業経営に大きな影響を与えるとみられるのが「働き方改革」です。2018年7月に「働き方改革」関連法案が国会で成立し、2019年4月から順次、施行されることになりました。
「働き方改革」にはいくつかの柱がありますが、最も重要なのは「時間外労働の上限規制」と「同一労働同一賃金」です。
1.時間外労働の上限規制
● 月45時間、年360時間が原則
● 臨時的で特別な事情がある場合も年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間(休日労働含む)が限度
※2019年4月1日より(中小企業は2020年4月1日より)施行
2.年次有給休暇の確実な取得
●使用者は10日以上の年次有給休暇が付与される全ての労働者に対し、毎年5日、時季を指定して有給休暇を与える必要あり
※2019年4月1日より施行
3. 正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差の禁止
●同一企業内において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート、有期、派遣)の間で、基本給や賞与など個々の待遇ごとに不合理な待遇差を禁止
※2020年4月1日より(中小企業は2021年4月1日より)施行
労働基準法では1日8時間、週40時間の労働時間が基本とされていますが、これまで労使間の合意(いわゆる「36協定」)があればほとんど青天井になっていました。今回それが、週40時間を超えて可能な時間外労働が、原則として月45時間かつ年360時間となります。また、「同一労働同一賃金」は、正規雇用と非正規雇用で不合理な待遇差をなくし、多様な働き方を自由に選択できるようにするものです。
具体的には、基本給.賞与や福利厚生で不合理な差を禁止する均等待遇が義務付けられます。対象は基本給、ボーナスなど賃金のほか、教育訓練や福利厚生にも及ぶのです。
こうした「残業時間の上限規制」と「同一労働同一賃金」のインパクトは極めて大きいでしょう。まず、「残業時間の上限規制」により、中小企業でも残業を減らさざるを得ません。人員配置を含め、業務体制の大幅な見直しが必要になります。
「同一労働同一賃金」の影響はよりドラスチックです。これまで非正規社員にボーナスや各種手当を支払っていなかった企業は、賃金体系の見直しが必要になります。2018年6月に出た最高裁判決は、こうした「同一労働同一賃金」の考えを先取りするものです。
大手物流企業に勤める契約社員のドライバーが正社員に支給されている6種類の手当(通勤手当、給食手当、住宅手当、無事故手当、作業手当、皆勤手当)の支払いなどを会社に求めたところ、転勤による住宅手当以外すべて認められました。大手企業ではいち早く、非正規社員を正社員にするなどの対策を取り始めており、中小企業でも何らかの対応が避けられません。
瀬古 恭裕
株式会社鈴鹿 代表取締役