生活スタイルの多様化で、立地区分の「細分化」が進む
【か】 買う物件 2極化ではなく 5極化で
不動産投資において、重要項目の1つである立地。この立地ですが、以前は「都心」と「郊外」の2極として大雑把に分けられていました。しかし、近年、入居者の生活スタイルも多様化している中で、立地もより細分化されてきたのです。
以下の図表1のように、首都圏の不動産投資市場における立地は、大きく5分類されています。私は、これを「2極化」に対して「5極化」と呼んでいます。各々の特徴を確認し、立地選びの参考にしていただけたら幸いです。
「5極目」は、国道16号線の外側のエリアになります。このエリアの特徴は、相続税対策でアパートが乱立したエリアです。相続税対策として遊休地にアパートを建築しすぎた結果、現状では入居者の確保に四苦八苦しています。今のペースのままアパートの建築が進めば、2033年には全国の空室率は41.8%になるとも言われ、これ以上空室を増やさないためには、現在の建築数の3分の1程度まで建築を減らさなければならないのです。
田畑の真ん中にアパートが建っている映像を、見たことがある人もいるかもしれません。それが、まさしくこのエリアの現状です。アパート経営は、入居者を確保してこそ初めて収入を得ることができます。そのため、賃貸ニーズは減少しているのに、物件が増えている地域で収益を上げることは、困難と言わざるをえません。実際、2018年の公示地価では、3大商業圏を中心に上昇しているイメージがありますが、このエリアでは下がり始めている地域も増えているので、注意が必要です。
次は、「4極目」です。バブル期に不動産価格が高騰し、都内での住宅購入が難しくなったことによって、23区から国道16号線のあたりまでが、主だった住宅購入エリアになりました。国道16号線は、「横浜」「相模原」「八王子」「大宮」「春日部」「柏」「千葉」といった街を環状線として結んでいるのが特徴です。
現在では、都心のオフィスに通勤するサラリーマンのベッドタウンとしてのイメージが強い、一般的には都心郊外と言われているエリアになります。都市計画上、住宅地の指定が多くされているこのエリアで供給されている物件は、主にアパートです。周りに住宅地が多いエリアでは、木造物件の取引も活発に行われ、近隣に賃貸住宅が建ちやすくなることも否定できません。
そして、このエリア最大の問題が、賃貸ニーズを支えていた企業の工場がより郊外や海外に移転し、さらに大学は学生獲得のため都心に移ってしまったことです。これは、2002年に工場等制限法という法律が廃止されたことに起因します。工場等制限法では、東京や大阪への人口集中を懸念し、このエリアでの1500㎡を超える大学の建設を禁止していました。しかし、この法律が廃止されたことによって、少子高齢化の世の中で利便性が高い都心にキャンパスを移転し、学生の確保を行う大学が増えたのです(下記図表2参照)。それにより、賃貸需要は次第に減ってきました。
ここで、実例を1つ紹介します。2013年に青山学院大学が、相模原キャンパスの文系1〜2年生を東京渋谷区のキャンパスに集約しました。それにより、JR相模原駅周辺の家賃相場は、2万円台前半になってしまったのです。これは、神奈川県全体の1Kマンション相場6万3千円と比べても、かなり低くなっています。つまり、入居者の確保を1つの施設に依存することは、危険であると言わざるを得ません。人が減るところで賃貸物件を所有するより、人が増えるところで物件を所有した方が、入居者を確保しやすいのは明白です。
不動産の重要ポイントは、とにかく「立地」
次は、23区の外側になる「3極目」です。このエリアの特徴は、私鉄で通勤するサラリーマンが多いことです。もちろん、JRや東京メトロの駅もありますが、通勤のメインは私鉄になります。地下鉄と相互乗り入れをしている場合は別ですが、私鉄の弱点は山手線の輪の中に入っていけないことです。そのため、都心のオフィスに通勤する場合、乗り換えが必要になります。この乗り換えによって通勤時間は長くなってしまい、単身サラリーマンの賃貸ニーズを満たしきれないのです。通勤時間が長くなってしまうことで賃料は伸びず、より利便性の高い都心に引っ越されてしまうことで、入居者の回転が速いことも懸念材料になります。
賃貸住宅は、基本的に各私鉄系列の不動産会社が開発した住宅地がメインなのでアパートもあり、バブル期に地価が上がったことにより、都心で分譲が難しくなったワンルームマンションも混在しているエリアです。バブル期のマンションは、お風呂とトイレが一緒の3点ユニットであるというデメリットを抱えますが、アパートはマンションに比べ防音性や断熱性で劣るため、入居者を確保しづらくなります。しかし、バブル期以降に建築されたマンションに、入居者確保の面で負けてしまうのも見逃せません。そして、この地域のマンションも近隣に競合のアパートが多いため、高い賃料を設定できないのもデメリットの1つです。23区とはいえ入居者のニーズを満たしきれていない点では、油断できない立地と言えます。
23区の中心である都心3区(千代田区・港区・中央区)の周辺区で構成されているのが、「2極目」です。具体的には、「品川」「目黒」「渋谷」「新宿」「豊島」「文京」「台東」「荒川」「墨田」「江東」の各区になります。このエリアの特徴は、「山手線」「大江戸線」「東京メトロ」「都営地下鉄」が支える通勤利便性の高さです。単身の社会人は、通勤時間の目安を約30分に設定していることが多く、都心に通勤する利便性の高さを求めるなら、このエリアということになります。
そして、この地域には、都心3区にはない「住みやすさ」があるのも特徴の1つ。通常、不動産には用途地域が決められており、建てられる建物が決まっているのです。都心に近づけば近づくほど、商業施設やオフィスを集積する商業地域の割合が増えてきます。
一方で、住宅を建てるエリアである住居地域の割合は、減ってくるのです。そのため、住宅地に建てられることが多いアパートではなく、商業地域や準工業地域などを中心とした都市計画地域に建てられることの多いマンションが、賃貸住宅の主役になります。そして、利便性の高さから土地の確保も難しいので、供給が過剰になりにくい側面もあるのです。賃料相場は中心から放射状に広がっていきます。オフィス街に通勤しやすい立地というのは、マンション投資において重要な「価値」と言えるのです。
最後に紹介するのが、「1極目」です。都心3区と呼ばれている「千代田区」「港区」「中央区」の3区で構成されています。このエリアは、日本の政治・経済の中心です。日本の中心から賃貸ニーズがなくなることは、考えられません。やはり、不動産において何よりも大事なポイントは、1に立地、2に立地、3に立地なのです。
仲宗根 和徳
株式会社和不動産 代表取締役