市場の選択・発見に役立つ「SWOT分析・KSF」
自社の商品・サービスを売るために、どの市場をターゲットとするかは企業にとって非常に重要な判断です。お客様がたくさんいる大きな売上が見込める市場で勝負する、お客様の数は少ないけれど必ず一定の売上が見込める市場を狙う、お客様を年齢や性別などで細かく分けて一つに絞って攻勢をかける、など様々な選択肢があります。
また、誰にも気づかれていない市場(潜在市場)を発見するという方法もあります。新市場を発見し、他社に先駆けてその市場にアプローチをかけることができれば大きな成果を得ることが期待できます。
マーケティング戦略では、こうした市場の選択や新市場の発見のためにSWOT分析を行うことや、業界のKSFを発見することが重要であるとされています。
●SWOT分析とは
企業をとりまく環境を、内部環境である自社の強み(Strengths)・弱み(Weaknesses)、外部環境である機会(Opportunities)・脅威(Threats)に分けて情報を整理、分析する手法です。
[図表1]SWOT分析
●KSFとは
ある特定の市場・業界で成功するための事業に欠かせない主要成功要因(Key Success Factor)のことです。価格、規模、接客力などさまざまな要素があり、業界によって異なります。競争構造が変化するとKSFも変化する場合があります。
2012年当時のライザップのSWOT分析の結果
「結果にコミットする」のキャッチフレーズと、印象的なCMのライザップは皆さんもよくご存じでしょう。このRIZAP株式会社が提供するサービスは、もともとはRIZAPグループ株式会社の前身である健康コーポレーション株式会社が2012年に始めた新規事業です。
健康コーポレーション株式会社は、2003年設立のダイエット補助食品の豆乳クッキーやスキンケア商品どろあわわ、美顔器のエステナードなどのヒット商品を持つ美容・健康関連商品の通信販売会社です。ライザップは2012年に瀬戸 健社長が今の企業理念である「人は変われる」を証明したいと始めた事業で、2018年2月には会員数が10万人を突破するまでに急成長しています。
ライザップが事業を開始した2012年当時、一体どのような市場機会が瀬戸社長の前にあったのでしょうか。SWOT分析とKSFの発見を通じて、市場機会の発見を見てみましょう。
[図表2]ライザップ2012年当時のSWOT分析
強み:ライザップの強みは何と言っても美容や健康、ダイエット食品の業界で培った経験と知識、そして顧客情報でしょう。大ヒット商品を生み出したノウハウは貴重な経営資源です。
機会:2012年当時フィットネスクラブ市場は、長引くデフレやリーマン・ショックなどの景気動向の影響を受けることなく順調に成長しており、特に女性専用フィットネスとして有名なカーブスなど事業コンセプトとターゲットが明確なフィットネスクラブが成長していました。
また、施設の規模と料金の二極化も始まりサービス形態も多様化していました。今後も日本全体の健康志向を背景に、フィットネスクラブの市場規模は拡大を続けると予測されていました。
弱み:ライザップにとってフィットネスクラブの運営は初めての試みです。接客ノウハウもなく、実績、知名度、信頼度は無いに等しい状況でした。
脅威:市場にはすでにフィットネスクラブが多数存在しており、後発企業のライザップが同じやり方で参入しても勝ち目がないことは明らかでした。
ニーズが多様化したフィットネス市場のKFSとは?
従来のフィットネスクラブのKSF(主要成功要因)は、①立地(通いやすい場所にあり)、②設備(いろいろなトレーニングができ)、③スタッフ(適切なトレーニング指導が受けられる)の3つでした。
しかし2012年頃にはフィットネスクラブ市場はお客様の幅が広がり、ニーズが多様化しました。お客様はより自分のニーズにあった適切なサービスを求めるようになり、フィットネスクラブ市場のKSFには、①分かりやすいサービス(特定分野に特化した課題解決方法を)、②絞り込まれたターゲット(特定分野に強いニーズを持つ顧客に提供する)、という2つのKSFが加わり、市場の競争構造に変化が生まれていました。
ここにライザップがフィットネスクラブ市場に進出するチャンスがありました。2012年当時のライザップのSWOT分析からは、新しく発見した2つのKSFを取り入れた、ライザップだからこそできる市場機会の発見を見ることができます。
[図表3]SWOT分析から導かれるライザップの事業機会
実際に瀬戸社長がこのように市場機会を発見したかどうかは分かりません。しかし、ライザップ成功の裏側にはこうしたマーケティング戦略が存在していたことは間違いないでしょう。
市場機会の発見は事業を成長させるために欠かせないマーケティング活動です。経営者は定期的にSWOT分析による内部環境、外部環境の整理、KSFの確認を通じて市場機会を探すようにしてください。
さて、ライザップはサービス開始時のターゲットは富裕層でしたが、一般の人も大きな反響を示していることがわかり、ターゲットを富裕層から一般層へ広げる変更をしています。当初想定していたターゲットではない人たちが反応していたというのは実際によくあることです。
次回はどうやってターゲットを決めるのか、どのように自社の商品、サービスを競合と差別化してターゲットに見せるのか、についてお伝えします。