M&Aにおいて「デューデリジェンス」は避けて通れない重要な実務だ。もちろん公認会計士や弁護士に任せるべきだと考える人も多いであろう。しかし、小規模のM&Aにかぎっては、ある程度自身で行うことは、コスト削減だけではなく、思わぬ見落としを避ける効果もあるのだ。本記事では、M&Aにおけるデューデリジェンス(資産査定)の理想と現実について解説する。

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DDは「財務・法務・労務・ビジネス」に大別される

デューデリジェンス(DD、資産査定)はM&A実務において、最終合意にいたる過程で避けては通れぬ重要なイベントです。大手の公認会計士や弁護士が主なプレーヤーと思われがちですが、小規模のM&Aは少し事情が異なります。取引金額が小さければ、それに伴ったコストも抑えなくてはなりません。

 

実際に現場ではどのように対応しているのでしょうか。これが正しいという手法はありませんが、これまでの筆者の失敗経験なども含め、理想と現実についてお話したいと思います。

 

◆デューデリジェンスの種類

 

①財務(税務)、②法務、③労務、④ビジネスの4つに大きく分類されます。対象事業によっては、これにシステム(IT)、環境などが加わるケースもあります。教科書的には、すべて重要としかいえませんが、すべてを網羅的に調べる必要はありません。

 

まずは、買い手としてどこにリスクを感じるのか、気になる箇所を思いつくままに書きだしてみましょう。それをカテゴリー別に分類し、全体に与える影響度で考えると、優先すべき項目がみえてくるはずです。デューデリジェンスに重要度の濃淡、序列をつけるのです。

 

たとえば借入も資産も、さほど大きくない企業の場合、優秀で単価の高い会計士に委託する必要はありません。従業員があまり多くない会社の労務デューデリも同様です。全体に影響がないと判断できた場合は、「省略する」「後回しにする」という感覚を持つことも必要です。

 

◆自らデューデリすることで得られるメリット

 

投資の世界に共通することは「自己責任」です。特に事業投資、M&Aはその傾向がより強まります。であれば、投資家・経営者自らデューデリジェンスをするのがおすすめです。もちろん、会計・税務知識に自信がないという方もいるでしょう。その場合でも、丸投げするのではなく、一緒になって調べることでコストを下げることも可能です。気になるところだけを部分的にデューデリ委託することもコスト削減には有効です。

 

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経営歴が長い社長等は、実は本質的な問題を見抜くことに長けています。特に業種が近い場合など、決算書の粉飾などを見抜いてしまうこともあります。また、経営者はリスク感覚に優れている方も多く、アドバイザーが見抜けない落とし穴に気づくことも多々あります。実は、買い手である投資家こそが重要なデューデリ人員でもあるのです。

 

◆ビジネスデューデリジェンスの特異性について

 

小規模のM&Aで、決して丸投げしてはいけないものは、ビジネスデューデリジェンス(DD)です。引き継いだ事業をどのようにして伸ばすか。経営はアートともいわれることがありますが、事業を誰が行うかによって結果が大きく違ってきます。外部コンサルタントは、あくまで現状分析を行うにすぎません。また、自らデューデリに参加することにより、仮に問題が発生した場合でもリカバリーがしやすくなり、マーケティングなどの戦略策定も迅速に行うことができます。

「簿外債務」を隠されると、見破るのは難しい

◆まずは取引相手をデューデリする

 

これをいってしまうと元も子もありませんが、売主から「嘘」をつかれてしまうと、優秀なアドバイザーでも見抜くことが難しいことがあります。そのひとつが「簿外債務」です。退職給与引当、残業未払い、回収不能な売掛債権などは、比較的見抜きやすいですが、連帯保証債務や、訴訟リスク、株式の質権設定などは、隠されてしまうと見破ることがとても難しいです。

 

まずは、通常の商取引と同じで、そもそも取引してよい相手なのかという視点でみることです。売り手・買い手に信頼関係がなければM&A、事業承継もうまくいきません。筆者が比較的早い段階で、オーナー面談をセッティングするのは、過去に信用関係が構築できていない案件をまとめてしまった後悔からくるものです。何か違和感を感じた場合は、やめてしまうという勇気も必要です。

 

◆リスク回避策

 

簿外債務は、株式譲渡ではなく「事業譲渡」という手法で、ある程度リスクを軽減することも可能です。引き継ぐ資産を特定してしまうのです。契約のまき直しなど手続き面で面倒ですが、小規模の場合はさほど多くないケースもあり有効です。

 

筆者も小規模M&Aに着手したばかりのころは株式譲渡が当然と思い込んでおり、譲渡後に簿外債務がでてきて、対応に苦慮した苦い経験もあります。その経験から、現在は常に事業譲渡の選択肢にいれて買い主と議論することにしています。また買い手も、過去に失敗経験を持つ方ほど簿外債務に敏感で、消費税などのコストが嵩んでも事業譲渡を選択する方が多いです。

 

事業譲渡に近いスキームですが「会社分割」という手法でリスクを切り離すことも可能です。事業の全部または一部を、別会社に承継させるスキームです。この場合、債務超過の会社などで活用する場合には、既存の債権者にとって詐害的な会社分割にあたらないか注意が必要です。

 

◆買い手のたしなみ「簡易デューデリジェンス」

 

上場株式の信用取引を行う場合に、預かり資産の規模や投資経験などが問われることが一般的です。M&Aにおいては、このような審査がなく、原則誰でも参加ができる自由な市場です。それゆえに、自己責任が問われます。

 

自分で詳細なデューデリノウハウを習得する必要はありませんが、外部専門家に委託する場合に勘所を掴んでおく必要があります。そのためには、まずは自ら「簡易デューデリジェンス」をしてみることです。決算書分析、雇用契約書のチェックなど、どの案件でも必ず必要な項目があります。まずは、そこから始めてみましょう。その過程を踏まえてから外部委託をすると、依頼内容が絞れ、時間とコストが短縮されるに違いありません。ぜひチャレンジしてみてください。

 

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齋藤 由紀夫

株式会社つながりバンク 代表取締役社長

 

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