前回は、「AISASモデル」分析によるITマーケティングのポイントを取り上げました。今回は、企業の業務効率化を図るキーワードとして、IoTとRPAについて見ていきます。

あらゆる機器をネット接続する「IoT」

現在の日本社会は、かつてない働き手不足の時代を迎えています。そのため、企業を経営するにあたって、ITを使って業務を効率化し、少ない人数でも業務が回る仕組みを作ることが重要となります。最近では、インターネット経由で様々なソフトウェアを利用することができる「クラウド」が普及したことで、小規模な事業者でも初期費用を掛けずに情報システムを導入し、業務の効率化を推し進めることができるようになってきました。

 

今後、企業がさらなる業務効率化や省人化を推し進めるには、IoTとRPAがキーワードとなります。

 

IoTとは、Internet of Thingsを略した言葉で、直訳すると”モノのインターネット”となります。パソコンやスマートフォンといった従来インターネットに接続するために使用されてきた機器(デバイス)だけではなく、あらゆる機器がインターネットにつながり、自動的に情報収集を行ったりサービスを提供したりする仕組みのことです。

 

例えば、電気メーターがインターネットに接続されていれば、電力会社は検針に回らなくても各家庭の電力使用量を知ることができます。この電気メーターのように、以前はインターネットに接続されることがなかったものをインターネットに接続して、業務を効率化するのがIoTです。

IoTの活用で業務効率化に成功したRICOH社の例

IoTを活用して自社の業務を効率化し、かつ顧客の満足度を向上させることを狙った分かりやすい事例として、RICOH社の@Remote(アットリモート)があります。@Remote は、デジタル複合機やレーザープリンターなどの機器をインターネットに接続し、RICOH社がそれぞれの機器の状態をリアルタイムに把握して、必要に応じたメンテナンスをスピーディーに提供するサービスです。

 

RICOH社は、@Remoteを使うことによって、機器故障の未然防止や機器の故障時間の最小化、消耗品発注業務の簡素化や使用状況に応じた機種の提案などを実現しています。デジタル複合機やレーザープリンターなどの機器が人間の手を介さずに、直接インターネット経由で情報を外部へ送信することで、顧客や自社の省力化と同時にサービスの品質の向上に成功しているわけです。

 

この事例だけを見ると、IoTは大企業が莫大な資金を投入することで実用化できるもの、と感じてしまうかも知れませんが、必ずしもそういった事例ばかりではありません。設備投資を最小限に抑えつつ、大きな成果を上げている事例もあります。

 

旭鉄工株式会社は、愛知県に生産拠点を置く自動車部品メーカーです。同社では、1個50円で販売されている光センサーや1個250円で販売されている磁気センサーを使用して、製造ラインに異常があった際に検知して通知する仕組み、生産個数を計測する仕組みなどを構築し、「製造ラインが正常に動いている割合」「一つの製品が生産される時間」などのデータを、社内のモニターや従業員のスマートフォンで見られるようにしました。

 

同社では、このデータを基に生産工程の改善に取り組むことで、平均43%も生産能力が向上し、年間1億円以上の労務費の削減に成功したとされています。

 

光センサーや磁気センサー、加速度センサーなどのセンサー自体は非常に安価で販売されています。収集したデータを集計するソフトウェアや、集計結果をモニター表示するソフトウェアの開発は必要となるかも知れませんが、創意と工夫次第では、あまり予算を掛けずに IoTシステムを完成させて成果を上げることができることが分かりますね。

 

[図表1]製造業におけるIoTの活用の例

 

パソコンでの事務処理を自動化する「RPA」

もう一つのキーワードであるRPAとは、Robotic Process Automationを略した言葉で、直訳すると”ロボットによるプロセス自動化”となります。ロボットとは、人間の代わりに何らかの作業を自律的に行ってくれる装置のことを意味しています。未来の世界のネコ型ロボットはまさしくロボットですね。一方、人間が乗り込んで悪の組織と戦う人型の兵器は、ただの戦闘マシーンというべきなのかも知れません。

 

余談はさておき、RPAとは具体的にどのようなものなのでしょうか。工場では産業ロボットが使われるのが当たり前になっていますが、RPAはコンピュータを使った事務作業を自律的に動くソフトウェアに任せてしまおうというものです。

 

[図表2]RPAによる自動処理のイメージ

 

電通社では2017年にRPAを導入して、毎月の経理作業などで発生していたオペレーション業務を自動で行うようにしました。具体的には広告代理店から送られてきたExcelファイルの集計業務など、400業務を自動化しました。その結果、月に10000時間の業務時間を削減したと発表しています。すごい効果ですね。同社では2019年には合計2500業務を自動化する計画を進めているようです。

 

RPAについても、比較的安価なソフトウェアが販売されており、小規模事業者でも十分に導入可能な状況になっています。

 

現代の企業経営では、バックオフィスの業務を極力自動化し、人間はより創造性が必要な仕事に注力できるような体制を構築することが求められています。その実現のために、IoTやRPAを含めたITの活用は重要です。

 

なお、ITというのはあくまで「手段」ですので、どの業務をどのように改善したいのかという「目的」の設定が必要です。IoTを導入することやRPAを使うことが目的となってしまわないように注意しましょう。

 

 

一ノ瀬 誠

MASTコンサルティング株式会社 執行役員 中小企業診断士 情報処理安全確保支援士
愛知工業大学非常勤講師

 

高島 宏明

MASTコンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士 

 

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