本記事は、ある超富裕層の運用リスクに対する考え方を見ていきます。※本連載では、ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社 代表取締役の山口聰氏に、超富裕層の資産運用のエピソードから、資産防衛のヒントを解説していただきます。

超多忙な経営者タイプが重視する「数字と直感」

住宅関連の会社を経営されているB社長は、不動産業界の最前線で長らく活躍されてきた方で、数字とストーリーを重視するスタイル。いつも忙しくされているため、お目にかかる際は結論からお伝えしなければならず、短いときには「プレゼンデーションは5分」ということもありました。

 

超多忙なB社長へのプレゼンテーションは時間勝負で、エレベーターに一緒に乗っているような短い時間でお伝えしなければなりません。少しでも話を広げると「今はこの提案中の話題に集中しましょう」となります。ビジネスにはとても厳しい方でしたが、どんなに多忙でもしっかり話を聞いてくださる懐の深さを持った方でした。

 

筆者とB様との会話を再現すると、このような具合です。

 

筆者「社長、今現在の日経平均株価指数採用銘柄の平均一株利益は●●●円です。来期には〇%の増益見込み、PERでは××%から××%のレンジで推移すると見込まれます。根拠としては (中略) 米国では金融緩和縮小開始までまだ時間がかかりそうな状況です。以上を総合すると、たとえば向こう1年以内で日経平均株価や米国S&P500指数が35%下落する事態が正当化されるためには、◎◎のような企業業績の落ち込み・下方修正や、何らかの流動性危機に発展するような事態が必要です。そのような状況に陥る可能性と期待リターンの水準を考えると、経済的合理性のあるご提案かと思われます」

 

B社長「そうですね、うちでも仕入れは2年先までほぼ計画は完了しており、工事費や人件費の上昇は始まっている。不動産業界の状況を考えれば株式市況の底堅さは実感できる。これはいい条件じゃないか」

 

投資は常に数字と直感でスピーディに判断する…まさに即断即決の方でした。

株価指数連動債で利回り5%を目指すことに…

B様は金融商品での資産運用そのものには興味はありませんでしたが、アベノミクスで大規模な金融緩和が行われた2013年ごろから、本格的に金融商品の活用を始めました。不動産市況を見通す上ですでに市場が拡大しているREITの動向を把握することの重要性と、日本経済の状況を知る上で株式市場の動きを把握することの重要性が増してきたからです。さらに外国人投資家の日本に対する見方や評価を知る上でグローバルな金融市場の動きを把握することも、非常に重要になってきていました。

 

日本や世界の金融市場の大きな動きを把握しながら、不動産投資のように年間5%ほどの利回り獲得を目指す…そのようなB社長の目的に沿う運用手段として検討を重ねた結果、いわゆる仕組債の中でも比較的ポピュラーな、「株価指数連動債」を使うことになりました。

 

仕組債とは、通常の債券にデリバティブを組み込むことで、リスクを負いつつ比較的高いリターンが期待できるオーダーメイド商品の一つです。たとえば欧米の大手金融機関が発行体となり、日経平均株価のような株価指数の変動リスクを金利収入に変換することを期待するオーダーメイド型債券の一種です。

資産の安全性と、リターンを得られる可能性を重視

B社長の金融資産運用は、本業の不動産に付随した余剰資産を活用して行われました。金融資産運用の期待リターンは不動産投資がベースで、5%程度。B社長の性格も考慮し、運用商品を変えていく必要性はないと判断し、毎月利払い日が来るようにしたり、毎年満期が来て条件の見直しができるようにしたりと、運用スケジュールの管理を行いました。

 

[図表1]利払い・満期管理の例

 

商品としては以下のようなものです。

 

・債券の発行体:欧米大手金融機関

・期間:1年

・参照指数:日経平均株価・米国S&P500指数・欧州ユーロストックス50

 ※一般的な商品組成の例だと、クーポンの支払いは3ヵ月毎が多い

 

主なリスクとしては次のようなものが想定されます。

 

・期間中にいずれかの指数が35%以上、下落すれば、元金が欠損する可能性がある

・基準日にいずれかの指数が15%以上、下落していれば、予定通りの金利が受け取れない可能性がある

・途中換金が難しい

・債券なので発行体の破綻リスクがある

 

B社長は「先進国の株価指数は、向こう1年間で、これ以上は下落しない」と思う水準を自ら設定し、そのリスクにリターンが見合えば合理的という判断をしていました。

 

一方でB社長は「たとえば期待リターンを半分程度に抑えたら、リスクが顕在化する可能性をぐっと下げることができる」とも考えていました。これは私の経験からしても超富裕層に共通の考え方です。同じリターンの額を得るためには、リスクを抑えて投資額を増やすほうが、資産の安全性とリターンを得られる可能性はぐっと上がるというものです。

 

こうしてB社長は、自らが直感的にも論理的にも受け入れられるリスクのみを取って必要なリターンだけを実現する運用に徹していました。

 

 まとめ 

いかがでしょうか。運用規模が非常に大きいことで効果的な運用につながっている側面はありますが、成功者としてのお客様の考え方には強い説得力があります。B様の資産運用のポイントを見てみましょう。

 

① 運用の目標をあらかじめ数字で明確にする

② 目標達成のためのリスクの取り方(手段)にこだわる

③ 資産の安全性とリターンを得られる可能性を重視する

 

B社長の運用方法は個人投資家としては少数派になりますが、目標達成のためにリスクの取り方にこだわるよい例といえるのではないでしょうか。

 

 

山口 聰

ペレグリン・ウェルス・サービシズ株式会社

代表取締役

 

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