本連載では、株式会社スパークス・グループ代表取締役社長の阿部修平氏と、株式会社ASTRAX代表取締役の山崎大地氏が、「宇宙ビジネス」の可能性について前編・後編に分けて考察します。前編は阿部修平氏です。

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次々と宇宙ビジネスへの参入を発表する有名起業家

ジェフ・ベゾス氏のブルーオリジン、リチャード・ブランソン氏のヴァージン・ギャラクティック、そして、イーロン・マスク氏のスペースXと有名起業家たちは次々と宇宙ビジネスへの参入を発表しています。

 

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約30年にわたり、スパークスは投資の世界で未来を展望しようと努力してきました。最近、いろいろなご縁があって、宇宙ベンチャー企業の経営者にお会いする機会があり、今がまさに宇宙ビジネス参入の時だと思うようになりました。今回は、そんな私の考えをご説明いたします。

 

■月に基地ができる時代はもうすぐそこだ

 

これまでスパークス・グループは、宇宙ビジネスに取り組むベンチャー企業数社に投資してきました。投資先の宇宙ベンチャー企業のお話を聞いて、私は、宇宙ビジネスには勝算があると確信するようになりました。長期的な話になりますが、私が感じる宇宙ビジネスの可能性についてお話ししましょう。

 

昨年末、月に乗り物(ローバー)を運ぶチャレンジをしているアイスペースへの投資を行いました。2年後には、実際に運ぶ予定だそうです。なぜそこまでして月に到達したいのかと、不思議に思われるかもしれませんね。実は月の上に行くと、本当にいろんなことができるんです。

 

まず、月の映像がリアルタイムで入ります。そうすると、月面に関する調査が急速に進みますよね。月には水があるかもしれないと言われています。もし発見できれば、月に住んだり、宇宙開発の拠点を作ることも夢ではありません。

 

月に拠点を作れれば、宇宙開発の費用が劇的に下がります。アイスペースの試算では、現在の100分の1になるといいます。

 

なぜそんなにコストカットできるのかというと、引力圏を突破する必要がなくなるからです。通常、宇宙船は引力圏を出るのに90パーセントの燃料を使いますが、それが殆どいらなくなるのですから、大きな変革です。

 

そうすると、月から安価に衛星を打ち上げることが可能になるため、衛星の数が増え、GPSの精度を大きくあげることができます。地球上のほぼ全地域のリアルタイム情報を24時間常に入手できるようになるのです。私のような素人が考えても、これが実現すると、その応用領域はものすごく大きいですね。

 

月に基地ができる時代が、10年から20年後には来るのではないでしょうか。実際に月に旅行する時代も、今後30年くらいのうちに始まるのではと思っています。

 

実際に月に行かなくても、今はVR(仮想現実)の技術開発も進んでいますから、たとえばマクドナルドの月1号店を作って、VRで“スペースマック”を食べられたら面白いですよね。そういう世界が仮に現実になったら、それだけですごいキャッシュフローを生むビジネスを始められます。

 

人生100年の時代をむかえて、みなさんの多くは、宇宙に旅立つ経験をするようになると思います。お子さん、お孫さんは実際に月に住むかもしれません。そういう新しい大きな可能性が今、眼前に広がっています。

 

しかし、宇宙ビジネスが本格的に動き出すまでの30年の間、宇宙開発のフロンティアに立っている人たちが利益を出さずに霞を食べて生きていく訳にはいきません。私たちのような投資家が今投資をしないと、30年後の未来はないのです。だからこそ、投資家や、ファンドの果たす役割は大きいと考えています。

 

今から約500年前、コロンブスが大航海時代を成功させたのは、リスクマネーを提供したスペインのイザベラ女王だと言われています。現代、宇宙を舞台にした大航海時代には、宇宙ビジネスにリスクマネーを提供する「イザベラ女王」が必要だと考え、スパークスも投資を始めています。

人工衛星の数が増えれば「自動運転」の精度も向上

■自動運転の実用化も宇宙ビジネスが鍵に

 

宇宙開発で拓ける具体的なビジネスチャンスは、衛星を使った自動運転です。スパークスは、2015年からトヨタ自動車や三井住友銀行など計20社が出資した「未来創生ファンド」を運用しています。

 

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AI(知能化技術)、ロボティクス、水素社会インフラが3大投資テーマで、宇宙関連ですと、人工衛星開発のQPS研究所、衛星測位システムのマゼラン、そして、衛星通信アンテナ開発のカイメタに投資しています。

 

人工衛星の数が増えていくことで、こうした企業が新しいサービスを提供する場がどんどん増えれば、自動運転の精度は大きく向上していくのです。

 

自動運転の技術発展は、私たちの生活を飛躍的に変えます。たとえば、高齢になっても行きたいところに行ける自由がある。これは、その人の尊厳にかかわる問題です。私たちがいつまでも人間らしく、尊厳をもって生きられるようにサポートしてくれるのが、自動運転の技術なのです。

 

自動運転の技術の中でも、今多くの企業が取り組んでいる領域は、センサーの開発です。見て聞いて触る、ということを繰り返すうちに、センサーの内部にはデータがどんどんたまります。その膨大なデータをベースにより正確な判断が瞬時にできるようになる事で、レベル5(場所の限定なくシステムが全てを操作)の自動運転も可能になります。

 

今後の自動運転をすすめていく上で、地球上の2次元映像データが、宇宙からの情報をもとに、立体的な3次元データの世界に変わっていくと私は思っています。

 

そのフロンティアに立っているのが、私たちがお話をしている宇宙ベンチャーの経営者の方々なのです。みなさんが宇宙に行き、社会の機能の一部が宇宙に移管されはじめる。そしてそれが、地球上での生活のクオリティを上げるのに貢献する。30年先にはこのような世界が現実のものとして始まっている事を、私はイメージしています。

 

■今、投資しなければ宇宙ビジネスの未来はない

 

アイスペースへの投資を決めたときに私が考えた具体的なポイントについても、少しお話します。

 

まずなんといっても、事業の独自性と将来性です。ロケットを安価で上げることを追求する企業は、すでにアメリカを中心にいくつかあります。もちろんロケットを安価に上げる技術には大きなチャンスがあります。

 

私はアイスペースの話を聞いた時に、その次の時代、つまり人間が宇宙で生活し、宇宙空間が一つの生活空間になっていく新しいビジョンと可能性を感じました。月にモノを持っていき何かしようと考えている日本の会社は、私の知るかぎりアイスペースだけです。そういう意味で、アイスペースには他の企業にはない独自の可能性と将来性を感じます。

 

アイスペースは2年後にローバーを月に運んで月の上を走らせることを目標としています。もし今回の挑戦がうまくいかず、プロジェクトが先に延びたとしてもノウハウは蓄積するので、挑戦し続けることでこの会社の価値は上がる。そう考えたことが、投資に踏み切った理由のひとつです。

 

同時に、アイスペースのチーム「HAKUTO」の質の高さも、特筆すべき点です。世界から各分野のスペシャリストが揃っており、技術力ではトップクラスです。このチームの存在だけでも高い価値があると思ったことも、大きな理由になりました。

 

投資において「価値がある」ということは、難しい判断を要します。なぜなら、自分が買ったあとでその企業の将来価値を認めて買いたいと思う人が将来いるか否かを考える、企業の本質的な価値に対する評価だからです。

 

改めて、私は宇宙へ果敢に挑む挑戦者たちにとって、大航海時代に門を開いた「イザベラ女王」のような投資家になりたいと思っています。宇宙ビジネスの発展、そしてこれからの暮らしがどうなるかは、私たちが勇気ある一歩を踏み出せるかどうかにかかっているのです。

 

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取材・構成/大住奈保子(株式会社Tokyo Edit)

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