税務調査を録音することはできるか?
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
アメリカ永住権を取得しても、日本国籍は失われない
助手「きょ、きょ、教授~!」
教授「なんじゃ、連載初登場だというのに、のっけから素っ頓狂な声を出しおって。こういうのは最初が肝心なんじゃ。こう、ビシッと威厳と風格を持ってじゃな・・・」
助手「すみません。いま論文を書いているフリしてネットサーフィンしてたら、すごい記事を見かけまして」
教授(フリとかいうんじゃない・・・)
助手「アメリカの永住権がお金で買えるって本当ですか!?」
教授「ああ、アメリカ投資永住権EB-5のことじゃな。お主、アメリカの永住権に興味があるのか?」
助手「めちゃくちゃありますよー! 教授も知ってるとおり、僕の名前、亜留布率(アルフレート)っていうんですよ。日本じゃ浮きまくりのキラキラネームじゃないですか。でもアメリカに行けば、もう自分の名前で悩まなくて済むじゃないですか!」
教授「アル、お主にそんな悩みがあったとは知らんかったぞ。まあ名前のことはさておき、アメリカの永住権を取ることで、アメリカを自由に行き来したり、ビジネスを起こしたり、子どもをアメリカの学校に通わせたりと、いろいろなメリットがあることは確かじゃのう。」
助手「ですよね! さあさあ教授、そのイービーなんちゃらのこと、早く教えて下さいよー♪」
教授「そもそもお主は、永住権というのがどういうものかは分かっとるのか?」
助手「えーっと、イエローカードじゃなくて、レッドカードじゃなくて・・・あ! グリーンカード! グリーンカードのことですよね?」
教授「ふむ、お主にはまず、そこのところから説明する必要があるようじゃの・・・」
◆そもそも永住権って何?
永住権は国籍ではありません。つまり、永住権を取得したからといって、アメリカ国民になるわけではありません。アメリカ国民となる権利は市民権と呼ばれ、永住権と区別されます。よって、永住権を取得しても日本国籍は失われず、これまでどおり日本人として政治に参加し(選挙権)、日本の社会保障を受けられます。
また、永住権は付加される権利なので、その権利が要らなくなれば、放棄も自由に可能です。「永住権を一度放棄してしまうと、もう二度と取れなくなってしまうのか?」といったご質問を受けることも多いのですが、そのようなことはありません。実際、永住権を放棄した後に、再び永住権を申請される方もいます。
他方、市民権ではないことから、アメリカ国民として政治に参加する権利はありません。選挙権がないのはもちろんのこと、連邦政府機関や州政府機関の職に就くことや、裁判で陪審員を務めることもできません。
逆に、上記のような権利には特に関心がないということであれば、永住権で十分だということになります。日本国籍を維持したいがために、資格があっても、市民権への切替手続きをせずに永住権のままにしておく方も多くいます。
ちなみに、次の条件を満たすことで、永住権保持者は市民権を取得することができます。
◆永住権保有者の市民権取得条件
第1 滞在要件
1 18歳以上で5年以上永住権保持者として米国に滞在している
かつ(1)過去5年間、30ヶ月(2年半)以上米国外に出ていたことはない
かつ(2)過去5年間、6ヶ月以上継続する海外への渡航をしていない
または
2 両親のどちらかが既に市民権を持ってる18歳未満の子ども
または
3 18歳以上で(3年以上の市民権を持った)米国市民と過去3年間婚姻関係にあり、3年以上永住権保持者として米国に滞在している
かつ(1)過去3年間、18ヶ月(1年半)以上米国外に出ていたことはない
かつ(2)過去3年間、6ヶ月以上継続する海外への渡航をしていない
第2 市民権を移民局に提出する直近の3ヶ月間は米国の住所に居住している
第3 市民権を申請してから米国市民として宣誓を行うまで米国に居住する(*原則としては米国に滞在していることが望ましいですが、海外に出ることは可能です。ただし、海外での滞在期間が6ヶ月以上になると申請資格に問題が出る可能性があります。また、海外に出ている間に面接の通知が届いていて気が付かずに面接日に行かなければ、市民権申請が却下されてしまう恐れがあります)
第4 通常レベルの英語の読み書きや会話ができ、アメリカ合衆国の歴史、公民、政府についての基本的な知識と理解力を持つ
第5 道理をわきまえ、米国憲法の方針に理解を示している
(出典:日米ソーシャルサービス)
EB-5制定の背景には「失業率の改善」という課題が…
◆アメリカ投資永住権 EB-5プログラムの概要
EB-5は、一定額の投資を行うことで、永住権を得られるという制度です。この制度は、どのように生まれたのでしょう。
第41代アメリカ大統領のジョージ・H・W・ブッシュ(父ブッシュ)は、投資によって永住権を取得することができるEB-5プログラムという規定を作りました。1990年代のことです。
今でも有効な法律ですが、当時の内容とは相違があります。当時は、投資金額は100万ドル以上かつ、投資から2年以内に10名の米国人を雇用して初めて、永住権を取得することができるというものでした。投資金額が100万ドルからと金銭的なハードルが高いのに加え、10名の米国人を自ら雇用しなければならず、非常に利便性の悪い制度でした。そのため、EB-5を利用して永住権を取得する人は一向に増えませんでした。
そこで、ジョージ・W・ブッシュ(ブッシュ・ジュニア)政権は、EB-5のパイロット・プログラムを2003年に制定しました。米国移民局が雇用促進を目指す地域内の新規プロジェクトが投資対象となり、投資最低金額は50万ドルまで引き下げられました。投資金額が大きく減額されたのはもちろんのこと、自分でプロジェクトを立ち上げる必要がなくなったのは画期的な改正といえるでしょう。自ら会社を設立したり、従業員を雇ったりしなくても、永住権を取得できるようになったのです。参加のハードルが一気に下がったことで、EB-5パイロット・プログラムは急速に浸透し、現在では多くの人が利用するプログラムとなりました。
このパイロット・プログラムは、5年間を期限とした時限立法として定められましたが、何度も期限延長を繰り返し、現在に至っています。「EB-5」といえば、このブッシュ・ジュニア政権が制定したEB-5パイロット・プログラムを指すのが一般的です。
なぜ、ブッシュ親子は「永住権をお金で買う」という制度を作り、その後の大統領もこのEB-5プログラムの延長を続けているのでしょうか。その理由は、アメリカ大統領に常につきまとう「失業率の改善」という重要課題にあるでしょう。1人の善良な外国人が入ることによって、10人のアメリカ国民の雇用が生まれる。しかも、その資金はアメリカ政府からではなく外国から入ってくるとなれば、これほどよいものありません。さすが、アメリカらしい合理的な考え方ですね! ちなみに、このEB-5プログラムを日本も真似するべきだという意見は昔からあるようです。日本が投資永住権を新設というニュースを聞く日も、そう遠くないかもしれません。
上野 潤
弁護士法人イデア・パートナーズ法律事務所 所長弁護士
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