江戸時代の米相場には、現代のテクニカル分析にも通じる手法で、時の将軍を超えるほどの財を成した相場師たちがいました。その投資術には、時代を超えて通用する「株式投資の必勝法則」を読み解くヒントが隠されています。本連載では、数々の相場格言を現代のチャートに当てはめながら、天井を見極めて利益を確定させる「売り」の秘訣を解説します。

「売る根拠」があるときは、躊躇なく売ることが大切

「売り」も、基本的には「買い」と同じように考えて行動します。つまり、しっかり売るタイミングを見極めて、「売る根拠」があるときには含み益・含み損いずれの状態であっても躊躇なく売るのが大切ということです。

 

ただ、「買い」とは違う点もあります。「買い」の場合は、慎重に買い場を探して最終的に「買わない」という選択肢もありますが、「売り」の場合はすでに保有しているためいつかは必ず売ることになります。根拠もなく、「いつまでも売らないで持ち続ける」という選択肢はあり得ません。

 

買ったものを売ることは、リスク回避のために非常に重要です。この場合のリスクとは、含み益が減ってしまうこと、あるいは含み損が拡大することを指します。売ってしまえば、そこから含み益が減ることもありませんし(増える可能性もなくなりますが)、含み損を抱えている場合にも損失が増えていくことはなくなります。

 

非常によく聞く「売り」の相場格言に、「利食い千人力」や「見切り千両」がありますが、どちらの相場格言も売ることを肯定しています。利食いでも損切りでも、ぐずぐずせずにさっさと売ることは常に正解なのです。

 

とは言え、ただ何も考えずに適当なタイミングで売るだけでは、大きな利益は見込めません。売りに関する相場格言には「利は伸ばせ」というものもあります。上昇した株価がいつ下落に転じるのか、下落するところをしっかり見定めて売ることも大切なのです。

 

そのためには、ローソク足や移動平均線などから「売りの形」を何パターンか覚えておくとよいでしょう。特に、「売りの形」の背景にある相場参加者の心理は常に意識しておいて欲しいと思います。

 

「売り」を上手にできることこそが、株式投資の成功につながると私は考えます。本連載では、「売り」に関わる心理的な側面について考えると共に、「売り」の具体的なタイミングの図り方を相場格言を用いながら見ていきたいと思います。

「信用取引」は大きな含み損を抱えるリスクが・・・

ところで、江戸の米相場は先物取引が主流だったため、「売り」から入る取引も一般的に行われていました。そのため、「売り」に関わる格言では、買ったものを手仕舞いするための「売り」ではなく、空売りを指したものが多くあります。

 

たとえば、本連載で紹介する「順鞘は売り」という相場格言の「売り」は、本来は手仕舞い売りではなく空売りのことです(ただし、本連載では手仕舞い売りの話として説明しています)。

 

現在の株式相場でも、信用取引を利用することで「空売り」が可能です。ただ私の考えとしては、本連載では信用取引、特に空売りはおすすめしません。

 

なぜなら、必要がないと思うからです。信用取引は確かに手持ちの資金以上の取引ができるという利点はありますが、思惑通りに株価が動かなければ大きな含み損を抱えることになってしまいます。

 

特に、空売りの場合は、損失が青天井に膨らむ可能性があります。

 

100円の株を買って下がった場合、最大でも損失は100円ですが、100円で空売りして、その後500円まで上昇すれば400円の損、1000円まで上がれば900円も損をすることになるからです。さらに、どこまで上がるかはわかりません。

 

「でも、下げ相場は売りから入らないと儲からないから」と言う人もいますが、そんなことはありません。

 

どんなに下げている相場でも、上がる銘柄は少数ながらあるものです。無理に「ここからもっと下がる銘柄」を空売りするよりは、そうした上がる銘柄を探していけばいいのです。

 

もっといえば、相場全体が下げている途中でわざわざ「何か取引しなくては」と考える必要はありません。いつ何どきでも少しでもいいから利益を得たいと思うことこそ、江戸の相場格言で強く戒めている「焦り」だからです。

「江戸のウォーレン・バフェット」に学ぶ 常勝無敗の株投資術

「江戸のウォーレン・バフェット」に学ぶ 常勝無敗の株投資術

清水 洋介

幻冬舎メディアコンサルティング

「どうもうまくいかない」「なかなか儲からない」これこそ株式投資で誰もが必ず直面する問題……。 そんな悩みを解決すべく、時代を超えても通用する、先人たちの投資成功術をまとめた一冊。 どんな時代にも通用する「株式投…

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