ピクテ投信投資顧問株式会社が、日々のマーケット情報を分析・解説します。※本連載は、ピクテ投信投資顧問株式会社が提供するマーケット情報のディープ・インサイトを転載したものです。

ドラギ総裁の講演は注目が高かったとは思えませんが、足元のユーロ圏の経済環境と、今後の金融政策を考える上でのヒントも含まれていたように思われます。12月13日のECB金融政策理事会や、四半期ごとのECB経済予想などで想定される動きを講演等を踏まえ、振り返ります。

ECBドラギ総裁:欧州議会講演で、改めて債券購入プログラムの停止を示唆

欧州中央銀行(ECB)のドラギ総裁は、2018年11月26日に欧州議会で講演しました。ユーロ圏経済減速の少なくとも一部は「一時的な」可能性にとどまるとの認識を示し、ECBが12月で債券購入を終える方針を再確認しました。

 

講演の後半でドラギ総裁は、ECBの金融政策を将来的に支援するために欧州通貨同盟(EMU)を完成させることの重要性などを指摘しています。

どこに注目すべきか: WLTP、PMI、ECB経済見通し、共通財政

ドラギ総裁の講演は注目が高かったとは思えませんが、足元のユーロ圏の経済環境と、今後の金融政策を考える上でのヒントも含まれていたように思われます。12月13日のECB金融政策理事会や、四半期ごとのECB経済予想などで想定される動きを講演等を踏まえ、振り返ります。

 

まず、ユーロ圏の景気動向について、ドラギ総裁は短期的な落ち込みが見られるが、中長期の回復傾向は維持しているとタカ派(金融引締めを選好)的な指摘をしています。

 

短期的減速は自動車産業に見られました。新排ガス規制(WLTP)導入前の駆け込み需要と、直後の反動減が自動車生産などを抑制したためです(図表1参照)。一方で、ユーロ圏製造業購買担当者景気指数(PMI)は過去1年ほど低下傾向で、短期的減速で片付けられない面も見られます。しかし、ドラギ総裁はユーロ圏の労働市場の回復に伴う消費の下支えや、設備投資意欲などを背景に中長期的な回復は続くとの見通しを述べています。

 

[図表1]ユーロ圏製造業PMIと欧州自動車販売の推移

月次、期間:2015年11月~ 2018年11月、自動車販売は10月迄、前年比
月次、期間:2015年11月~ 2018年11月、自動車販売は10月迄、前年比

 

資産を「守る」「増やす」「次世代に引き継ぐ」
ために必要な「学び」をご提供 >>カメハメハ倶楽部

 

次にインフレについては総合の消費者物価指数(CPI)は前年比2%前後で推移しています(図表2参照)。コアCPIは横ばいの動きですが、生産者物価や輸入価格、さらに好調な雇用市場を反映してドイツなどの賃金が上昇している点などをドラギ総裁は指摘しています。12月に公表されるECB経済予測ではインフレ率見通しの上方修正も想定されるようなトーンで、ECBの債券購入停止の公算が高まります。

 

[図表2]ユーロ圏の主なインフレ率関連指数

月次、期間:2015年11月~2018年10月、前年比 出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成
月次、期間:2015年11月~2018年10月、前年比
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成

 

ドラギ総裁のユーロ圏経済に対する見通しからは、金融緩和解除の方針は概ね維持すると見られますが、債券購入終了後もECBは債券保有を当面継続するとことを強調するなど、金融緩和姿勢も一方で示しています。ユーロ圏は国により景気回復の程度に差があり、イタリアのような金融緩和が必要な国も多いことを意識しての発言と見られます。

 

 

講演の後半で、ドラギ総裁はユーロ圏に足りないものとして共通財政政策や銀行同盟などに言及しています。一見、現在の金融政策に関係ない話のようにも聞こえます。しかし、共通財政などユーロ圏に備わっていない機能を、金融政策が(不完全かつ限界があるも)埋め合わせていることを匂わせているようにも感じられます。

財政拡大を目論むイタリアを思い浮かべましょう。景気刺激を期待するも、長期金利上昇で金融緩和の効果も半減となっています。個別の国の財政政策はECBの金融政策(今は緩和)との相性が良くないようです。であればECBは新たな長期資金供給を導入することも想定されます。ドラギ総裁の講演は、解釈次第では新たな金融政策導入の正当化のようにも聞こえます。

 

当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『ドラギ総裁の議会証言のメッセージを探る』を参照)。

 

(2018年11月27日)

 

 

カメハメハ倶楽部セミナー・イベント

 

【12/10開催】
相続税の「税務調査」の実態と対処方法
―税務調査を録音することはできるか?

 

【12/10開催】
不動産「売買」と何が決定的に違うのか?
相続・事業承継対策の新常識「不動産M&A」とは

 

【12/11開催】
家賃収入はどうなる?節目を迎える不動産投資
“金利上昇局面”におけるアパートローンに
ついて元メガバンカー×不動産鑑定士が徹底検討

 

【12/12開催】
<富裕層のファミリーガバナンス>
相続対策としての財産管理と遺言書作成

 

【12/17開催】
中国経済×米中対立×台湾有事は何処へ
―「投資先としての中国」を改めて考える

 

 

 

梅澤 利文

ピクテ投信投資顧問株式会社
運用・商品本部 投資戦略部 ストラテジスト

【ご注意】
●当レポートはピクテ投信投資顧問株式会社が作成したものであり、特定の商品の勧誘や売買の推奨等を目的としたものではなく、また特定の銘柄および市場の推奨やその価格動向を示唆するものでもありません。
●運用による損益は、すべて投資者の皆さまに帰属します。当レポートに基づいて取られた投資行動の結果については、ピクテ投信投資顧問株式会社、幻冬舎グループは責任を負いません。
●当レポートに記載された過去の実績は、将来の成果等を示唆あるいは保証するものではありません。
●当レポートは信頼できると考えられる情報に基づき作成されていますが、その正確性、完全性、使用目的への適合性を保証するものではありません。
●当レポート中に示された情報等は、作成日現在のものであり、事前の連絡なしに変更されることがあります。
●投資信託は預金等ではなく元本および利回りの保証はありません。
●投資信託は、預金や保険契約と異なり、預金保険機構・保険契約者保護機構の対象ではありません。
●登録金融機関でご購入いただいた投資信託は、投資家保護基金の対象とはなりません。
●当レポートに掲載されているいかなる情報も、法務、会計、税務、経営、投資その他に係る助言を構成するものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録