「相続税の税務調査」に 選ばれる人 選ばれない人
>>1月16日(木)開催・WEBセミナー
以前は申請書作成の税理士に通知されていたが…
相続税は相続が起こってから10カ月以内に申告しなければなりません。「相続の発生」は、相続財産を遺した人(被相続人)の死亡をいいます。
10カ月というと長い期間のように感じられるかもしれませんが、実は意外に短いものです。相続財産が預金と自宅の土地だけというようなケースならスムーズに運びますが、すべての財産を漏れなく把握するには、相当の時間を要します。そして、遺された財産を誰がどのように引き継ぐのかといった遺産の分割協議にも時間がかかります。
10カ月以内になんとか申告書を提出し、納税をすませたとしても、それで終わりというわけではありません。相続税には、まだまだ続きがあるのです。それが前回(関連リンク『もはや「対岸の火事」ではない相続税の税務調査』参照)ご説明した税務調査です。相続税の申告があったすべての相続に税務調査が入るわけではありませんが、おおよそ4〜5件に1件の割合で調査が行われているのが現状です。
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税務調査の第一報は、原則として「納税義務者(相続人や受遺者)」とされています。ただし、税理士などの税務代理人がいて納税義務者の同意がある場合に限り、その通知は税務代理人に対して行われます。税理士が間に入るのと入らないのとでは、相続人が税務調査に対して抱く恐怖心の度合いがかなり違うのではないでしょうか。
税務調査はある日突然、電話で予告されますが、受けた側にとっては、まったく寝耳に水といったところでしょう。それもそのはず、税務調査の連絡の電話は相続税の申告がすんで1年以上も経過したころにかかってくることもあるからです。税金はすでに払い終わっているのですから、手にした遺産をどう使おうと自分の自由とは誰もが思うことです。なかにはすでに使い道を決めてしまったという人もいるかもしれません。
また、相続した財産の多くが不動産で、相続税を払ったら現金はほとんど残らなかったという人も少なくありません。そんなときに寝耳に水の税務調査で、追加の税金を課せられたとしても、「ない袖は振れない」ということになってしまいます。
では、予期しないときにやってくる税務調査の実態はどのようなものなのか、今回は1ケース、次回に2、3ケースの具体的な数字を挙げつつご紹介しましょう。これらはすべて架空の設定、架空の数字であることを前提に読み進めてください。
相続財産13億円のAさんの場合
都心の一等地に自宅を持つAさん宅に、税務調査が入ったのは、被相続人である夫の死後2年近く経過したころでした。被相続人の妻であるYさんの銀行口座にあった5,000万円分の債券が申告漏れになっているのを、税務署が見つけたのです。
Aさんの相続人は妻・長男・次男・長女の4人です。相続税評価額は13億円に上りました。家族が予想していたよりもはるかに多く、「うちにはこんなにたくさんあったの?」と誰もが驚くほどでした。現金もそれなりに残されていたため、納税資金に困ることもなく、ウソ偽りなく正直に申告し、払うべきものはすべて払って、やれやれと思っていた矢先の出来事でした。
一点の曇りもない申告だったはずなのに、なぜこのようなことになったのでしょうか。原因は意外なところにありました。銀行の残高証明が適切なものでなかったのです。妻Yさんは、銀行に1億円の預金(ご主人が遺してくれた妻Yさん名義の預金)を持っていました。そのことは本人も認識していたため、銀行に対し「預金の残高証明を出してください」と依頼して申告に使いました。
ところがYさんはこの銀行に、1億円の預金だけではなく、5,000万円分の国債も持っていたのです。こちらもご主人のお金で購入したものでしたが、国債を購入したのは何十年も前のことだったので、本人もすっかり忘れていました。
残高証明を取り寄せるときに、Yさんが「この銀行のすべての残高証明を出してください」と頼めば、預金だけでなく国債についても記載された残高証明を発行してもらえたのでしょうが、「預金の残高証明」に限定してしまったために、国債の分が漏れてしまったのです。税務調査官が銀行で調べれば、このようなミスはたちどころに発覚してしまいます。
相続税の追徴は相続人全員に課せられる
結果として、Yさん名義の国債の申告漏れによる、追加の相続税額・加算税額・延滞税額として2,800万円超を納付しなければならなくなり、これが、子どもたちにも大きな波紋を投げかけることになったのです。
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申告漏れによって生じた追加の相続税と過少申告加算税は、Yさん本人だけでなく相続人全員にも課税されるためです。追加の財産を一切もらわなくても、相続税の計算の仕組み上、相続税の追徴が相続人全員に生じてしまうのです。子どもたちのうちで一番多く課税された長男の追徴税は、本税・加算税合わせて200万円にも上りました。
長男の相続財産は自宅を含めた不動産がほとんどで、納税後に手元に残った現金は1,000万円程度でした。長男は50代のサラリーマンで給与は頭打ちになっており、まだ大学に入ったばかりの子どももいます。結果的に、大学の学費に充てるつもりだった現金のうちから、想定外の追徴税額200万円を納付しなければならなくなりました。
最初からすべての相続財産を正しく把握できていれば、余計な加算税や延滞税の負担もなく、より実情に合った分割ができたはずでしたが、ちょっとしたミスによる申告漏れがあったために大変残念な結果になってしまったのです。
服部 誠
税理士法人レガート 代表社員・税理士
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