経営難に陥った「女性向けシェアハウス」運営会社
前回の続きです。
もう1件、近時、シェアハウスのサブリースを巡っても家賃保証トラブルが起こり、大きな問題となっています(シェアハウスとは、一軒の住居を複数人で共有して暮らす賃貸物件です)。
問題となったのは、女性向けのシェアハウスを運営していたβ社のビジネスモデルです。同社は、一般のサラリーマン等を対象に新築の木造物件を購入させた後、それを一括して借り上げ、入居者に転貸するサブリース事業を展開していました。購入者に対しては、30年間の定額の賃料支払いが保証されていました。
しかし、2017年の秋ごろから購入者に対する賃料の支払いが滞るようになり、2018年には完全にストップしてしまいました。家賃保証の約束が守られなくなった背景には、β社の資金繰りの悪化がありました。経営難に陥った同社は、2018年4月9日に民事再生法の適用を申請しています。
このような状況の中で、β社に対しては、未払い賃料等を求める集団民事訴訟が起こされています。新聞報道によれば、β社の物件の購入者は1億円以上を借りている人が大半で、巨額のローン返済に苦しむオーナーは約700人に及び、被害総額は1千億円以上に達するともいわれています。
また、β社の物件に対する融資の多くは地方銀行のS銀行を通じて行われていました。被害者の中からはこのS銀行の責任を追及する動きも現れています。β社のビジネスモデルに欠陥があるのを知りながら、S銀行が自行の利益を図って不適切な融資を行った疑いが持たれているためです。
ちなみに、このトラブルの被害者による有志の集まりによって作られたホームページには、S銀行を告発する以下のような文書も掲載されています。
「詐欺スキームに手を貸した銀行のずさんな融資審査により、1000人もの被害者が出る信じられない事件となりました。
今ここに被害者オーナーが繫がり始め、お互いの情報共有により一人では決して解明できなかった詐欺的仕組みが徐々に明らかになりつつあります。
さらに、全く想像もつかなかったような強い弁護士団が形成されています。
銀行は「個々の事情に合わせて対応いたします」と耳障りが良いことを言っていますが、それでは1個人対銀行の形となり、いいようにあしらわれる姿が容易に浮かんできます。
銀行が現在提案する耳障りの良い提案は、裏を返せば銀行として最も都合のよい案です。
この提案にのって銀行に付き合っていると、詐欺で騙されて融資させられた必要以上のお金を、我々被害者自身で30年間返済することになります。」
金融庁もS銀行に対する調査を開始しており、融資の実態を把握するため銀行法に基づく報告徴求命令を発したことに加えて、同行に対する緊急の立ち入り検査も行ったことなどが新聞報道などで伝えられています。
なお、シェアハウス自体は、投資対象として必ずしも誤ったものではなく、立地をしっかりと選び、適切な事業計画を策定すれば、安定した収益の確保を十分に期待することができます。
「費用負担の強制」「連絡が取れない」といった被害も
これまでに紹介した2つのケースのほかにもサブリースを巡るトラブルは数多く起こっており、その被害者も増え続けています。そのため、消費者庁は、近時、同庁のホームページ上で、消費者の相談窓口である「消費者ホットライン」にサブリースや家賃保証に関して以下のような相談が寄せられていることを明らかにして注意を呼びかけています。
【勧誘に関する相談】
●母に対してアパートの建て替えと一括借り上げをするのでアパートを経営しないかと断ってもしつこく勧誘される。対処法は。
●不動産会社が高齢の父に相続税対策としてアパートを建てるようしつこく勧誘してくる。断りたい。
【費用負担等の契約内容に関する相談】
●10年前建設業者に勧誘されてアパートを建てたことに始まり、一括借り上げ、特約システム等次々に契約や費用負担を強いられる。
●電話勧誘を受け、首都圏にシェアハウス一棟の建築契約とサブリース契約を締結したが、契約時の約束と異なることがあり不安になっている。
【家賃の減額に関する相談】
●自宅の一部を賃貸するサブリース契約を締結したが、十分な説明がないまま家賃保証額を下げられ不満だ。サブリース契約をやめたい。
●15年前に両親が建てた賃貸アパートの賃料をサブリース会社が下げると言っている。ローンの返済も困難になり納得がいかない。
●14年前に賃貸アパートのサブリース契約をした。2年ごとに契約を更新するが、条件が悪くなる一方だ。納得いかない。
【事業者の対応に関する相談】
●投資目的でアパート一棟を建てないかと誘われ土地購入と建物建築契約を締結、ローンも実行されたが事業者と連絡が取れなくなった。
このように、賃料保証の約束不履行の他にも、「しつこい勧誘」「想定外の費用負担」「事業者のずさんな対応」など様々な被害が現れています。今や、サブリーストラブルは、かつての原野商法並の社会問題と化しているといっても過言ではないでしょう。