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ドラマで見るM&Aの結末「それ、その後どうなる?」
テレビドラマや小説のなかで見るM&Aの世界では、往々にして買手が「悪」で、売手が「善」。そこでは勧善懲悪さながらのストーリーが展開されます。
売手の多くは老舗の旅館、伝統的な技術を持つ製造業で、「悪」である買手候補に対し、売手の経営陣、従業員の勝利で幕を閉じます。
そのようなシーンを見るたびに、これから資金調達はどうするのだろうか、一度売却を決めた社長のモチベーションは維持できるのだろうか、単なる保身や問題の先送りでないのか…、などといろいろ考えてしまいます。
それでは、現実の世界でのM&Aはどのように進むのでしょうか? 実際の話、歴史がある企業ほど関係者の思惑が複雑に絡み、売買が難航するケースは多いです。正解のない世界ですが、どの選択肢がベストであったのか、やはり常に考えさせられます。
年商100万円の京和傘屋を「元・公務員」が承継
筆者はM&Aを推進する立場ではありますが、M&Aは事業継続の手段のひとつであると割り切っています。数年前、日本の伝統工芸品を欧州へ伝える、新規事業立上げのサポートをしたのですが、そのときの話をしましょう。
西堀耕太郎さんは、京都で150年以上続く京和傘「日吉屋」の五代目経営者。和傘を照明やインテリアなどに転用し、海外展開を含めた事業拡大に成功します。発想の転換で暖簾と雇用を守り、現在では京都で唯一の和傘製造を手掛ける店へと成長させました。
西掘さんが手がけたのは、フランスに常設ショールームを設置し、芸術品レベルの和包丁や食器、斬新なスタイルの伝統工芸品、織物加工品などの販売支援をする事業。プロジェクトの立ち上げには、現地生活が長く、日本人とフランス人の感覚を持つ優秀な方々が参加しました。
伝統を守りつつ、海外展開まで成功させた西堀さんですが、実は前職は公務員。奥様の実家である日吉屋を承継したときの年商は約100万円で、廃業寸前だったとのことです。分類としては親族内承継ではありますが、業界外の「よそ者」による外部承継型M&Aの成功事例だと感じています。現在は、商品企画から販売までをこなし、日本文化を海外に伝える重要な役割を担っているようです。
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外部承継に積極的に取り組む「酒造業界」の可能性とは
国内の清酒製造業者、いわゆる「酒蔵」は昭和30年頃の4,000をピークに激減し、2017年の時点で1,400を切るといわれています(国税庁酒税課調査)。定期的に、資金調達や承継の相談を受ける業界ではありますが、筆者が経験に乏しい分野であり、思うような支援ができていないのが正直なところです。
ただし、業界全体では外部承継による取り組みも増えてきています。福島の「榮川酒造」は、2016年に政府系ファンドの地域経済活性化支援機構(REVIC)の支援を受け、上場企業「ヨシムラ・フード・ホールディングス」の子会社となりました。伝統ある企業が外部傘下に入り、雇用とブランドを守ったケースです。譲渡後も、日本酒の鑑評会などで高い評価を得ているようです。
全国の酒造会社の業績を調べたところ、約8割は売上2億円以下の企業規模でした。営業利益率は平均数%です。まさにスモールM&Aに近い分野だと改めて気がつきました。
日本人全体としてアルコール摂取量が減ってきたといわれていますが、まだ日本酒の魅力に気付いていない層は沢山いるはずです。筆者も、学生時代に初めて飲んだ日本酒は懐事情もあり、糖類や調味料を加えた「普通酒」や「合成清酒」だったようで、美味しさがわかりませんでした。いま飲み比べても、丹精込めて作られた「吟醸酒」や「純米酒」とはやはり違います。この違いに気がつく日本人が増えるだけでも、国内需要は伸びるはずです。
筆者の故郷は「福島」。もう地元を離れて30年近くになりますが、この年齢になり年々生まれ育った故郷への恩返しがしたい気持ちが強まってきました。福島県の酒蔵を調べたところ、県内には60ほどの酒蔵がありますが、この2~3年で複数の製造業者が廃業していることを知りました。福島は前述の「榮川」以外にも「飛露喜」「大七」「奥の松」「写楽」「会津娘」「会津中将」など全国区の銘酒を輩出しています。全国新酒鑑評会でも、福島の地酒は金賞入賞の常連です。
これまでは、地酒を飲むことでしか貢献できていませんでしたが、筆者の得意分野で何が貢献できるか、正月休みに帰省した際にじっくり考えたいと思っています。
齋藤 由紀夫
株式会社つながりバンク 代表取締役社長
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