今回は、米国エンダウメントの「不動産投資戦略」の最新事情を見ていきます。※本連載では、株式会社GCIアセット・マネジメント、投資信託事業グループの執行役員である太田創氏が、「米国名門大学のエンダウメント投資戦略」とは何かを、初心者にもわかりやすく説明します。

安定的なインカム収入・キャピタルゲインへの期待

先般、ハーバード大学エンダウメントが、不動産投資の一部(倉庫物件)を大手オルタナティブ運用会社のブラックストーンに売却したという報道がありました。日本では不動産投資の一種であるリート、特に米国リートやグローバル・リートに運用する投資信託が人気を博しましたが、エンダウメントにとっての不動産投資の位置づけはどうなっているのでしょうか。今回は、エンダウメントの投資戦略を参考に、エンダウメントが不動産投資を行う理由を考察します。

 

[図表1]全米エンダウメントの資産分散(809エンダウメント平均) (注)https://www.commonfund.org/よりGCIアセット・マネジメント作成(時点:2017年6月末)。
[図表1]全米エンダウメントの資産分散(809エンダウメント平均)
(注)https://www.commonfund.org/ よりGCIアセット・マネジメント作成(時点:2017年6月末)。

 

 

◆エンダウメントが不動産投資を行う理由

 

全米エンダウメントの平均的なアロケーションでは、株式・債券といった伝統的資産の組入割合は約48%、ヘッジファンドや不動産投資等のオルタナティブ資産への組入割合は約52%となっています。全体の組入割合では、かなり以前からオルタナティブ投資への分散に傾注されており、なかでも実物資産としての不動産は必ずといっていいほど、大手エンダウメントは投資を行っています。

 

さて、そのオルタナティブ投資のなかでの不動産投資への位置づけですが、筆者は下記のように考えています。

 

(1)安定的なインカム収入

 

昨今の金利低下により、米国10年国債の利回りは年3%程度、米国不動産(米国リート=上場不動産投資信託)の利回りは年4%超ですから、利回り格差が1ポイント以上もある不動産投資は魅力的です。

 

(2)キャピタルゲイン(値上がり益)も期待される

 

2018年年初の米国金利の上昇により、米国不動産価格(特に米国リート)の値下がりは顕著と思われていますが、その後の価格の回復は目覚ましく、長期的な観点ではキャピタルゲインが狙える投資対象です。

意外と思われるかもしれませんが、1972年1月以降、米国リートの月次リターンは平均+1.05%、年換算すると+13.3%(図表2内の赤線)と、S&P500よりも高いリターンとなっています。

 

[図表2]米国リートの月次リターン推移 (注)https://www.reit.comよりGCIアセット・マネジメント作成(時点:2017年8月末)。
[図表2]米国リートの月次リターン推移
(注)https://www.reit.comよりGCIアセット・マネジメント作成(時点:2017年8月末)。

 

加えて、今回ハーバード大学が売却した物件(倉庫)は、物流のラストワンマイル(last-mile warehouses)にある物件ということで、アマゾンをはじめとするEコマース業者がより迅速な配送を行うため、当該施設の購入に至ったという背景もあります。

株価と債券価格の同時下落を見越したリスクヘッジ

(3)伝統的資産との低相関

 

従来は、株式のリスクヘッジには債券を保有しておけば十分と思われていましたが、リーマンショック以降、状況によっては株価と債券価格が同時に下がる状況が散見されています。米国国債で株価をヘッジすることが難しくなっている環境下では、不動産をはじめとしたオルタナティブ投資によるリスク値の低減とリターンの確保、およびポートフォリオ全体の投資効率を上げていく必要に迫られています。

 

 

(4)非流動性資産としての利点

 

実物不動産価格は、株価や債券とは異なり、日次で価格が計算されることはありません。常に相対取引であり、売買価格も公表されないのが通常です。こうしたことから、時価や満期保有という概念もなく、インカムを着実に受け取り続け、購入希望者が現れるまでじっくりと物件の保有を継続できるという利点もあります。

 

もちろん、実物不動産の種類(たとえば、オフィス、産業施設、小売り、ホテル等)によって値動きは異なりますので、同じ商業不動産でも分散投資が可能な利点もあります。

 

日本では、米国/グローバル・リートを投資対象とする一部の高分配型の毎月分配型ファンドの解約が相次いでいるため、投資対象である実物不動産にも問題があるような誤解があります。また、不動産が景気後退の影響を受けやすいのは否めません。しかしながら、長期的な観点でとらえれば、不動産投資は「固い」運用手法でもあり、ポートフォリオの運用効率を上げる効果もあるのです。

 

 

太田 創

株式会社GCIアセット・マネジメント

エクゼクティブ・マネジャー(投資信託ビジネス担当)

 

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