日本は「倒産寸前の赤字会社」!?
柳澤 これ、この連載に出ていただく方全員に聞こうと思っているのですが、藤本さんは日本のいまの仮想通貨の税制についてどう思いますか?
藤本 思うところはありますね。仮想通貨に関する税制や税率をもっと効率よく整えてほしい。
柳澤 効率というところは、僕もまったく同感です。日本の財政赤字はヒドすぎる。いろんな理屈をこねる人もいますが、単純にたとえるなら、国としては倒産寸前の赤字会社ですよ。一方で、シンガポールは個人の所得税の最高税率は日本の半分以下で、キャピタルゲイン課税はゼロ、軽減税率が適用される優遇措置も豊富なのに財政黒字で、さらに余った税収は戻しますというスタンスです。こんなスマートな財政運営を日本も目指すべきだと思う!
仮想通貨での寄付に「税金」はかかってくる?
藤本 実は私が一番何とかしてほしいと思っているのは、寄付に関する税制なんです。「kizuna」という寄付のプラットフォームを運営しているからというのもありますが、仮想通貨による寄付の税制を改善してくれたら、ものすごく災害復興にも役立つと思うんです。
7月の西日本豪雨を受けてバイナンスが1億円寄付すると言ってくれたじゃないですか。私は「どこに寄付したらいいかな?」ってCZから相談を受けたんです。でも、仮想通貨の受け入れ体制が整っているNPOがない…。さらにさかのぼれば、コインチェックも'16年の熊本地震のときに数千万円単位の寄付をビットコインで集めていたんですけど、なかなか寄付先が見つからなかったようです。
柳澤 受け取ったところで、どうやってお金や物資に替えるかっていう問題はありそうですね。
藤本 でも、一番の問題は税金だと思うんです。受け取ったビットコインを現金に替えたら、高額の税金が発生する可能性がありますよね?
柳澤 おそらく、寄付した側にも課税が起きます。たとえば、50万円で買った1BTCが100万円になって、それを寄付しました。すると、寄付した瞬間に利確したと見なされて、寄付者は50万円の利益を受け取ったと見なされるでしょう。ただ、寄付金控除が使えれば、最終的にはトントンになるのかもしれません。
藤本 寄付を受ける側はどうですか?
柳澤 公益社団法人、公益財団法人、認定NPOであれば、ビットコインを受け取っても、換金しても課税されないケースもあると思います。
藤本 でも、認定NPOになるのも非常にハードルが高いですよね……。
柳澤 公益社団も公益財団もかなり厳しい。
藤本 ただ、ビットコインと寄付は非常に相性がいいはずなんです。なぜなら、トランザクションがあって寄付したビットコインがどこに使われたのかがわかるじゃないですか? コンビニの募金箱に入れた1,000円はどこに流れたかわかりませんけど、ビットコインなら少なくともどんな団体に寄付したのか、みんながわかる。
ブロックチェーンを利用すれば、プロジェクトごとの寄付も募りやすいと思うんです。「被災地の復興支援」みたいな大枠でなく、「被災地の子供の就学支援」などに絞り込んだり。さらに、送金コストをかけずに世界中から寄付を集めやすい。おまけに速い! 災害が起きたら瞬時に寄付金を送ることができちゃいます。ICOで寄付金を集められるようになったら、なおいいと思う。
柳澤 法的にはトークンの発行という、反対給付が伴うと寄付として見なされなくなってしまうと思うんですよね。
藤本 そうだとは思うんですけど、リターンを伴う寄付も認めてほしい。ちょっと表現が難しいんですけど、「寄付」っていうと、「お金を出してあげる」っていう上から目線の印象を持つ方もいるじゃないですか? 寄付を受ける方たちのなかにも「もらうばかりじゃ心苦しい」という方がいるんです。災害や緊急性を伴う寄付は別物ですよ。リターンなんて受け取りたいとも思わないでしょう。
でも、たとえば、家庭の事情でしっかりとした教育を受けられない子供に寄付するプロジェクトがあったとしたら、ただお金をあげるだけじゃ、子供の自立に繋がらないように感じるのです。将来、「何かを返す」という条件があったほうが受け取る側のモチベーションにも繋がると思う。それは別にお金に代わるものでなくてもいい。
柳澤 面白いとは思いますけど、仮に「子供トークン」を発行して寄付を集めても、課税は免れないでしょうね……。ただ、仮想通貨に関する課税はどんどん難しくなってくるとは思います。日本は仮想通貨同士の交換も課税対象になっていますけど、捕捉が難しい。DEX(分散型取引所)でビジネスを回したい人たちがいて、よく議論するんですけど、税制をシンプルにしないと限界がきてしまうと思います。
OmiseGoの柿澤仁さんともよく話すんですけど、「課税対象者がいない」というケースも考えられる。なぜなら、取引所を動かすためのトークンもあって、プログラム上まったく利益を生まないトレードも発生しているからです。人間でなく機械やプログラムが保有するウォレットアドレスが存在して、そのアドレスで利益の発生するトレードが行われた場合に、誰に課税するの?っていう問題もある。
仮想通貨の損益通算は、早くても再来年の改正&施行か
藤本 いい方向に向かいますかね?
柳澤 日本は世界に先駆けて仮想通貨取引にかかる消費税をなくしましたけど、その後の税制改革には進展が見られません。すぐによくなるとは考えにくい…。
藤本 ただ少なくとも、早く損益通算はできるようにしてほしいところです。株式投資やFXのように、3年間損失を繰り越せるようになれば、仮想通貨に資金が戻って来やすくなるでしょう。昨年末に入ってきた“出川組”の方たちのことを考えると3年以内に実現してもらわないと意味がありませんけど。
柳澤 早くても来年12月の税制改正大綱案に盛り込まれて、再来年の改正&施行というスケジュールじゃないかと思ってます。
藤本 柳澤さんの力でぜひ宜しくお願いします!
柳澤 できる限りのことはやっていきたいと思います!
(了)
藤本真衣
グラコネCEO/「KIZUNA」ファウンダー/withB adviser/GMOインターネット adviser / LayerX adviser/BRD advisor /MediBloc advisor / Zeex ambassador
神戸生まれ神戸育ち。大学在学中に家庭教師派遣の営業に夢中になり、大学中退。19歳からフリーランスとして活動開始。その家庭教師派遣の営業では日本トップの成績を納める。上京した後には、子供向けWebコンテンツ「キッズ時計」の立ち上げや、全国の「いいね!」を集める「いいね!JAPAN」などのコンテンツプロデュースに関わる。そのなかでビットコインに出会い、2014年にグラコネを設立後はブロックチェーンに関連するイベントプロデュースやマッチングビジネスを数多く手がけるようになる。「ミスビットコイン」の愛称で広く知られている。2011年から暗号通貨業界に携わり、印象的な経歴で業界の発展に寄与している。
柳澤賢仁
柳澤国際税務会計事務所代表/柳澤総合研究所代表/税理士
慶應義塾大学大学院経済学研究科修士課程修了後、アーサーアンダーセン税務事務所、KPMG税理士法人を経て2004年に独立。独立後に支援したスタートアップのなかからすでに2社がIPO。起業家の海外支援やビジネスモデル構築、ベンチャーファイナンス、M&A、海外税務のアドバイザリー業務など幅広く手掛ける。主な著書に『お金持ち入門』(共著)、『資金繰らない経営』などがある。