親子とはいえ、自身が所有する資産の話をする機会などあまりないかもしれない。しかし、将来に必ず訪れる「相続」のことを考えると、確認しておかねばならない事項はたくさんある。本記事では、親子だからこそ、生前にしっかりと確認しておきたい事項について、その理由と共に紹介する。とくに「負の財産」については話しにくい部分もあるだろうが、確実にしておきたい。

「土地の境界問題」は所有者が存命中に解決すべき

資産の話をする中で、子が気に留めておきたいことについて紹介します。子には分からない親のさまざまな「事情」についてです。親にしか分からない「事情」というのが多かれ少なかれどの家庭でも出てきます。子があらかじめ知っているのと、相続発生後に初めて知るのとでは、事態の受け止め方やその後の対処法が違ってきます。

 

たとえば、親にしか分からない事情で相続に大きく関わる一例として、土地の境界をめぐる問題があります。代々受け継いできた土地や昔に買った土地などは、「この木から手前がうちの土地、奥が隣の土地」というアバウトな決め方をしていたり、「確かおじいちゃんが隣と話し合って、ここまでと言っていたと思うけど?」などと境界がはっきりしないことが多々あります。

 

正確な土地の境界が分からなければ土地の評価額も出せないし、分割することも売却することも、相続税として物納することもできないということです。それが相続発生後に分かったら、どうでしょうか? 当然、隣の土地の所有者と協議することになりますが、こちらとしては相続税納付の期限までに早く決着をつけたいため、落ちついた話し合いが難しくなります。隣の言い分を十分に聞けなかったり、強引に境界を決めにかかったりして遺恨となる場合もあります。今後もそこに住み続けるのに、隣と仲が悪いというのは大変居心地の悪いことです。

 

土地の境界問題がある場合は、先延ばしにしないで土地の所有者同士が存命のうちに解決し、正式な書類に残しておくべきです。仮に境界の決着がつかないまま相続が発生しても、その経緯を相続人であるあなたが知っていれば、親の遺志を継いで話し合いを継続することができます。

「もらって困るもの」は事前の相続対策が必要

親しか知らない「事情」として、親が負の財産を持っている場合もあります。相続では正の財産を引き継ぐのと同時に、負の財産も引き継ぐことになります。預貯金や収益性のある不動産、貴金属、ゴルフ会員権など「もらってありがたいもの」ばかりならいいですが、ローンや借入金、利益の上がらない不動産など「もらって困るもの」を親しか知らない場合は多いのです。

 

相続財産については、図表1の一覧を参考にしてください。ローンや借入金であれば金融機関からの通知がくるので子も気づきやすいですが、気づきにくいのは借金の保証人・連帯保証人になっている場合です。親もなりたくてなっていることは少なく、あえて言いたがりません。それこそ返済義務が生じでもしないかぎりなかなか表には出てきませんが、これは保証債務と呼ばれるもので、知っておかなければならない大事な債務です。

 

【図表1】相続財産となるもの

 

連帯保証人になっていると、本人だけでなくその債務は相続人にも及びます。相続時には親の債務を確認するのはもちろん、相続とは別に自分たちもどんな理由があっても連帯保証人にはならないでください。

 

相続の手続きもすべて完了し、相続のことも忘れかけた頃になって、実は親が連帯保証人になっていて返済義務が生じていたことを後から知ったとなれば、その日から配偶者や子はどうなるでしょう? 今さら相続放棄もできず、借金の取り立てに苦しむことになってしまいます。

 

負の財産があるならあるで、子にも心の準備があります。負の財産をこしらえてしまった理由や経緯が納得いくものであれば、前向きに対処法を考えることもできます。たしかに言い出しにくいことではありますが、親には負の財産についても正直に打ち明けてもらわねばなりません。

相続の取り分は「非嫡出子」も「嫡出子」と同等

親が配偶者以外に特別な関係にあった人物(愛人など)に手切れ金としてマンションを渡していたり、プレゼントとして高額な貴金属をあげたりした場合には、それを相続財産として計上しなくてはなりません。特別な関係にあった人物の存在を知らなければ計上もできないわけですが、税務署は故人のお金の流れを詳細に把握していますから、調査が入れば一発で明るみに出ます。家族にとっては好ましくない存在のために、相続税の申告をし直さなければならないとしたら嫌なものです。

 

それ以上に注意したいのが非嫡出子(いわゆる隠し子を含む)の存在です。親が認知すれば、非嫡出子には相続権が発生するからです。

 

非嫡出子の存在が発覚すると、財産分割が異なってきます。平成25年に最高裁が出した判決により、民法の一部が改正され、非嫡出子も相続は同等となっています(図表2参照)。

 

【図表2 非嫡出子がいた場合の取り分】

 

相続人からすれば、たとえ見知らぬ子であっても、他の子と同じだけの財産を受け取る権利がありますから、相手が主張すれば分割を一から考え直さなくてはなりません。それで予定していた納税ができなくなる恐れもあるのです。

税理士は「家族に言えない事情」の扱いに慣れている

相続でこうした問題が起こることは実際よくある話です。借金や非嫡出子の問題など、親が打ち明けにくい事情を抱えている時は、子からのアプローチだけでは、不十分かもしれません。

 

そういった時には、私たち税理士を利用してください。私のところにも「実は……」といって特別な事情を相談に来られるクライアントはいます。税理士は〝税〟の専門家ですが、相続案件にかかわる中では〝特別事情〟を扱うことにも慣れています。

 

子としては、「うちの親だって家族に言えない事情の一つや二つは抱えているかもしれない」くらいの腹づもりをしておくことです。その上で、「もし僕たちに話しにくいことがあったら、税理士の先生にだけは話しておいてね」と親にひと声かけておくことをお勧めします。

 

 

大久保 栄吾

税理士法人大久保会計 税理士

 

本連載は、2014年8月25日刊行の書籍『相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと

相続貧乏にならないために 子が知っておくべき50のこと

大久保 栄吾

幻冬舎メディアコンサルティング

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