重要なのは「誰に向けて商品を作るのか」という点
すべての企業は何らかの商品を顧客に提供し、対価を得ることを生業(なりわい)としているため、規模の大小を問わず、どんな企業でも商品開発は非常に重要な活動であると言えます。この連載の3回目から前回まで、マーケティングは「誰に」「何を」「どのように」を考えることが大切だと繰り返しお伝えしてきました。今回は、その中の「何を」、つまり販売する商品の開発について考えてみたいと思います。
「作った商品を売るのはセリング、売れる商品を作るのがマーケティング」という言葉があるように、商品開発はマーケティング活動の一分野です。したがって、「何を」を考える時にも「誰に」「どのように」は欠かせない要素となります。
商品開発には自社の強みを活かした商品を作ろうとする商品開発と、消費者のニーズに応える商品を作ろうとする商品開発の2つの方法があります。どちらの方法を選ぶにしても、「誰に」向けて商品を作るのか、ターゲットを明確にすることが大切です。
パナソニックはオフィス用パソコンの需要が一巡した2000年以降、屋外でパソコンを使う警察や電力会社などにターゲット顧客に絞り込み、ターゲットの求める軽量で長時間駆動する新型パソコン「レッツノート」を開発しました。自社の強みである技術を「誰に」向けて使うのか、それを明確にしたレッツノートは、屋外や出張先でパソコンを使うことの多いビジネスパーソンのニーズを満たすことで高い支持を得ています。
また、哺乳瓶で有名なピジョン株式会社は、自社商品のターゲットを乳幼児に絞り込み、乳幼児を持つ母親のニーズに応える商品開発に徹することで、独自のポジションを確立しています。「誰に」向けた商品を作るのか、ターゲットが明確でぶれないからこそ的確にターゲットニーズを捉えることができ、顧客から支持される商品づくりができているのです。
旭酒造が「獺祭」を3万円超で売る手法とは?
そして、「どのように」も商品開発では忘れてはならない大切な要素です。商品を作ってから売り方を考えるのではなく、売り方も考えながら商品開発することで、より売れる商品づくりが可能になります。
マーケティングには売り方を考える時に役に立つ枠組みがあります。「商品(Product)」、「価格(Price)」、「販売場所・販売ルート(Place)」、「販促(Promotion)」の頭文字をとって「4P」または、「マーケティング・ミックス」と呼ばれる考え方です。
[図表1]4P(マーケティング・ミックス)
「獺祭」というお酒をご存知の方は多いでしょう。山口県の旭酒造株式会社が最新の醸造技術で作った高品質なお酒として知られています。獺祭ブランドの最高ランク商品は720mlで3万円を超えています。なぜこんな価格で売ることができるのでしょうか。先ほどご紹介した4Pで考えてみましょう。
[図表2]獺祭の4P(マーケティング・ミックス)
このように見ると獺祭が高価格でも売れる理由は、商品の品質はもちろんのこと、登録特約店への直販という旭酒造独自の販売方法にあるといえるでしょう。
高品質なお酒を適切な保存方法で保管し、対面販売でじっくり商品説明して顧客に納得して買っていただく。特約販売店制度で値崩れを防ぎながら、獺祭ファンを増やす仕組みができていると言えます。一般の高級酒よりもさらに高い価格で売る旭酒造の価格戦略は、販売戦略と合わせて商品開発の段階から考えられていたのでしょう。
「リニューアル」も重要な商品開発活動の一つ
さて、商品開発とは新商品を開発することはもちろんのこと、既に販売している商品をリニューアルすることも商品開発の活動の一つです。商品は市場に導入されてから売上を徐々に上げて行き、販売量のピークを迎えた後、ゆるやかに販売量を落としていくと言われています。これを「製品ライフサイクル」と呼びます。
[図表3]製品ライフサイクル
いくら発売開始時に魅力のある商品でも、発売を始めた時からずっと同じパッケージデザインや中身で売れ続けることはまずありません。ある大手家庭用食品メーカーは、新発売から3年目に必ずリニューアルをするというルールで商品開発を行っています。パッケージデザインのような見た目で分かるリニューアル以外にも、時代に合わせた微妙な味の調整も必ず行っています。
衰退期に入った商品をリニューアルすることで再び成長期に戻していく、こうした絶え間ない商品開発活動がロングセラー商品の裏側にあります。既存商品で安定した売上を確保するためには既存商品の見直し、リニューアルを計画的に行うことが大切です。
次回は、4Pでも取り上げた販促(プロモーション)に焦点をあてて解説します。