早く売って儲け損なっても、利食いできていればよし
江戸の相場格言には、数字を挙げて売買のタイミングを指示している箇所があります。たとえば、「二割上がれば十中八九下落する」。これは、2割上昇すれば8割、9割の確率で下落するということです。
また、「二割三割向かう理と知れ」は、正確には「高下とも五分、一割にしたがいて、二割、三割は向かう理と知れ」という格言で、5%、10%の上昇には付いていっていいが、2割、3割上がった相場は必ず下がるものだ、ということを述べています。
具体的な数字は出てきますが、ここで見るべきは2割や3割といった数字自体ではありません。なぜなら、米相場と株式相場ではそもそも多くの点が異なり、また株式相場でも市場環境や個別銘柄の状況によってどこまで上がるか、どこまで下がるかは変わってくるからです。
では、これらの相場格言から何を学べばよいのかといえば、具体的な割合ではなく「行き過ぎた相場は必ず下落するものだ」ということと、だからこそほどほどのところで売っておくべきであるということです。利益が出ているときに売っておけば、それが100円でも200円でも300円でも儲かったことには変わりありません。
「早く売り過ぎて儲け損なった」と思うこともあるかもしれません。しかし、損をしたわけではなくあくまで利食いできているので、それでよしとすればよいのです。
ネット証券の場合、現在は非常に手数料が安くなっているので、儲け損になったことがどうしても気になるのであれば、再エントリーという手もあるでしょう。その結果、最初は100円の利益確定、再エントリーでは30円の損切り、トータルでは70円の利益になったとしても、最終的にはプラスでその銘柄の取引を終えられているので、ほどほどには成功したと言えるのではないでしょうか。
いちばん簡単な上値の目安は「前回高値」
すでに述べたように2割や3割などといった相場格言の中の数字には、あまり意味はありませんが、「ほどほどのところ」とは一体どの程度だと考えておけばよいでしょうか。実際には、買ったタイミングや買いの根拠が重要になってきますが、ここでは「上値の目安」ということでいくつかヒントを出しておきたいと思います。
まず、上値の目安でいちばん簡単なのは「前回高値」です。前回の高値くらいまでは戻ることはよくあるので、そこを目安としておくという考え方です。高値に挑戦して、高値を抜けなかったら下げに転じる可能性があるので、そこで売るというパターンもあります。
また、新高値をつけた銘柄の場合は、「前回高値」という目途はもう効きません。その場合は、「前回の上昇幅」が目安になる可能性があります。ただし、新高値を付けるときはすでに「買われ過ぎ」になっているケースも多い点には注意が必要でしょう。
もうひとつ、上値の目安としてよく言われるのは「移動平均線からの乖離」です。移動平均線からだいぶ上に離れてしまったと思ったら、売りタイミングの目安になります。もし、利益確定ではなく損切りの場合は、移動平均線を下に乖離した場合が目安になったり、あるいはもっと手前の移動平均線を割ったらもう売ってしまうというのもあります。
こうした上値の目安となるパターンをいくつも覚えておけば、下げに転じる前にしっかり利益確定ができるようになるのです。ここでは、「前回の上げ幅が目安になる」という例で、少し長い期間になりますが花王のチャートを見ていきたいと思います。
2016年11月15日に安値を付けて、そこから押し目を挟みながら3月下旬あたりで6000円を付けていて、約1000円上昇しています。次の上昇局面は4月17日の約6000円から始まっていますが、前回と同じ上げ幅だとすると6000円+1000円で7000円くらいが目安ではないかと考えられます。
そして、実際に6月7日に7178円という高値を付けて、下落に転じました。ですから、前回と同じ上げ幅のところで売っておけば、どこで買ったかにもよりますがとりあえず利益を確保することができるというわけです。
この花王の例は、前回上げ幅ときれいに一致していて、かつ相場格言のまさに「二割上がれば」のとおりとなりました。当然ながら、常にこのような結果になるとは限りませんが、頭に入れておいて損はないパターンだと言えるでしょう。
[図表]花王(4452)