税務調査に入られた場合、プロの調査官の目を誤魔化すことはできません。申告漏れはもちろん、それに付随する諸々の隠し事も露見してしまうことがあります。本記事では実際の例を参考に、税務調査で秘密が暴かれていく事例を見ていきましょう。

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相続税の「税務調査」の実態と対処方法

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子ども思いで加入した保険契約が申告漏れの対象に

税務調査の実態について、前回(関連リンク『ある日突然やってくる「税務調査」の実態とは?』参照)はAさんの例を取り上げました。今回はBさんとCさんの例を見てみたいと思います。

 

【相続財産4億円のBさんの場合】

Bさん一家は、東京郊外に多くの土地を持つ昔ながらの地主で、相続税評価額は4億円、相続人は妻・長男・次男・長女の4人です。Bさんは大変子ども思いの人で、生前、子ども名義の保険にいくつも加入していました。しかし、それが税務調査の対象となったのです。

 

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母親と同居している長男のところに調査官がやってきたのは、相続税の申告後1年半ほどたったころでした。郵便局の簡易保険の入り方に、不明な点があるというのです。

 

対象となったのは、亡きBさんが生前にかけていた次男の生命保険でした。保険料の原資となったのはもともとBさんが自分自身にかけていた養老保険の満期金で、そのときの満期金(700万円)を全額、次男の養老保険の保険料にあてていたのです。

 

郵便局の人が満期金を現金で届けに来たので、そのお金ですすめられるままに今度は次男の養老保険に入ったのです。その後、Bさんが契約者を次男に変更して、その保険証券を次男に渡していました。これが相続財産になるとは夢にも思わなかったのでしょう。

 

税務署からの連絡を受けて驚いた長男は、次男に電話で事実を確認しましたが、次男本人もそのことをすっかり忘れていました。家の中をかきまわしてようやく保険証券を見つけ、それが事実だったことが確認できました。

 

【問題点】

このケースの問題点は、次男がこの保険を自分の相続財産だと認識していなかった点にあります。途中で契約者を書き換えたとはいえ、お金を払ったのは父親であるBさんなのですから、次男にとって父親に払ってもらった保険契約は相続財産になります。その分が申告漏れになっていたのでした。また、Bさん一家には、もうひとつ保険がらみの申告漏れがありました。

 

満期金500万円の保険金受取人を長女にした一時払い養老保険の保険料を、Bさんが払っていたのです。すでにBさんの存命中に長女が満期金を受け取っていたため、相続税ではなく贈与税の対象となりますが、こちらも申告漏れであることに違いはありません。長女は、自分だけが父親に便宜を図ってもらっていることを、ほかのきょうだいたちに知られたくなかったため、黙っていました。

 

これらが税務調査で見つかったため、次男は140万円、長女は100万円、さらにはいずれの件についても何の非もなかった長男も45万円の追徴税を余儀なくされました。この一件で、その後、きょうだいの仲がぎくしゃくしたものになったのは、いうまでもありません。

故意に隠した財産には高い重加算税が…

【相続財産2億円のCさんの場合】

Cさんの相続人は、妻・長女・次女・長男の4人。税務調査の対象となったのは、大量に残された銀行口座でした。それはすべてCさんの次女の夫で、銀行員のDさんが関係しているものでした。全国各地を転勤で回ったDさんにとって、新しく赴任した支店の営業エリアで新規口座を獲得するのは、大変重要なことでした。そこで資産家のCさんを頼りにしたのです。

 

当時はまだ現在のように口座開設の際の本人確認など、あまり厳しくない時代でした。Cさんはかわいい娘のために、娘婿の頼みを快く聞き入れ、自分だけでなく家族名義の口座をいくつも開設しました。しかしそのことを知っていたのは、Cさん本人と次女、それに次女の夫だけ。妻にすら知らせず、すべて秘密裏に処理してきたのです。

 

【問題点】

Cさんが亡くなって相続が発生したときも、次女は本当のことをいおうとしませんでした。自分の夫が父親に便宜を図ってもらっていたことをほかの家族に知られたくなかったのです。しかし、どんなに隠そうとしても、隠し通せるものではありません。銀行に調査が入って、事実は明るみに出てしまいました。Cさんが残した預金の申告漏れとなった金額は、全部で600万円あることがわかりました。

 

これに対する追加の税金は、本税・加算税・延滞税合わせて100万円ほど。なお、このケースでは「故意に隠した」という事実があったため、通常よりも税率の高い重加算税が課されました。次女は「絶対にほかの家族に知られたくない。私が全額払います」と言い張りましたが、それはかないませんでした。なぜなら、加算税と延滞税の通知は、相続人全員の自宅に送られることになっているためです。すぐにほかの家族の知るところとなり、大騒ぎになりました。

 

次女が自分の過失を認め、追加の税金を全部負担したため、金銭面でほかの家族に迷惑をかけることはありませんでしたが、母親からは「お父さんは水くさい。私にまで内緒にするなんて」といわれ、きょうだいたちからは「あなたばかり便宜を図ってもらって」と突き上げられ、家族間の関係がぎくしゃくしてしまったといいます。

隠し事は必ず見抜くのがプロの調査官

いかがでしょうか。申告漏れによる追徴税額で、ほかの家族にも迷惑がおよぶことまでは想像もしなかったことでしょう。この3つの事例でもわかるように、税務調査によって追加の税金が発生することで生じる問題は、金銭面に限ったことではありません。良好だと思っていた家族関係にひびが入ったり、気まずくなったりすることが多いのです。

 

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特にきょうだいのうちの誰かが、亡くなった親御さんに特別に便宜を図ってもらっていたということが後で発覚すると、ほかのきょうだいは不快に感じ、間違いなく関係は悪くなります。どんなにその事実をひた隠しにしようとしても、相手はプロの調査官です。不明点を明確にして、少しでも多くの税金を徴収するのが彼らの仕事なのですから、あるものをなかったように見せかけようとしても、必ず見抜かれてしまいます。

 

税務調査が入って初めて発覚し、揚げ句のはてにほかのきょうだいに金銭面で迷惑をかけるくらいなら、最初から「実はみんなに黙っていたことがあるのだけど……」と、打ち明けてしまうほうがどんなにいいか。その場はちょっと気まずくても、遺恨が生じることは避けられるのではないでしょうか。

 

 

 

服部 誠

税理士法人レガート 代表社員・税理士

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本連載に記載のされているデータおよび各種制度の情報はいずれも、出典元である服部誠著『相続税の税務調査を完璧に切り抜ける方法[改訂版]』(幻冬舎メディアコンサルティング、2017年)の執筆時点のものであり、今後変更される可能性があります。あらかじめご了承ください。

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