フィリップ・コトラー博士提唱のフレームワークの1つ
自社の商品・サービスを販売する時に最初に考えるべきことは、「だれに、なにを、どのように(どのような価値を提供するか)」の3つです。できるだけ具体的に、自社の商品・サービスを買ってくれるであろうお客様を絞り込み、競合の商品・サービスとの違いを明確にすることで、より効果的に商品・サービスの販売ができるようになるからです。
では、どうやったら「だれに、なにを、どのように(どのような価値を提供するか)」を効率よく考えることができるのでしょうか。その手助けとなるフレームワーク(枠組み)が世界中で使われている「STP」という枠組みです。
これはマーケティング界で有名なフィリップ・コトラー博士が提唱した代表的なフレームワークの1つで「セグメンテーション(Segmentation)」「ターゲティング(Targeting)」「ポジショニング(Positioning)」の3つのステップで作られています。
[図表1]STPの3ステップ
では、「STP」の3つのステップを一緒に考えてみましょう。
最初に「セグメンテーション(市場細分化)」(図表1左)を行います。これは市場にいる様々なお客さんを複数の切り口で切り分ける作業です。切り口は、住んでいる地域や、年代、性別、趣味や関心事などが挙げられます。
例えばあなたがオーガニックフードのお店を出すとしたら、東京都の市場を「東京23区・それ以外」「男性・女性」「未婚・既婚」「食に関心がある・ない」といった様に目的に合わせた切り口で市場を細分化する作業になります。
次に「ターゲティング(標的市場の決定)」(図表1中央)を行います。自分たちの商品・サービスを細分化した中からどのお客さんに売るのかを決める作業です。
お客様を決める基準はいろいろありますが、どのくらいの人数がいるのか、あなたの商品・サービスにいくらなら払ってくれそうか、それで採算は取れるのか、実際にその人たちに情報を届けられるのか、といった基準で考えます。
先の細分化した市場の中から「東京23区内に住む、30代~60代の既婚者で、食に関心が高い女性」を選びだすといった作業になります。
そして最後に「ポジショニング」を考えます。市場には数多くの競合がいますから、あなたが「このお客さんに売りたい」と決めただけでは選んでもらえません。お店なら立ち寄ってもらい、購入してもらえなければ売上になりません。「ものあまり」と言われる時代です。競合とのはっきりとした違い(差別化)を出すことが必要です。
競合のオーガニックフード店がレシピ付き(情報)の産直野菜(副食)を売りにしているなら、あなたのお店は和食器(モノ)と充実した品ぞろえの無農薬米(主食)を売りにするといった、自分のお店のポジションを明確にする作業です。
いかがでしょうか。「STP」の枠組みを使うと「だれに、なにを、どのように(どのような価値を提供するか)」が効率よく考えられることが分かっていただけたと思います。
STPの活用で「新たなビジネスモデル」を立ち上げた例
さて、世の中の変化に合せて商品・サービスを見直してゆくことは企業経営においてとても重要な事です。世の中の変化に合せて市場を再度細分化し直し、新しいターゲットを見つけて、競合と差別化したポジションで市場参入した事例を紹介しましょう。
葬儀業界は高齢化社会を迎え、利用機会は増えていく分野と言われています。葬儀社はこれまで配偶者や同じ地域に住む子供、または親戚から葬儀の依頼を受けたり、病院の紹介で直接依頼を受けたりするのが一般的でした。しかし、最近では地域との関係が希薄化していることや、核家族化の進展により小規模のお葬式が増えています。また、亡くなった方の地域を知らない遠方に住む家族がネット検索で葬儀社を探すことが増えてきました。
この市場変化を捉えた「小さなお葬式」を運営する株式会社ユニクエスト・オンラインは、全国統一価格の小規模なお葬式をオンラインで販売しています。同社はサービスの企画、申込受付と代金回収を行い、実際の葬儀は全国で提携している地域の葬儀社に取り次いでいます。
従来の葬儀社とユニクエスト・オンラインをSTPの枠組みでとらえ直してみましょう。
[図表2]従来の葬儀社とユニクエスト・オンラインのSTPの違い
少子化・核家族化にともなう地縁の薄い親族の増加と葬儀の小規模化、インターネットの普及による商圏拡大の機会と葬儀価格の不透明性に対する消費者の不満という世の中の変化をくみ取り、市場とターゲットを再設定して、地域の葬儀社の集客役となる新しいポジションとなるビジネスモデルを立ち上げた。これがユニクエスト・オンラインの成功につながったのでしょう。
自社の商品・サービスの販路拡大、集客力アップを考える時には「だれに、なにを、どのように(どのような価値を提供するか)」を効率よく考えることができる「STP」の枠組みをぜひ活用してみてください。