先月から年初に見られた米国株式市場の下落の背景の一つに米国政府機関の(一部)閉鎖が指摘されています。現状、暫定予算の期限切れにとどまれば、影響は限定的と見られますが、債務上限期限が迫りつつある点などは気がかりです。
トランプ米大統領:国境危機で民主党に予算の通過を訴える。緊急事態宣言はせず
トランプ米大統領は2019年1月8日(日本時間9日午前)にホワイトハウスの大統領執務室から約10分間のテレビ演説を行い、メキシコとの国境警備の追加予算を議会に認めるよう求めました。
ただ、ツイッターで示唆していた非常事態の宣言による国防予算での壁建設への言及は控えました。
どこに注目すべきか:政府機関閉鎖、暫定予算、壁、債務上限
先月から年初に見られた米国株式市場の下落の背景の一つに米国政府機関の(一部)閉鎖が指摘されています。現状、暫定予算の期限切れにとどまれば、影響は限定的と見られますが、債務上限期限が迫りつつある点などは気がかりです。
まず、過去に主な(市場に影響が見られた)債務上限問題や政府機関の閉鎖に関連したイベントとして、11年と13年のケースを振り返ります(図表1参照)。
[図表1]米国短期国債(Tビル)利回りの推移
11年8月のケースでは、オバマ大統領(当時)が債務上限引き上げ期限直前の8月2日に債務上限引き上げを柱とする法律に署名しました。瀬戸際で債務不履行は回避されましたが、大手格付け会社1社が米国国債を(初めて)格下げし、その後市場が2週間程度混乱しました。
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13年10月は暫定予算の成立が遅れ、政府機関の一部が10月に2週間以上にわたり閉鎖されました。格付け会社は政府機関の閉鎖などの経済的影響として、市場の混乱もあり、10-12月期のGDP(国内総生産)成長率を(年率) 0.6%引き下げたとの推定を公表しています。
ここで政府機関閉鎖と債務上限を、現在の動きを踏まえて区別します(図表2参照)。
[図表2]米国債務上限問題に関連した主な動き
昨年12月22日より米国が直面しているのは政府機関の閉鎖です。米国は18年10月に19年度会計期間が始まりました。ただ、予算についてはメキシコとの国境に壁を設ける費用を含まない暫定予算で運営されてきましたが、21日に期限切れとなり、政府機関の一部が閉鎖となっています。トランプ大統領がテレビ演説で訴えたのも、壁建設費用を含めた予算を成立させ、政府機関閉鎖を解消する意向です。ただ、民主党のペロシ下院議長の反応を見ても過去最長に迫る政府機関閉鎖の解消に時間がかかることも懸念されます。
もっとも、政府機関の一部閉鎖の場合、利払いなど国債関連業務や、軍事などの主要業務も維持されることから、経済への影響は相当長期化しない限り小幅と思われます。
むしろ懸念は債務上限問題です。債務上限は米国国債などの債務残高の上限枠というイメージで、上限を引き上げるには議会の承認などが必要です。仮に引き上げが出来なければ国債の新規発行が止まり、債務不履行の危険が高まるからです。なお、3月1日の期限が到来しても、米財務省の資金繰り、いわゆる「特例措置」でしのぎ、債務不履行は回避されるものと思われます。ただ、この資金繰りの実態は倹約であり、その意味では財政の引き締めでもあることから景気への影響が懸念されます。
当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米国の政府機関閉鎖と債務上限』を参照)。
(2019年1月9日)
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梅澤 利文
ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト