本記事は、東京大学薬学部卒業で、現在は作家、心理カウンセラー、イラストレーターとして活躍する杉山奈津子氏の著書、『偏差値29からなぜ東大に合格できたのか』の内容の中から一部を抜粋し、東大に合格する子に育てる「苦労の与え方」と「許し方」について解説していきます。

「何をあげるか」ではなく「どんなふうに与えるか」

ある親(Aさん)は、子どもが

 

「仲良しの太郎君がディズニーランドに遊びにいくらしいから、自分も行きたい!」

 

と言い出したとき、

 

「太郎君が行くの? じゃあ、近いうちに私たちも行こう」

 

と簡単にOKの返事をし、早々に予定を立て始めます。確かに子どもは喜ぶでしょう。しかし、それだけです。別の親(Bさん)は

 

「太郎君は太郎君。うちはうちだよ」

 

とつっぱねます。いくら子どもがせがんでも「うちにはそんなお金がない」と言えば、断念せざるを得ません。子どもはガッカリするでしょう。なんでお金がないのだと泣き、太郎君を羨み、「ディズニーランドってどんなところだろう?」と想像を巡らせては行けないことに落胆します。

 

しかし、Bさんはそこで終わらせず、子どもには内緒で節約し、コツコツとお金をためました。そしてある日突然、こう言ったのです。

 

「来週、ディズニーランドに行くよ!」

 

子どもは驚き、そして歓喜します。一度は諦めていた場所に行けることになったのですから喜びもひとしおで、さぞ大はしゃぎすることでしょう。このとき、どちらの子どもの方が感情の振り幅が大きいかは一目瞭然かと思います。

 

最近はAさんタイプの親が多くなってきているようです。「大切なものは目に見えないんだよ」とは『星の王子さま』(サン=テグジュペリ著)でキツネが言う有名な台詞ですが、まさにその通りで、本当に大切なのは、子どもに「何をあげるか」(物)ではなく「どんなふうに与えるか」(体験)なのです。

 

心の底から悲しんだり、飛び跳ねるほど嬉しかったり、そんなふうにめいっぱい大きく感情を動かす機会を、可能な限りたくさん与えてあげてください。ボールは、高いところから落とすほど大きく跳ね上がります。輪ゴムも、伸ばせば伸ばしただけ勢いよく遠くに飛んでいきます。子どもも同様に、つらい経験や忍耐を知ることで、その分大きな喜びを体験することができるのです。

 

今の若者のことを「さとり世代」と呼んだりするそうです。高望みをしない、欲がない、野心がない、夢がない。そして、何でもほどほどで満足するといった、テンションが低めの気質をもつのが特徴です。もちろん若者全員がそんな性格なわけではありませんが、こういった言葉が生まれるということは、一定層は存在しているということです。

 

そういう人たちは「偏差値が低くても、自分は絶対東大に行く」なんてことは言い出さないでしょう。さとり世代でなくても、大半の人は偏差値が低ければそれに合わせた大学を志望し、大学を決めてから自分の偏差値を上げようという考え方をしません。

 

つらいことに耐えてまで目標を達成しようとする強い向上心は、すなわち上に行きたいと願う「激しい感情」のことです。普段から感情をほとんど動かしていない人間が、強い執着や意志をもつのは難しいでしょう。

 

「家に必要な物が大体あるので、わざわざ購入しようという気がしない」「ネットが普及して情報が溢れているので、自分の将来が何となく予測できてしまう」などということが「さとり化」の原因なのだそうです。

 

突き詰めれば、Aさんの子どものように「強く欲しい」と願うことがなく、「苦労して手に入れる」経験をしなかったからです。簡単に満たされてしまう欲求ほどつまらないものはないでしょう。「苦労する」、その結果「達成する」という因果関係こそが、いつまでも強く心に刻まれるのです。

 

親が、欲しいものはすべて与え、嫌なものは取り除いてあげることこそが愛情だと思い込んでしまうと、かえって子どもの可能性を狭めることになります。物をあげるばかりではなく、感情を動かす機会や体験をたくさんプレゼントしてあげましょう。

「どうにでもなれ効果」という行動心理学

目標に向かうやる気を高めたいならば、どんなときでも「自分に厳しくしなければならない」というスタイルはあまりお勧めしません。

 

行動心理学に「どうにでもなれ効果」と呼ばれるものがあります。人は、ダメなことをしてネガティブになると、さらにダメなことをしてしまいやすいのです。

 

ダイエットをしようと決めていたのに、ついつい誘惑に負けて夜中にお菓子を食べてしまうと、食べ終わった後に落ち込みます。すると、その精神的ストレスで、「もうどうにでもなれ!」という気分になり、さらに別のお菓子にまで手を伸ばしてしまうことが多々あるのです。

 

私も「毎日運動をしよう!」と気合を入れてエクササイズのDVDまで買ったにもかかわらず、たった1日やり忘れてしまっただけで、何だかやる気をなくして、結局ダラダラした生活に戻ってしまったことがありました。勉強でも、一度テスト勉強をサボって悪い点をとった生徒には「どうにでもなれ効果」が発動し、次のテスト勉強もサボってしまいがちになるのです。

 

そういうときは、誘惑に負けてしまった自分を責めたり、親が厳しく注意したりするとかえってマイナスになります。それより、思いやりを込めた慰めの言葉をかけてあげてください。

 

もし失敗に対して、「自分は意志が弱い」「どうしょうもない人間だ」と罪悪感を抱いていた場合、「誰だって自分を甘やかしてしまうことはある」「罪悪感をもつ必要はない」という「許す言葉」が有効です。そんなことをしたら、どんどんダメ人間になってしまうのではないか? と心配になるかもしれませんが、どうにでもなれ効果はストレスがスイッチで発動するということを思い出してください。

 

うつ病の人に「頑張れ」は禁句、というのはもはや常識です。ウツは頑張りすぎて心も身体も疲れきっている状態ですから、必要なのはゆっくり休んでパワーを充電する時間です。そこで「頑張れ」と励ましてしまうと、「休んでいる場合じゃない」「やるべきことを頑張らなきゃ」と焦り、何もしていない自分に対して自己嫌悪に陥ってしまいます。そのせいでせっかくたまりかけていたパワーが消費され、悪化してしまうのです。

 

それと同じように、「やってしまった」と罪悪感を覚えている人に「なぜそんなことをしたのか」と厳しく追い詰めても、余計にストレスをためて「どうにでもなれ」という気分を強めてしまうだけです。「勉強しろ」と言えば勉強しようと思えるわけではないように、厳しく叱ったからといって意志が強くなるわけではありません。意志のカを弱めている原因(この場合は罪悪感)をとってあげることで、強くなるのです。

 

カナダのカールトン大学で行われた実験では、テスト勉強をせずに悪い点をとった生徒は、許す言葉をかけてもらうと次のテストできちんと勉強するようになり、厳しい言葉をかけられると次回も勉強しない傾向があった、というデータが実際に出ています。

 

罪悪感を抱いている状態では、頭の中がストレスでいっぱいなので、自制心を取り戻すところまで手が回りません。ここでダメなことを許してあげると、ストレスが緩和され、やっと失敗に向き合う余裕が出てきます。向き合えるからこそ、失敗を糧にし、乗り越えて成長しようという「変動タイプ」のメンタルセットになれるのです。

 

「頑張らなきゃいけない」と焦ることはあると思いますが、気負いすぎるあまり、ちょっとした失敗ですべてがどうでもよくなってしまうようでは本末転倒です。「人間は失敗するもの」と許してあげることで、頑張りを邪魔するストレスを取り除いてあげることも重要なのです。

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