練習帳なら、お絵かきの延長でアルファベットを学べる
日本には、子どもがひらがなを書けるようになるための練習帳があります。「あ」「い」「う」と一語一語が大きく書かれていて、その横に薄いグレーで書かれた文字があり、子どもはそれをなぞって書くことから始め、上手にできるようになったら、初めて自分でもひらがなを書けるようになります。
英語にも同様にアルファベット練習帳があります。英語圏の小さな子どもが使うものが洋書店やインターネット書店で手に入ります。インターネットからダウンロードすることも可能です。「ABC」「練習帳」といったキーワードで検索してみましょう。
ひらがなの場合はひとマスを縦横4つに区切って全体的にバランスよく書けるようにしているものがありますが、英語の場合は縦のバランスが大切なので、5本の横線が入ったものを使うと便利でしょう。
また、子どもの好きそうな「点つなぎ」をしながら覚える練習帳もあります。例えば家のイラストがあり、屋根を表す部分が点になっていて、その点をつないでいくと屋根が表れる、といった具合です。
アルファベットだからといって、必ずしも「お勉強」である必要はありません。英語圏の子どもが使うようなイラストのたくさん入ったドリルを活用して、自分の手で鉛筆を持って文字を書くことの楽しさを覚えてもらいましょう。
「APPLEのA、BEARのB」
子ども用のドリルでは、ABCが完璧に書けるようになるまでアルファベットだけ練習するわけではありません。「APPLEのA、BEARのB」といったように子どもにとって身近な単語と結び付け、それが単語の一部を表すのだということをわかってもらうようにします。
まだ運筆力が足りない幼児の場合、アルファベットの形と、そのアルファベットから始まる単語の絵の塗り絵という形式のワークシートを使ってみましょう。
例えばアルファベットのaとapple(リンゴ)の絵、bとbee(みつばち)の絵に色をつけながら、文字の形を覚えていくのです。インターネットで「free printable alphabet coloring」と検索すると、容易に見つけることができます。
ABCを覚えるための絵本も役に立ちます。有名なものに『Dr.Seuss’s ABC』があります。Dr.Seuss(ドクター・スース)とは、アメリカの絵本作家・児童文学者で、日本ではあまり知られていませんが、英語圏の子どもなら誰もが一度はその作品を読んだことがあるのではないかという、人気作家です。
動物をモチーフとした独特のキャラクターで知られており、中でも帽子をかぶったネコのキャラクターが有名です。
『Dr.Seuss’s ABC』では、「What begins with C?」(Cで始まるものは何?)という問いかけとともに「Camel on the ceiling.」(天井のラクダ)という答えがあり、天井からぶらさがっているラクダの絵が描かれていたりします。
子どもの頭の中には、この愉快なラクダの絵とともに、Cという文字のかたちや、それを使った言葉が刻み込まれることになります。ごく簡単な英文ばかりなので、絵本の文章をそのまま書き写す練習をしてもいいでしょう。
一つひとつの文字が書けるようになったら、自分の名前をローマ字で書かせてみます。例えば「もえちゃん」と呼ばれている子どもが、自分の名前はMOEと書くのだとわかると、文字に対する興味がいっそう増してくるはずです。
お料理の手伝いや工作も、アルファベットの勉強に
ひらがなとは異なりアルファベットは幾何学形に近いため、英語圏の子どもは身の回りにあるものでアルファベットを作って遊ぶことがあります。粘土でアルファベットを作ってみたり、紙に描いて切り取って好きなところに貼ったりすることも可能です。
親と一緒にできる遊びとしては、アルファベットクッキー作りです。自分で形を作ってもいいですが、アルファベットの型抜きができる道具を使うと簡単です。
例えばYUMIという名前であればY、U、M、Iという型で抜いて焼き上げ、できあがったものを自分の名前に合わせて並べるという楽しみ方ができます。もしくは、丸く焼いたクッキーにABCの形をスタンプするタイプの型もあります。
子どもは遊びを通して、アルファベットの形を覚える
また、近くの輸入食料品店やインターネットでアルファベットの形をしたマカロニが販売されています。やや細めで一つひとつが小さいので、一般的なパスタ料理にするよりも、スープの中に入れて自分の名前を表す文字を見つけて楽しむといった趣向で使うことが多いようです。
さらに、このアルファベットマカロニは工作に使うことができます。パスタで工作というとちょっと意外な感じがするかもしれませんが、マカロニは色を塗ったりのりで貼り付けたりするのが容易であるため、日本でも古くから子どもの工作に使われている素材の一つです。色を塗った上にニスを塗ってつやのある表面を作ることもできます。
このアルファベットマカロニでHAPPY BIRTH DAYという組み合わせを作って紙に貼り付けバースデーカードを作ったり、自分の名前の頭文字を表すマカロニに色を塗り、ひもをつけてブローチにしたりすることができます。
こういった遊びを通して、子どもはアルファベットの形をしっかりと頭に焼き付けることができるだけでなく、それらを組み合わせて言葉をつくることを覚えるのです。
韻を踏む「rhyme」でリズミカルに言葉を覚える
自分の頭の中にある音を文字にすることを覚えたら、今度はどのように単語を書けるようになるかが問題です。
英語圏の子どもは、フォニックスの次に2文字からなる単語を覚えます。例えば、in、at、of、onといった前置詞や、isのようなbe動詞があります。
それから3文字からなる言葉を覚えます。英語の単語には3文字言葉がたくさんあり、次のように同じ音を含むものをグループ化していくと、次々と語彙を増やすことができます。
「-at」の音をもつもの
cat、hat、fat
「-ad」の音をもつもの
sad、bad、dad
「-en」の音をもつもの
pen、ten、hen
このように語尾の音がそろうことを「rhyme(ライム)」といい、韻を踏みながらリズミカルに言葉を覚えていくことができます。それぞれの単語の意味を表すイラストが描かれたものを見ながら声に出して単語を書いていくと効果的でしょう。
そういったイラストが描かれた練習帳も、子ども向けの洋書がある店やインターネットの英語学習サイトなどで入手することができます。
最初は身の回りの物を表す名詞から始め、徐々に形容詞や動詞を身につけていきます。形容詞を習うときは、一つひとつ個別に覚えるのではなく、「big⇔small」「long⇔short」など対義語をまとめると覚えやすいでしょう。スマートフォンやタブレットPCのアプリには、英語の対義語に特化したものが数多くあります。
お勧めしたいのは、かわいらしい動物や鳥の絵がついた「ZOOLA Opposites」や言葉合わせのゲームになっている「The Opposites」です。ZOOLAのほうが幼児向けで、The Oppositesのほうがやや高度ですが、親ががんばってやってみせると、子どもが喜んで応援してくれたり、答えを教えてくれたりします。
色を覚えるときはイチゴやリンゴ、太陽などの絵を見ながらredという言葉を書かせるようにすると、目で見た印象とともに、単語が記憶の中に定着します。動詞も、走っている絵や眠っている絵を見ながらrun、sleepといった語を覚えるとよいでしょう。動いている様子を見るには、インターネットにある動画も大変役に立ちます。
車では「英語のしりとり」で単語のつづりを記憶
単語のつづりを覚える一つの手段として、私はよく、娘と一緒に英語のしりとりをしていました。日本語のしりとりは最後の音を取って続けますが、私たちがやっていたのは、つづりの最後の字を取って次の語を始めるというものです。例えば、このような感じになります。
apple - elephant - train - nine
親が英語が苦手でも、これであれば一緒にできるのではないでしょうか。子どもが小さいうちは車で出かけることも多いかと思いますが、運転しながらでもできる、便利な遊びでした。家で行うときは英語の絵本を見て単語を探しながらやってもいいのではないかと思います。
リズムのよい英語の文章が子どもの文章力を養う
単語を文に組み立てていくうえでは、絵本や童謡の英語読み聞かせの経験が役に立ちます。英語の文の流れが頭の中に入っているので、うまく文字をそれに当てはめていくことができれば、文章として書いていくことができます。
また、マザーグースのようなリズムのよい英語の文章が、子どもの文章力を養うのに役立ちます。例えばこれは、「What Are Little Boys Made Of?」(男の子は何でできている?)という、有名なマザーグースの一節です。
What are little boys made of?
Snips and snails
And puppy-dog’s tails
Tha’ts what little boys are made of
男の子は何でできている?
ぼろきれやカタツムリ
そして子犬のしっぽ
男の子はそういうものでできている
文字と音の関係が頭に入りやすい「アリテレーション」
2行目のsnipsとsnailsの「sn」の音が語頭で韻を踏んでいます。このような語頭の韻を踏む組み合わせを「alliteration(アリテレーション)」と呼びます。
アリテレーションもライムもマザーグースやDr.Seussの得意分野で、フォニックスを指導する前に聞き慣れているだけで、文字と音の関係が頭に入りやすくなります。
そして2行目のsnailsと3行目のtailsが、「ails」と語尾で韻を踏んでいます。さらに、what little boys are made ofという言葉を繰り返すことで、子どもの頭の中にこの一節が刻まれます。
日本人が成長してから学ぶようにI+have+a+penと一語一語組み合わせてI have a pen.と書くのではなく、音のリズムを文字に乗せて書くことができるようになるのです。
なお、ABCを覚えるための絵本として紹介したDr.Seussのシリーズは、リズムとライム、文のパターンを重視していて、英語を文で書けるようになるためのよいお手本となります。
三幣 真理
幼児英語教育研究家