英国の秩序あるEU離脱の期限である3月29日まで50日をきりましたが、依然今後の動向は不透明です。1月29日の下院での動議採決を受け、2月13日を期限に臨んだEUとの再交渉も成果が無かったため、今回は報告にとどめ、採決期限を延期しました。最終的な落ち着きどころは依然不透明ですが、メイ首相の戦略には基本、変更が見られません。
メイ英国首相:離脱協定案の修正に関して報告にとどめ、採決は延期
英国メイ首相は2019年2月12日に英議会で欧州連合(EU)との離脱協定案の修正に関して報告し、EUと2月末まで協議を続ける方針を表明し、また、1月同様、離脱協議に関する議員からの提案も募り、採決する意向も示しました。
市場は、2月半ばに採決との憶測もありましたが、EU側は協定案の再交渉を拒否しているためメイ首相は修正案を示せず、結果として採決が先延ばしされたと見ています。
どこに注目すべきか:再交渉、秩序ある離脱、再国民投票、DUP
英国の秩序あるEU離脱の期限である3月29日まで50日をきりましたが(図表1参照)、依然今後の動向は不透明です。1月29日の英下院での動議採決を受けて、2月13日を期限に臨んだEUとの再交渉(北アイルランド国境に関する取り決め)も成果が無かったため、今回は報告にとどめ、採決期限を延期しました。最終的な落ち着きどころは依然不透明ですが、メイ首相の戦略に変更は見られません。
[図表1]英国のEU離脱に関連する主なイベント
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メイ首相の戦略は終始、3月の期限までにEUと合意した離脱案を議会が承認する「秩序ある離脱」です(図表2参照)。メイ政権が最も注力する戦略であり、主なシナリオの中では実現の可能性が相対的に高いと見ています。
[図表2]英国のEU離脱の主な最終的シナリオ
他のシナリオは、消去法的に可能性が低い、または低下していると見られます。例えば、世論の期待が高い再国民投票は数ヵ月といわれる準備期間の長さがネックです。仮に再国民投票となると実施は年後半が想定されます。英国は現在はEUに加盟しているため、5月の欧州議会選挙か7月の開会時点では再国民投票の結果が間に合わないことが懸念されます。したがって実現性は低下したと見られます。
残留も同様の理由で考えにくいシナリオとなりつつあります。メイ政権が独断で残留を決めるのは離脱強硬派としこりが残り考えにくく、結局、国民に問いかける再国民投票となるからです。もっとも、3月の離脱期限目前に無秩序な離脱回避のための最終兵器となる可能性は考えられます。
わずか1ヵ月ほど前にEUとの協定案は432対202の大差で議会に否決されました。議会承認に転じるには116票以上ひっくり返す必要があります。ただ現地の報道では、ひょっとすると不可能ではない、メイ首相の戦略が成功する星勘定も見られます。既に民主統一党(DUP、10議席)は離脱協定の国境に関する修正内容によりメイ首相を支持する兆しを見せています。1月の採決で反対した保守党議員もDUPが賛成なら多数の同調が想定されています。野党労働党も相当数が賛成に回る可能性が指摘されています。そのため、メイ首相は国境問題について、EUの同意なしに英国がバックストップの効力を停止する権利や、バックストップに期限を設けるなどを軸にEUと交渉を進めている模様です。
ただ、秩序ある離脱に注力する戦略は再国民投票など他の選択肢を狭め、その分、無秩序な離脱の可能性がジワリ高まっている点には最後まで注意が必要と見ています。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『途中経過でなく、最終シナリオでメイ首相の戦略を整理』を参照)。
(2019年2月13日)
梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト
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