「事業への覚悟」がなければ、出資は得られない
前回までに、ベンチャーキャピタルから出資を受けるための方法について述べました。ひと言でまとめれば、あらゆる手段を使って積極的にベンチャーキャピタルにコンタクトを取ろうということです。
まずは会わなければ始まりません。しかし会えば出資してくれるかと言えば、そんなに甘くはありません。エンジェル投資家から出資を受けるのにもさまざまな心構えが必要でした。ベンチャーキャピタルに対しても必要な心構えが大きく6つあります。
以下にポイントを説明していきます。
①事業に対する情熱やパッションを持つ
スタートアップ企業の経営者にインタビューすると、多くの経営者が投資を受けるために必要な項目として、情熱やパッションを挙げています。お金を儲けるために起業したのではなく、何かを実現したり、問題を解決するために起業しているかどうかが問われるのです。
また、その想いがあなたの実体験から来ているものなのかどうかに興味を持つベンチャーキャピタルが多いです。なぜなら、ベンチャーキャピタルは、お金を儲けるためだけに起業した会社が、長続きしないことを知っているからです。ピッチコンテストなどのプレゼンテーションでも、あなたの想いがどれだけ伝わっているかがポイントになります。
事業のこと以外は何もできないと覚悟するぐらい事業に没頭しないと、会社を成長させることはできません。経営をしているとやるべきことが、次から次へと発生します。それらに追われる大変な日々を送ることになるでしょう。
その覚悟がない人にベンチャーキャピタルは出資してくれません。情熱やパッションがなければ、その覚悟も生まれないでしょう。
②自らの事業を端的に説明する
そもそもベンチャーキャピタルから出資を得ようと思っているあなたは、事業への想いがいっぱいなはずです。投資家に伝えたいことはたくさんあるでしょう。
しかしその全てを聞いてもらえるほど、ベンチャーキャピタルに時間があるわけではありません。たくさんの想いの中から、何を一番伝えたいのか、はっきりと優先順位を付けましょう。10秒以内であなたの会社の特徴を伝えられればベストです。その時間で興味を持ってもらえれば、出資してもらえる可能性は高いと言えます。
③ユーザー視点でものごとを見る
商品やサービスを提供する上で大切なことは、ユーザーの視点でものごとを見て、考え、施策を実行していくということです。
たとえばあなたの商品がソフトウェアであれば、ユーザーの利便性や操作性が高いのはもちろんですが、それだけではなく、あなたがユーザーならお金を払ってでもサービスを使いたいかということです。
無料であれば試しに使ってみようという人も多いでしょう。ところが、お金を少しでも払うとなると、使ってくれるまでのハードルが一気に上がることになります。そのハードルを乗り越えられるくらい、利用者にとって価値があるものなのか考えてみることが大切です。
戦略的にまず無料のサービスを提供して、その後課金していくというビジネスモデルはもちろん有効です。しかし、無料で提供するサービスがお金を払ってもらえるレベルのものでなければユーザーは感動・感激しませんので、その後の課金もおぼつかないのです。
Webサイトを運営している人ならGoogle Analyticsという分析ツールをご存知でしょう。無料で提供されているツールですが、Googleが提供するまでは同等機能の製品が10万円以上で販売されていました。それほどのツールを無料提供したからこそ、Googleの広告ビジネス(Google AdWordsなど)は大成功したのです。
景気が良いときには、多めに資金調達しておく
④市場環境が良好なときには多めに調達をする
景気が悪くなると株価は一気に下がりますし、市場環境を示す数値(失業率など)が良好だと、株価も上がっていきます。これは、ベンチャーキャピタルとのやり取りでも同様です。
ラウンドが上がると、相手があなたの会社に価値があると判断してくれるようになり、最初に設定した株価の評価も上がっていきます。すると資金調達がしやすくなります。その評価も景気が良いほど上がりやすくなります。したがって景気が良いときには、景気が悪くなるときに備えて多めに資金を調達しておきましょう。
⑤調達したい金額と投資方針が合致しているか確認する
会社の成長段階において、必要となる金額は変わってきます。
創業段階であれば500万円程度で十分で、数億円もの金額は必要ありません。その段階では創業したばかりの会社(シードやシリーズA)への少額投資を専門にしているベンチャーキャピタルを探すのが効率的です。
一方、会社が成長してきて何億もの資金が必要なのに、創業専門のベンチャーキャピタルと話をしても、500万円程度の金額を提示されてしまい、両者の意向が合致しません。
日本のビットコイン市場を牽引しているbitFlyerの加納裕三社長は、以下のように述べています。
「基本的にラウンドがミスマッチしていると、話が進みません。僕らも次はシリーズCなので、その時にシードのインベスターが1000万円出資しますとなっても、多分お互いの利益が合わない可能性が高いです。僕らが昔やってしまったのは、シードのときにシリーズCの投資家に話してしまいました。ワンショット10億円ですと言われてもどうにもならないです。
ラウンドがミスマッチしている状況ってお互い時間のムダなので、そこからはこの規模のファンドならこれくらい出せるから、自分達のラウンドとマッチしているということは意識するようにしました」(資金調達の情報サイト「資金調達プロ」より)
現在自社がいるラウンドと、ベンチャーキャピタルが主に投資をしているラウンドが合致しているかどうか確認することが必要なのです。
⑥この人であれば生涯付き合えるという人を選ぶ
投資をしてくれる人を選ぶときに、最も重要視しなくてはならないことが、「この人であれば生涯付き合える」と思えるかどうかということです。株価を高く評価してくれて、金銭的にいい条件で出資してくれるとしても、投資家との価値観や考え方が合っていなければ、中長期的な成長は見込めません。
あなたが投資家に選んでもらうことと同時に、投資家を選ぶという意識も置いておきましょう。
数社断られたぐらいでめげずに、積極的なコンタクトを
ベンチャーキャピタルから起業資金などの出資を得るために、必要となる情報をお伝えしてきました。
資金を供給してくれるベンチャーキャピタルが格段に増えました。そして、多くのベンチャーキャピタルは、お金儲けの手段としてよりも、社会の課題や不便さを解消してくれる経営者と出会うことを望んでいます。
ベンチャーキャピタルとのコンタクトについては、電話やホームページ経由だけでなく、TwitterやFacebookからでもできるところが多いです。あなたの事業に賭ける想いを事業計画書にまとめて、積極的にベンチャーキャピタルにプレゼンテーションしましょう。
しかしながら、ベンチャーキャピタルが支援できる会社は、問い合わせ100社に対して2、3社と言われています。投資金額や人的リソースに制限があるため、ベンチャーキャピタルはシビアに選定を行わなければなりません。
ですから、数社のベンチャーキャピタルに断られたぐらいでめげずに、数多くのベンチャーキャピタルと接触していきましょう。あきらめずに事業アイデアや想いをブラッシュアップしていけば、事業資金の獲得につながっていくはずです。