印税は小説や音楽等の著作物に対する報酬
「夢の印税生活」という言葉がある。どうも、この場合の印税生活とは、いわゆる不労所得を指している。
ちゃちゃっと小説かなにかを書いて、それが売れればその後はなにもしなくても印税で食べていける。そんな書き終えたあとの不労所得生活を、「夢の印税生活」と言っているのだろう。
いわゆる印税は、小説や音楽等の著作物に対する報酬で、おおよそ本やCDなどの定価の10%くらいであろうか。ポイントは、たとえばそれが小説などの文学だとしたら、いったん書いてしまえばあとはなにもしなくても、自動的にお金が手に入るという〝夢の仕組み〞だ。
もちろん、不労所得といってもまったく仕事をしないで済ませられるわけではない。小説家は身を削り、心を削り、まさに命と引き換えに作品づくりをしている。だが、同じ小説でもそれが何部売れるかによって、印税額はまったく違ってくる。いくら文学的に高い評価を受けようが、売れなければ貧乏モーツァルト作家に甘んじるしかないだろう。
反対に、文学的な評価は低くとも、売れれば売れた分だけ金持ちプッチーニ作家として「夢の印税生活」を謳歌できるのだ。
作家といっても、貧乏モーツァルト作家から金持ちプッチーニ作家まで、まさにピンからキリまでいることは想像に難くない。しかも、貧乏モーツァルト作家が、金持ちプッチーニ作家より文学的に劣るかといえばそうではない。
毎年、芥川賞、直木賞をはじめ、多数の文学賞を多数の作家達が受賞するが、その受賞は決して金持ちプッチーニ作家になれることを保証してくれるものではない。とはいえ、いったん流行作家ともなれば桁違いの印税を手にするのも事実だ。
『火花』で芥川賞を受賞した又吉直樹氏の印税は3億円を下らないとも言われるし、『騎士団長殺し』の著者、村上春樹氏の印税は2億4千万円とも言われている。定価×発行部数×印税率が単純な印税額の計算方法だが、一般的な印税率は10%で、人気有名小説家になると12%に上昇することもあるらしい。
しかしながら、金持ちプッチーニ作家として流行作家生活を謳歌する人気作家達はやはり一握りの存在だろう。貧乏モーツァルト作家として、作家生活を続けられるひとはまだ恵まれた方で、大半のひとたちは作家稼業に見切りをつけ、作家以外の仕事を生業にしているのが厳しい現実のようだ。
作家の死後50年は子孫も「夢の印税生活」を享受!?
ちなみに著作権の有効期間は、現在の日本ではその作家の死後50年と定められている。つまり、その作家の子どもや孫も、作家の死後50年間は印税を受け取れる権利が相続できる。
たとえば、1972年に亡くなった川端康成氏の著作権は、50年後となる2022年まで有効となり、その印税は川端氏のお子さんやお孫さんの収入になっていることが推測される。
残念ながら、明治の文豪夏目漱石氏の場合は、1916年に亡くなっているため1966年で著作権も切れ、印税の支払いもストップしてしまっているのだろう。
もちろん、作家だけでなく、漫画家等の作品にもこの著作権や印税は該当する。
漫画家の手塚治虫氏が亡くなったのが1989年だから、2039年、つまりあと20年は「夢の印税生活」が続くと申し上げたらご遺族に不謹慎とお叱りを受けてしまうだろうか。
正林 真之
正林国際特許商標事務所所長・弁理士