隠れた医療費=自治体の一般会計からの繰り入れ
地方独立行政法人が運営する病院を含めると、自治体の一般会計からの繰り入れは全国で総額8000億円を超えました(2009年)。この金額は国の医療費としてはカウントされない、いわば〝隠れた医療費〞です。
これまでの連載で紹介したように、国の医療経済実態調査によると自治体(公立)病院の経営は民間病院よりも厳しい状況です。それは、本来の役割である「不採算医療」をカバーしているためなのかというと、必ずしもそうではありません。
へき地や離島で地域医療を一手に担うなど、文字通り孤軍奮闘するケースもあって一概に論じることは困難ですが、都市部には、民間との役割分担が不明瞭な自治体病院がたくさんあります。
こうした自治体病院は、いわば毎年多額の補助を受けながら民間を圧迫し、なおかつ赤字を垂れ流しているのです。そのため民間病院の間にはこうした「官民格差」への不満が根強くあります。
民間病院との役割分担が不明瞭で、自治体の財政支援を受ける大義名分が揺らぐというのなら自治体病院も民間病院と同じ土俵で競争すべきです。
多額の「繰入金」を受けながら、民間に劣る国立病院
敗戦後まもない日本では病院数が少なく、民間病院の量も質も共に乏しかったため、国公立病院が日本医療の質の向上に大変寄与してきたことは間違いありません。
もちろん今もその役割を果たしていますが、医療の質という意味では、現在では高度な技術を用いる先進医療のほとんどが、民間病院でも十分対応可能になってきています。
一定の基準と財政的基盤があれば、民間病院もこれらの病院に負けない医療を行い、優れた医師を育てるための卒後教育を行う医療機関になることもできます。すでにそうした優れた民間病院は少なからず存在します。
しかし一方で、毎年何億円という多額の「繰入金」を受けながら、民間に見劣りする国立病院や自治体病院があることも事実です。
こうした現状を踏まえると、医療問題を考える上では国立病院や自治体病院の果たす役割について、民間病院の関係者も交えた議論をもっと詰める必要が出てきています。