今回は、休眠口座や改葬について見ていきます。※本連載は、相続業界の最大手・相続手続支援センター編の『家族が困らないために 亡くなる前にやっておきたい手続きと対策』(ビジネス教育出版)より一部を抜粋し、来るべき相続に備え生前にやっておきたい手続きと対策を事例形式でわかりやすく解説します。

家族に「休眠口座」の存在をきちんと伝えておくこと

【問題事例16】長年使っていない口座は早めに解約を!

 

Aさんが亡くなり、長男のBさんが相談に来られました。相続人はBさん1人です。Bさんは、平日が仕事のため相続の手続きができずに困っていました。Bさんは、Aさんの資産の資料として、2つの地方銀行の預金通帳2冊と古いものや合併前の銀行のキャッシュカードを6枚持参していました。資産は預貯金のみでしたが、地方銀行に預けている資産が約3,500万円ありました。通帳がないキャッシュカードの銀行残高によっては、相続税の申告が必要となってきます。

 

そこで、BさんよりAさんの相続手続きのサポート依頼を受け、進めていくことになりました。まず合併前の銀行が現在のどこの銀行なのかを調べたうえで、各銀行に問合せを行いました。中には、10年以上前の合併前の預金口座ということで、調査結果が出るまでに多くの時間がかかった銀行もありました。その結果、キャッシュカード6枚のうち、2枚の銀行は残高0円、4枚の銀行には合計537円の残高があることが判明しました。

 

今回は、キャッシュカードの銀行残高が少なく、相続税の申告手続きは不要だったため、Aさんの預金口座にあるすべての資産を解約し、Bさんの銀行口座に入金手続きを行い、相続手続きは無事完了しました。

 

【問題点】

 

長年引出しや、預け入れなど取引がない口座を「休眠口座」と呼びますが、その存在を本人ですら覚えていないケースも多いでしょう。当然に周りのご家族の方が知る由もありません。しかし、今回の事例においては、キャッシュカードが残っていることから、本人は全く知らないとまでは言えないでしょう。

 

生前に自らが「休眠口座」をなくすために解約しておくことが一番ですが、状況によっては難しいこともあります。そんな時は、せめて周りのご家族の方に「休眠口座」の存在をきちんと伝えておくことが大事です。

 

注意すべきポイント

 

生前に使っていない口座を解約するには、一般的に通帳、キャッシュカード、届出印などを用意し手続きを行うことになります。一方、本人の死後に手続きを行う場合、戸籍謄本(被相続人の出生~死亡までの連続した戸籍など)、銀行所定の手続用紙(相続人全員の署名、捺印が必要)、相続人全員の印鑑証明書などが基本的に必要となり、すべてを用意するだけでも時間を要します。

 

また、今回の事例では、休眠口座の残高が少額であったため、相続税がかかることはありませんでした。しかし、相続税がかかってくる程度の残高があるにもかかわらず、残されたご家族の方が休眠口座の存在を知らず相続税の申告手続きおよび納税を怠った場合、後に不利益を被ってしまうおそれがありますので注意が必要です。

 

お墓の管理について相談しておかないと無縁墓になる⁉

【問題事例17】遠方にあるお墓を改葬するには?

 

Aさんが亡くなり、妻のBさんと長女のCさんが相談に来られました。相続人は2人で、Aさんの資産はわずかな預貯金と生命保険で、手続きはすでに終えていました。相談の内容は、菩提寺にあるお墓のことでした。

 

Aさんはもともと遠方の地方で生まれ育ち、お墓をそのままにして晩年都会に出て来たそうです。すでに故郷には親戚も知合いもいないとのことでした。お墓をどうすればよいのか?遠方のため、お墓参りに行けないのでどうすればよいのか?今後ずっと管理費を払い続けることができるのかなどと、悩んでおられました。

 

結局、BさんとCさんは、菩提寺にあるお墓の「改葬」をすることに決めました。それには、まず墓地を管理しているお寺の住職に魂を抜く儀式を行ってもらい、墓石業者にはお墓の解体・撤去をお願いすることになります。BさんとCさんにとって初めてのことだったので不安な様子でしたが、偶然にも管理費のかからない、かつ永代供養できる納骨堂が近くにありました。最終的にそこに遺骨を納めることになり、2人はひと仕事終わったような安堵感に浸っていました。

 

【問題点】

 

残されるご家族が、先祖代々入っているお墓に遺骨を納骨し、お彼岸の際にはそのお墓に参り、きちんと祭祀ができるかを話し合っていないため、いずれ守る人がいなくなり無縁のお墓になってしまうおそれがあります。

 

大都市圏では、こういった「無縁墓」が急増しており社会問題となっています。長年放置し続けると草木がぼうぼう生えてしまい、いずれ撤去される可能性があります。

 

注意すべきポイント

 

「改葬」つまり、お墓の引越しには、手続きの時間や費用がかかったりします。また、今回のケースでは、特に何の問題もなく無事に手続きを終えることができましたが、場合によっては、墓地管理者である菩提寺や霊園との間でトラブルになったりすることもあります。そうならないためにも、これまでの供養の例を踏まえ、時間をかけて話し合うことも大事です。

 

そういった意味でも、残されたご家族に負担をかけさせないために、終活の一環として家族内できちんと話をしたうえで、生前に手続きを済ませておくことが望ましいでしょう。

口座が多数あると手続きが煩雑に…生前の整理が大切

【問題事例18】預金通帳がたくさんある人は生前に整理しないと大変!

 

2年前にAさんが亡くなり、長男Bさんと二男Cさんが相続の相談に来られました。相続人は2人です。Aさんは妻に先立たれてからは、1人で生活していたそうです。Aさんの資産は預貯金のみで、取引銀行は11社にも及び、預金通帳も全部で21冊ありました。1冊1冊確認してみると、電気代、ガス代、水道代、電話代などの生活費の引落しやクレジットカード利用代金の引落し、また年金が振り込まれる金融機関もそれぞれ違っており、細かく使い分けて管理されていたようです。

 

BさんとCさんは協力し合い、預貯金の手続きを2人とも平日のお仕事をしながら何とか時間を作り進めていたそうです。しかし、2人ともなかなか時間を作ることができず、時間ばかり過ぎていきました。また、すでに提出済みの印鑑証明書や資料の期限も過ぎてしまい再取得しなければならず、スムーズに手続きを進めていけない状況でした。

 

そこで、これまでの各金融機関での手続きの経緯を受け、サポートすることになりました。約1か月で手続きを無事終えることができ、BさんとCさんは、「最初からお願いすれば良かった」と後悔されていました。

 

【問題点】

 

預貯金の相続手続きには、基本的に相続人全員の署名捺印が必要となります。手続きの煩雑さから途中で諦めてしまい、そのまま一旦放置することも少なくありません。その後にあらためて手続きを行おうとした時には、相続人が倍以上に増えており、相続人全員の署名捺印が揃わず、思わぬ不利益を被ってしまうことがあります。

 

注意すべきポイント

 

多くの金融機関で口座開設しているため、金融機関の数だけ手続きをしなければならず、時間と労力が必要です。凍結された口座の預貯金は、相続の手続きが完了するまでは取扱いできない状態となります。使用頻度や残高を考慮したうえで、生前に銀行口座を整理し、相続手続きの簡素化のため財産整理をされることをお勧めします。

家族が困らないために 亡くなる前にやっておきたい手続きと対策

家族が困らないために 亡くなる前にやっておきたい手続きと対策

相続手続支援センター

ビジネス教育出版社

来るべき相続に備えて子供や孫、家族のために今できること、行き過ぎた節税策でなく事情を知っているあなただからこそ整理しておくべき事項を網羅し、事例形式でわかりやすく解説。

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