前回は、事業の成長に不可欠な「組織づくり」「人的資源管理」の重要性を取り上げました。今回は、企業経営における「リーダーシップ」「マネジメント」の重要性を見ていきます。

リーダーシップだけで、組織を運営することは難しい

「リーダーシップ」や「マネジメント」という言葉は、ビジネスやスポーツに限らず、政治の世界や人が集まる場面で日常的に使われています。しかし、改めてリーダーシップとは何か、マネジメントとの違いは何か、と問われると、説明に困りませんか。
 

実はこれらの言葉の定義について、正解や共通の理解は定まっていません。優れたリーダーの特性や条件について、現在でも世界中で様々な研究が行われています。ここでは、ハーバード・ビジネススクールのJ.コッター教授が示した「リーダーシップやマネジメントの機能とステップ」「リーダーシップやマネジメントの能力と場面」について、下記のとおり整理しました(図表1・2)。

 

[図表1]リーダーシップとマネジメントの機能とステップ

 

[図表2] リーダーシップとマネジメントの能力と場面

 

J.コッター教授の考え方では、リーダーシップを長期的なものととらえ、「将来に向けてどう組織を変えていくか」を目的とする一方で、マネジメントは短期的なものととらえ、「現在の組織をどう効率的に運用するか」を目的とする
と説明しています。

 

これだけを見ると、マネジメントよりリーダーシップの方がスケールの大きさを感じられ、また実際に、歴史上の人物たちも「リーダー」と形容されるケースが圧倒的に多く見られます。

 

では、リーダーと呼ばれた人たちは、リーダーシップだけで支持を得続けていたのでしょうか?

 

例えば、就任当時に米国のみならず全世界を熱狂させたオバマ米国大統領ですが、就任後大きな期待に応える成果をあげたかどうかは、意見の分かれるところです。同様に、ノルマンディー上陸作戦の主導者の一人であるチャーチル英国首相は、第二次世界大戦中こそ英国の精神的支柱であり続けましたが、戦後の再建時は彼のスタイルが通用したとは言い切れません。

 

このように、リーダーシップだけでは何かを打ち破ることができても、組織を運営し続けていくことは難しい場面があります。リーダーシップとマネジメントは、異なる機能を果たしながら相互に補完しあうものであり、リーダーと呼ばれる人々にも、リーダーシップのみならずマネジメントの能力が必要とされるのです。

社長の「マネジメント能力」で立ち直ったバス会社の例

ここで、事業の世界に立ち戻ってみましょう。

 

赤字続きで補助金に支えられている地方のバス事業者会社が多い中、十勝バス株式会社は約40年ぶりの利用客増と路線バスの運送収入増という異例の快挙を果たしました。しかしながら、経営者である野村文吾社長にとって、そこに至る道のりは長く険しいものだったようです。

 

先代社長の息子である野村社長は、赤字続きの会社を立て直すべく中途入社し、リーダーシップによる早期再建を目指しましたが、なかなか社員がついてこないという現実に直面しました。当初は、社員の多くが「どうせダメだ」と思い込み、野村社長が「売上のために営業が必要だ」と訴えても、社員から否定される状況でした。

 

悩んだ野村社長は、周囲からのアドバイスをもとに「真正面から社員に向き合うこと」を一番に置き、「リーダーシップによる経営」から「マネジメントによる経営」に重きを変えたのです。

 

マネジメントは「管理」とも訳されます。管理と聞くと、時間管理やタスク管理といった従業員に強制するネガティブなイメージや印象がありますが、管理には「良い状態に保つ」という意味もあり、公園の管理やマンションの管理といった使われ方もされています。同様に考えると、経営の場面でも「部下や組織の状態を良い状態に保つ」という意味にとらえることができます。当時の野村社長は、社員を強引に引っ張るよりも、暗くなった会社や社員を良い状態に変える事に注力したのです。

 

しかし、外部環境は待ってくれません。世界的な原油価格高騰の悪影響で、ついに十勝バスは倒産寸前まで追い込まれてしまいました。そんな折、今度は社員の方から主体的に「営業を強化しましょう!」との意見が出ました。これは、上から求めることを控え、社員の話を傾聴し、寄り添うことで、距離感を縮め、野村社長の「想い」が行き届いた成果でした。そして十勝バスは、かつてどこのバス会社もやったことのない、戸別訪問営業を展開し、地方バス会社では近年例を見ない乗客数の上昇を実現させました。

 

なお現在、野村社長は社業以外にも、行政との協働やIT会社・大学と共同で、バスに特化した日本初の乗換案内アプリも開発しており、社長自身が本来持っていたリーダーシップを大いに発揮する状況になってきたようです。

 

野村社長のエピソードからも、リーダーシップとマネジメントは、場面に応じて重点を変えるべきであることが分かります。政治家の事例と十勝バスの事例では、規模や立場は違いますが、成功のためにはリーダーシップだけでは乗り越えられない壁があるという点は共通です。

 

リーダーシップにより、共感を得て一時的に組織をまとめることができても、マネジメントをおろそかにすると組織の状態を保つことはできません。経営者は、時には「リーダーの顔」、時には「マネジャーの顔」と状況に応じて使い分けする必要があるでしょう。

 

 

森 琢也

MASTコンサルティング株式会社パートナー 中小企業診断士
プロフェッショナルコーチ

 

高島 宏明

MASTコンサルティング株式会社 代表取締役
中小企業診断士

 

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