登記未了の土地の名義変更登記は本人が手続きをする
【問題事例1】土地の名義が故人のまま
Aさんが亡くなり、妻のBさんと長男Cさんが相続の相談に来られました。子供さんは他に長女のDさんがおり、相続人は3人です。財産を聞くと、預貯金は1,500万円、自宅の土地の評価が1,200万円、建物は350万円の評価で合計3,050万円です。
しかし、問題があります。自宅の土地の名義は祖父の名前になったままで、相続登記が未了のうえ、伯父・伯母の2人に事情を話すと分割が終わっていないから3分の1ずつの権利はあると主張されました。母曰く「父は生前、自宅は自分が1人で相続したから・・・」と話していた、とのことですが・・・。
【問題点】
その事情を証明する分割協議書も書面も存在しません。
話合いの末、父の相続について、自宅の土地は多少の金銭を伯父・伯母に支払うことで了解を得て、母と同居する長男Cが相続することになり、今回はすみやかに登記を済ませました。
注意すべきポイント
①不動産の移転(相続・売却)や賃貸契約の場合には、登記上の名義人が所有者と同一でなければ移転(売却)することはできません。
②市町村等の道路拡張や土地区画整理などの収用補償代金も名義人と同一でないと受け取ることができません。
過去の相続において、登記未了の土地の名義変更登記は、その際の事情を知るご本人が手続きをとられることが大事です。
今回の場合は伯父・伯母の両名が健在で話合いもまとまりましたが、亡くなられると事情を知る者もなく、解決への道が一段と厳しくなりますので要注意です。
[図表1]
[図表2]
所有者が複数の不動産は早めに処分・登記の整理を行う
【問題事例2】兄弟などと共有している不動産
相続手続きの相談にみえたAさん(長男)は10年前に父親が亡くなり、先月、母親を亡くされたとのことでした。
母親と同居していた土地は父親が亡くなった時の相続で、亡き母1/2、Aさんと長女・二女の3人で各自1/6ずつの所有割合でしたが、2年前に長女が亡くなり、1/6の所有は未登記ですが、義兄と甥がその1/2ずつを相続するとのことでした。次に二女(夫と子供3人)が亡くなり、翌年、母が亡くなりました。
[図表3]
[図表4]
【問題点】
不動産の移転(売却)や賃貸契約の場合には、登記上の名義人が所有者と同じでなければ売却等移転はできません。
注意すべきポイント
自宅などの土地の相続は、所有割合を決めて、共有登記される例が多々ありますが、次に相続が発生するたびに所有者の人数が増加し、いざ売却や土地収用となった時に所有者を確定することに長時間を要します。
今のうちに、状況を把握しているAさんが他の所有者に声掛けをし、買い取ってまとめるなり処分するための登記の整理をするなりしておくべきです。所有者の人数が増えるほど、手続きに時間を要します。
契約書のない賃貸借契約はトラブルになる可能性が高い
【問題事例3】契約書のない貸地・貸家
亡くなったAさんは、土地建物を貸していました。昔から同じ人に貸しており、家賃は毎月入金されるものの、Aさんと借主との間の契約書はありません。Aさんからも契約書の有無は知らされておらず、契約書がない形で賃貸借を行っていたようです。
Aさんの相続人も借主も今後も引き続き、同じように賃貸借を行うことを望んでいました。Aさんの相続の手続きが完了しましたので、借主と改めて賃貸借契約書を締結しました。
【問題点】
①口約束でも契約は有効ですが、契約があったことを証明することが後になって難しくなってきます。
②借主のほうにも今後相続が起こるとトラブルになる可能性があります。
注意すべきポイント
借地や借家の契約の変更はしたほうがいいですが、法律上は絶対にしなければならないわけではありません。今回の相続を機会に賃貸借契約の内容を見直し、契約書を残すことを勧めます。
敷金や保証金の確認や原状回復などの内容についても確認しておくべきことがあります。また、借地借家法制定前の契約なのか、後の契約なのかで扱いが変わってきます。契約書がない賃貸借契約は、トラブルになる可能性が高いので、要注意です。
耕作権は相続人に貸主側の義務が引き継がれる
【問題事例4】耕作権の設定された農地に相続が起こった場合
父は、隣の人から土地を借り、お米を作っていました。当時、耕作権での契約だったようです。借りていたのは祖父の時代からのようです。現在はお米を作るのをやめています。相続のことを考え、権利関係をはっきりさせようと思っています。
【問題点】
①現在はお米を作っていないが、耕作権は主張できるのでしょうか。
②どのような形で隣の人に返す必要があるのでしょうか。
注意すべきポイント
耕作権は、登記されているのか、土地の所管の法務局で確認する必要があります。または、農業委員会に届出を行っているか確認が必要です。相続人に貸主側の義務が引き継がれるので、死亡によって契約が終了するわけではありません。
また、耕作権が保護されているため、貸主側が主導して貸し借りの解消を望む場合には、耕作者に権利放棄の対価としての金銭補償をする場合があります。
隣の人とも相談を行い、耕作権についての確認をしておくべきです。特に農業委員会に届出がなされていない“ヤミ小作”の場合には、地主の方との話し合いや周辺の同一ケースでの取扱いが参考になると思われます。