必要経費を考慮しない「表面利回り」
コストの話と関連して注意を促しておきたいのは「利回り」の問題です。利回りとは、投資資金に対する収益の割合であり、投資した物件からどれだけの利益を得られるのかを予測する指標として用いられています。アパートやマンションを購入するときには、「このアパートは年間7%の利回りで回ります」などというように業者の側から利回りが示されるはずです。
そして、この業者から示される利回りは「表面利回り」とよばれており、通常、以下のように年間の賃料収入の総額を物件価格で割り出した計算式で求められているはずです。
利回り=年間の賃料収入の総額÷物件価格×100
例えば、2億円の物件で1年間に1400万円の賃料収入が得られる場合には、「1400万円÷2億円=0.7」から利回りは7%になります。
この利回りの数字を見ると、「7%もあるのか、結構いいなあ」と思うかもしれません。
しかし、このような賃料収入だけを分子とした利回りの計算方法には実は「落とし穴」があります。それは、賃貸経営に必要となる経費が一切考慮されていないことです。
アパートやマンションは建てたときのイニシャルコストだけではなく、運用している間のランニングコスト(維持費等)も必要となります。具体的には、固定資産税・都市計画税、保険、修繕費等の費用があげられます。また、右で述べたADの費用やエアコン、インターネット設備等のコストも含まれることになるでしょう(さらに、最終的には建物を解体することになるでしょうから、その解体費用も考慮に入れておくことが必要となります)。
利回りを求める場合には、本来、それらの諸費用も含めなければならないはずです。つまり、利回りを正しく求めようとするのなら、年間の賃料収入から維持費等を引いた額を物件価格で割り出すべきなのです。その場合、計算式は以下のような形になるでしょう。
利回り=(年間の賃料収入の総額マイナス年間の維持費等)÷物件価格×100
例えば、上記のアパートの例で維持費等が年間で400万円かかるのであれば、「(1400万円マイナス400万円)÷2億円=0.5」から利回りは5%になります。
このように経費を入れて利回りを考えると、思ったほど利回りがよくないことに気づくことがあるかもしれません。
投資なら「土地代も含めた利回り計算」が基本
また、利回りに関しては、もうひとつ注意しておかなければならないことがあります。それは、業者から提示された利回りが、「建物の建築代金に対する利回りなのか」それとも「土地の価格も含めた利回りなのか」という点です。
例えば、所有する時価1億円の土地に1億円の建築代金でアパートを建てたとします。この物件を賃貸に出し、月で80万円の賃料収入、1年間では960万円の収益を得られる場合、次のような計算式を示して「表面利回りは、年利で9.6%になります」という業者が少なくないはずです。
960万円÷1億円=0.096
この計算式で分母(割る数)が1億円となっているのはアパートの建築代金が1億円だからです。しかし、本来は分母を2億円にしなければならないはずです。というのは、仮にこの物件を売却することになれば、建物だけでなく土地も含めて売ることになるからです。
その際、買う側も、当然、利回りを計算することになります。そして、その場合、どれだけの利回りを得られるかは、2億円の購入代金を基準に考えるはずです。具体的な利回り(表面利回り)の計算式は以下のようになります。
960万円÷2億円=0.048
買う側から見た場合、表面利回りは4.8%になるわけです。
このように土地代も含めて利回りを考えると、業者から提示される数字よりも大きく下がることになります。
投資として考えるのであれば、土地代も含めて利回りを計算するのは基本中の基本といえます。にもかかわらず、業者の側が、建物の建築代金だけで利回りを求めるのは、「利回りを少しでも大きく見せて買わせたい」という思惑があるからなのです。
福本 啓貴
株式会社イーミライ・ホールディングス 代表取締役
イーミライ・ホールディングス統括執行役員
最高経営責任者