医療業界全体が人材不足の中、どのクリニックも優秀なスタッフを確保しようと懸命になっています。今回は、5つ目のポイントである「スタッフ採用」の留意点について、さらに詳しく見ていきます。

「試用期間」を設けてしっかり活用する

採用後のポイントのひとつに、試用期間を設けることがあります。2カ月から3カ月間、試用期間を設定し、採用者の勤務態度をしっかりと観察することが大切となります。

 

面接時間は約15分と短時間のため、どうしても見落としてしまう部分があります。採用したスタッフの中には、実際には医療従事者として不適格であるにもかかわらず、外面がよく、如才なくふるまうことに長けていたために、難なく面接試験をパスしてきた人が交じっている可能性もあります。

 

求人面接時、あるいは1~2週間程度の期間であれば、優等生の“仮面”をかぶり続けることができたとしても、さすがに2~3カ月となると、自然に本性が現れてくるものです。それまで勤勉に働いていたのが、2カ月を過ぎると手を抜くようになったり、遅刻することが多くなったり・・・。あるいは患者に対する接遇が良いスタッフだなと思っていたらメッキが剥がれて急に無愛想になったり、患者からのクレームを耳にするようになったり・・・。

 

こうした事実を見逃さないように留意して、試用期間経過後に、本採用をするか否かを慎重に判断するようにしていくべきでしょう。

経験者と未経験者の「配置のバランス」を意識する

オープニングスタッフの採用に関しては、他にも次のような注意点があります。

 

まず、採用スタッフについて、経験者と未経験者の配置のバランスを意識しておくと、開業後のクリニック運営がよりスムーズになるはずです。例えば、クリニック受付を3人置くような場合であれば、3人すべてについて経験者を採用することは避けた方がよいでしょう。

 

経験者の中には、以前の勤務先でのやり方や習慣からなかなか抜け出せない、もしくは抜け出そうという努力をしない人がいます。このような過去の職場の色が染みついている人は、薬品の在庫管理や発注方法について「前のクリニックではこうしていたから」などと院長の指示に従わなかったり、スタッフ間の連携においても「前の職場では、これは受付での業務ではなかったから」などとコミュニケーションが取りづらかったりします。

 

このようなスタッフばかりでは使いづらいでしょうし、ひどくストレスを感じることにもなってしまいます。経験者ばかりを採用してしまうと、それぞれが経験者としての自負を全面に主張してひとり歩きしてしまい、せっかくの新規開業にもかかわらず、収拾がつかなくなってしまいます。

 

他方で、全くの未経験者ばかりを採用するのは、「釣銭ミス等をせず、滞りなく窓口業務をこなしてくれるのだろうか・・・」あるいは「ネブライザーのセットがちゃんとできるのだろうか・・・」などと初歩的な職務を全うできるのか否かという別のステージでの不安が募ります。

 

このように、スタッフ配置については、経験者ばかりやあるいは未経験者ばかりで固めてしまうことには問題があります。そこで、ひとつの合理的な選択方法としては、たとえば受付を3人雇うのであれば、院長の指示に忠実に従ってくれそうな素直で柔軟性のある経験者を見定めて、自院のカラーに染めてしまい、残りの2人については未経験者を採用して、当該経験者が一から教えていくというやり方がよいでしょう。

診療科目ごとの留意点にも気を配る

クリニックの診療科目によっては、「求職者の住所がクリニック徒歩圏であるか否か」をチェックして、採用スタッフの中に近隣の人を含めないようにすることが求められるケースがあります。

 

例としては、泌尿器科や婦人科、心療内科が挙げられます。

 

例えば、泌尿器科においては、性病の患者も来院します。受付が同じ町内の人だったら・・・というケースや、婦人科に不妊治療で通院していて、誰にも知られずに子供を授かりたい・・・というケース、最近、夜、なかなか寝付けなくて心療内科で薬をもらっているが内緒で通っている・・・というケースなどです。

 

このような通院している事実を知人に知られたくない患者が来院することが予想される診療科目においては、クリニック近隣に居住している人は最初から選考外としておくべきでしょう。

 

この他、「スタッフ採用」の中でも、有資格者である「看護師」と「医師」の採用と雇用に関しては、一般のスタッフとは異なった配慮が必要となります。次回はこちらの問題を見ていきましょう。

本連載は、2016年4月刊行の書籍『改訂版 クリニック開業読本』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

改訂版 クリニック開業読本

改訂版 クリニック開業読本

髙田 一毅

幻冬舎メディアコンサルティング

2000年から2015年の医療機関の倒産件数は527件。経営破綻した医科・歯科クリニックの8割は破産を選択せざる得なく、再起も難しい状況です。このような厳しい状況の中でも集患に成功しているクリニックが存在するのはなぜでしょ…

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