国境の壁のための国家非常事態宣言は政治イベント

ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報・ヘッドラインを転載したものです。

 

年末年始の米国株式市場の変動要因の一つと見なされている政府機関閉鎖は、2019会計年度(18年10月~19年9月)予算案が可決したことで、当面回避される公算で市場にとってはプラス要因と見られます。予算案に盛り込まれた国境の壁予算が不十分として、トランプ大統領は非常事態を宣言しましたが、政治色が強く、市場への影響は限定的と思われます。

国家非常事態宣言:トランプ大統領、予算案に署名で政府機関閉鎖は当面回避の見込み

トランプ米大統領は2019年2月15日、メキシコとの国境に壁を建設する資金を確保するため、同国境に関する国家非常事態(National Emergency Act)を宣言しました。

 

これに合わせ、トランプ大統領は19年9月末までの政府支出を手当てする連邦政府予算案にも署名し、国境の壁の予算を巡る与野党対立で政府機関が閉鎖される事態は当面回避される公算となりました。歳出法案には壁建設予算として約14億ドル(約1550億円)が盛り込まれています。

どこに注目すべきか:国境の壁、国家非常事態宣言、法廷闘争

年末年始の米国株式市場の変動要因の一つと見られた政府機関閉鎖は、19会計年度(18年10月~19年9月)予算案が可決したことで、当面回避される公算で市場にプラス要因と見られます。予算案に盛り込まれた国境の壁予算が不十分として、トランプ大統領は非常事態を宣言しましたが、政治色が強く、市場への影響は限定的と思われます。

 

国家非常事態宣言は、戦争や大規模な自然災害からテロリストへの対応など、国の安全に関わる事態への対処を定めた行政手続きの一つです。国家非常事態法にもとづいて宣言することで、米大統領に(一定条件の下)権限の裁量を与える内容です(図表1参照)。

 

[図表1]米国の国家非常事態宣言の位置づけのイメージ

出所:衆議院資料、各種報道等を参考にピクテ投信投資顧問作成
出所:衆議院資料、各種報道等を参考にピクテ投信投資顧問作成

 

ただ、非常事態宣言をしたからといって大統領が好き勝手を出来るわけではなく、議会や、内容の適性について司法判断を仰ぐこともあります。76年の国家非常事態法の成り立ちを簡単に振り返ります。

 

 

米国では国家の危機に関して憲法では議会が戦争の宣言、大統領が軍や民兵の総指揮官と一応分けられていますが、現実には大統領は議会への事後報告、もしくは議会が大統領に白紙委任となっていました。例えばベトナム戦争は議会の宣戦布告無く開始されたとの説が一般的です。

 

ベトナム戦争の長期化への反省から、大統領の権限と議会のチェックを確認する意味で戦争権限法、国家の非常事態への対応として国家非常事態法が成立しました。

 

国家非常事態法の手続きにより、76年以降、60弱の宣言が出され、現在31の宣言(除今回の宣言)が継続中です(図表2参照)。中東和平プロセスを重視したクリントンや同時多発テロ対策にブッシュの各元大統領が宣言しています。

 

 

[図表2]継続中の国家非常事態宣言の主な内容

出所:各種報道(ABC)、Brennan Center for Justice等を参考にピクテ投信投資顧問作成 ※今回で、トランプ大統領は4件目の宣言
出所:各種報道(ABC)、Brennan Center for Justice等を参考にピクテ投信投資顧問作成
※今回で、トランプ大統領は4件目の宣言

 

過去の国家非常事態宣言は、海外のテロリストや鳥インフルエンザへの対応など外敵からの脅威に使用されることが通常です。メキシコから国境を越えた米国への脅威は、国家非常事態には説得力が弱い印象です。民主党などは法廷闘争を目論んでいるようです。世論調査を見ても議会の予算権限が大統領に移行する危険もあり、7割弱が反対で、支持は3割強でした。なお、支持はトランプ氏の岩盤支持層と重なることから、長期的な法廷闘争リスクより、共和党の支持が高い壁建設への姿勢を示すことで選挙対策を重視するという、市場より政治色の強いイベントと見られます。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『国境の壁のための国家非常事態宣言は政治イベント』を参照)。

 

(2019年2月18日)

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト

 

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ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト 

日系証券会社のシステム開発部門を経て、外資系運用会社で債券運用、仕組債の組み入れと評価、オルタナティブ投資等を担当。運用経験通算15年超。ピクテでは、ストラテジストとして高度な分析と海外投資部門との連携による投資戦略情報に基づき、マクロ経済、金融市場を中心とした幅広い分野で情報提供を行っている。経済レポート「今日のヘッドライン」を執筆、日々配信中。CFA協会認定証券アナリスト、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

著者紹介

ピクテは1805年、スイス、ジュネーブにおいて会社創設以来、一貫して資産運用サービスに従事し、運用サービスに特化したビシネスモデルを展開してまいりました。信用格付ではフィッチ・レーティングスからAA-の格付けを取得しております(2018年5月末現在)。注:上記の格付はピクテ・グループの銀行部門の債務の信用に対するもので、運用部門や運用能力に関するものではありません

1981年、日本経済や株式市場の調査を目的に東京事務所を設立しました。その後、1987年から機関投資家を対象とした資産運用サービス業務を開始、1997年には投資信託業務に参入し、運用資産総額は1.98兆円となっています(2018年12月末現在)。外資系運用機関の大手の一角として、特色ある資産運用サービスをお届けしております。

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