信託における「受益者・受託者」「所有者・管理者」とは?
信託とは、「財産を持っている人(委託者)が、自分が信頼する人(受託者)に財産を託して、定められた目的にしたがって財産を管理・処分してもらい、財産から得られる利益を定められた人(受益者)へ渡す仕組み」です。
財産を預ける人のことを「委託者」と呼びます。そして、財産を預かり管理・処分を行う人のことを「受託者」と呼びます。
信託における税務上の基本的な考えは、受益者が財産の所有者になります。信託を設定すると、財産の経済的な所有者と、財産の管理者とが分断されます。
財産の経済的な所有者というのは「受益者」のことで、財産の管理者というのは「受託者」のことです。信託財産の名義は委託者から受託者に変わり、法律上、受託者が財産の所有者になります。しかし、名義が変わったといえども受託者は、単に財産を預かって管理をしているだけです。経済的には、受益者が実質的な所有者、ということになります。
税法には、「実質課税の原則」という考え方があり、基本的には、委託者から受益者へ財産の移転があったものとみなして、受益者に、課税をすることになっています。
たとえば、「信託契約」を結んで信託を設定した場合には、基本的には、委託者から受益者に、無償で財産の贈与があったものとして、委託者と受益者が同一でなければ、贈与税が課税されることになります。また、「遺言」により信託の効力が発生した場合には、委託者から受益者に、財産の遺贈があったものとして、相続税が課税されることになります。
同様に考えて、受益者の移動があった場合には、その受益者間で、信託財産の移動があったものとして取り扱われることになります。そして、信託財産から生じた収益については、受益者に帰属するものとして取り扱われるのです。
ここからは、不動産の活用による家族信託について見ていきましょう。
ハウスメーカーが「家族信託セミナー」を開催する理由
夫:新聞広告で「○○ハウス」とか「△△ホーム」とかで、家族信託のセミナーが大々的に載っていたね。
妻:なぜ、ハウスメーカーがセミナーをするのかな?
夫:家を建てる人を探しているからだろう。
妻:だけど、家族信託の内容とどのように関係があるのかな?
夫:そうだな。わかりづらいな。
妻:そうだ、セミナーに行ってみよう。
夫:とても積極的だな。
妻:善は急げ!
政府が「新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)」を出しました。
団塊世代が75歳を迎える2025年に、認知症が高齢者の5人に1人、約700万人にも上るという推計が出され、実は2012年時点で認知症予備軍を含めると800万人以上に達すると厚生労働省は発表しています。
親が認知症になると、家族でも財産の管理・処分が困難になるという問題があります。
現状では、親の預金通帳がどこにあるかを知らない人も多く、もし知っていたとしても、認知症で本人の意思確認ができないと、原則、銀行は預金の引出しや送金、解約を認めてくれません。また、介護施設に入所する資金を捻出するために、自宅を売却する事態となった場合も、本人の意思確認ができなければ司法書士が登記を受託しないので、売却自体難しくなります。
このように、土地所有者が認知症になるなど、法的な意思能力が認められなくなると、不動産の売買や有効活用が難しくなります。親の後見人が本人に代わって財産管理などを行う成年後見制度もありますが、前述した通り、この制度は資産を〝守る〟ことが主眼なので、不動産の売買や運用はきわめて困難です。
つまり、所有者が認知症になると、せっかく有効な土地活用策があっても実現できなくなってしまいます。
そこで近年、注目を集めているのが、信頼できる家族に財産の管理を託す「家族信託」の制度です。たとえば、親が長男と信託契約を結び、土地や建物などの資産である信託財産を受託者として長男に託します。受託者となった長男はそれを運用して、得た利益を受益者である親に還元します。
転ばぬ先の杖として、事前に信託契約である「家族信託」を結んでおけば、親が認知症になっても、柔軟な資産運用や相続対策が可能になります。