今回は、美術品や家族信託について見ていきます。※本連載は、相続業界の最大手・相続手続支援センター編の『家族が困らないために 亡くなる前にやっておきたい手続きと対策』(ビジネス教育出版)より一部を抜粋し、来るべき相続に備え生前にやっておきたい手続きと対策を事例形式でわかりやすく解説します。

相続時に費用がかかる「美術品」は生前に処分換金

【問題事例19】趣味で集めていた美術品は生前に処分換金しておこう!

 

Aさんが亡くなり、妻のBさんと長男Cさんが相続の相談に来られました。子供は他に長女Dさんがおり、相続人は3人です。財産を聞いてみると、わずかな預貯金と趣味で集めていた工芸品や絵画等の古美術品が多数ありました。ご家族の方は価値が全くわからず、処分の仕方や取扱いに困っている様子でした。

 

まずは、古美術品の評価、処分をすべく古美術商の選定を行い、鑑定書の発行を含め具体的な資産評価、処分方法等の確認を行いました。鑑定の結果、鑑定書を付ける高価な物はなかったのですが、古美術商の評価額に基づき予想外に高く処分換金することができました。

 

【問題点】

 

ご自身が趣味で集めている物の価値というものは、本人しかわからず、必ずしも他のご家族の方と共通認識にあるとは限りません。場合によっては、残されたご家族の方が価値のある物を捨ててしまったり、相続税申告において遺産に計上していないことで、税金を多く支払うことになってしまうなど不利益を被ってしまうおそれがあります。

 

注意すべきポイント

 

美術品や骨董品は相続税の対象となり、評価は鑑定によります。評価によっては莫大な相続税が課税されることがあったり、また専門家に鑑定を依頼する場合には費用がかかることもあります。相続のための鑑定費用は必要経費とはならず、控除の対象とはなりません。そこで、古美術品を趣味で集めている方の相続に関しては、十分な注意が必要です。

 

残されたご家族の方が不利益を被らないよう、生前に時期を考えて早めに処分換金しておくことが望ましいでしょう。

名義人以外でも物件を管理できる「家族信託」という手

【問題事例20】賃貸アパートの処分や建替えは登記上の名義人しかできない!

 

父Aさんは、収益物件として、十数年前にアパートを建築しました。息子Bさんの「僕がしっかりアパートを守っていかないと!」という思いから、アパートの管理を手伝ってくれており、Aさんはいずれ息子に継がせたいと考えていました。

 

数年後、Bさんがアパートの老朽化に伴い空室が目立ってきたこともあり、建替えを考えるようになりました。そんななか、Aさんは認知症を発症し判断能力が低下してしまいました。Bさんは、成年後見制度を利用しようと考えましたが、建替えは難しく、また一度後見人を選ぶと一定の事由に該当しない限り解任することができず、ずっと報酬がかかり続けることになります。

 

Bさんはただ、老朽化したアパートを何とかしたいだけで、もっと早く何か対策をしていれば、他にも選択肢はあったのでは・・・と後悔するしかありませんでした。

 

【問題点】

 

不動産の処分や建替えは、登記上の名義人しかできず、その名義人の判断能力を必要とします。成年後見制度では後見人の任務として、本人の財産が散逸してしまわないように、そのことを第一に考えないといけないため、たとえば、借入れのための担保提供、建物の建築、相続税対策のための資産贈与、不動産を売却するためだけや建替えするためだけの後見人の選任はできません。

 

注意すべきポイント

 

Aさんが認知症を発症する前に、受益権をAさんに残したままで家族信託を活用することにより、アパート賃貸収益はAさんが取得し、またAさんの代わりにBさんが賃貸借契約を結んだりアパートの売却・建替えも行ったりすることができます。一般的にあまり知られていませんが、上手く家族信託を活用することで、有効な生前対策の一つになり得るでしょう。

 

[図表]

クレジットカードは自らの手で処理・廃棄を

【問題事例21】使用済クレジットカードはハサミを入れて廃棄を!

 

父Aさんが亡くなり、長女Bさん、二女Cさんが相続の相談に来られました。相続人は子供2人です。BさんとCさんは、それぞれ家庭を持ち、実家から離れたところに住んでいました。一方、数十年前妻に先立たれたAさんは、独りで実家のアパートに住んでいたそうです。Aさんの財産は、わずかな預貯金と輪ゴムでひとまとめにした14枚のクレジットカードでした。

 

カードを一枚一枚確認してみると、使用期限がすでに切れており、同じカード会社のものも複数枚ありました。しかし、BさんCさんは、すでに使えないカードとはいえ、借金が残っているのではないかと不安な気持ちでいっぱいでした。もし、借金が多く残っていれば、家庭裁判所で相続放棄の申立てを行う考えですが、現時点では借金の有無、金額がわからず途方に暮れていました。

 

そこで、すべてのカード会社に確認の電話を行った結果、幸いにもAさんはすでに登録抹消されており、借入金は一切残っていませんでした。そのことをBさんCさんに伝えると、2人はほっと胸をなで下ろしていました。

 

その後、預貯金の相続手続きを行い無事終えることができました。もちろん、BさんCさんには、14枚の使用済みのクレジットカード一枚一枚にハサミを入れてもらい廃棄しました。

 

【問題点】

 

クレジットカードの借入れの有無は、本人しかわからないことなので、使用済みのカードは、すみやかにハサミを入れて廃棄すべきです。きちんと処分さえしていれば、残されたご家族の方が不安な気持ちにならずに済むでしょう。

 

注意すべきポイント

 

一般的に借金が多い場合、家庭裁判所での相続放棄の手続きを行いますが、3か月以内に行う必要があります。そのためには、借入金の有無の確認作業を早めに行うことが必要です。

 

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