前回は、「Final Seller Statement(売主最終計算書)」の見方について解説しました。今回は、ハワイ不動産の「売却時にかかる税金」についてポイントを見ていきます。

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物件の売却後は「4つの税務ポイント」が発生

これまでハワイ不動産の売却に関して、各ステップを詳細に見てきました。前回は、「売主最終計算書」から、源泉税に加えて実際に発生する売却時の経費についても確認できました。ではここで、売却時に避けることができない税金についても見ていきましょう。

 

税金については税務のプロフェッショナルに聞くのが一番ということで、今回は、日本とハワイ両方の税務に詳しい、税理士法人アーク&パートナーズ代表税理士の内藤克氏に伺いました。

 

◆損切りでも「源泉税」は必要です

 

株式会社Crossover International 代表取締役 田村 仁
株式会社Crossover International
代表取締役 田村仁 氏

田村 日本の方が所有しているハワイ物件を売却した時に、気をつけなければならない点はありますか?

 

内藤税理士(以下、内藤) いろいろな方々のご相談を受けていますが、時々ドルを円に替えた時に課税されると勘違いされている方がいます。ハワイ不動産を売却すると当然ドルを受け取るわけです。そのドルを円に替えたタイミングで日本で課税されると思われている方が意外に多いのですが、実際はそうではありません。税金の計算は、譲渡した決済日のドル・円レートで行います。

 

田村 仮に、100万ドルで物件を売却して、受け取ったドルをハワイの銀行に預金として置いておけば課税されない、というわけではないのですね?

 

内藤 そうですね。また、日本人はアメリカから見れば非居住者となりますので、非居住者が不動産を譲渡した時には、ハワイ州と連邦に源泉税を納めなくてはなりません。そのため、資金繰りを考える上で譲渡額がそのまま手元に入ってくると想定してしまうと、ショートしてしまうことになりかねないので気をつけたほうがいいですね。

 

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田村 一時的にしても、売却価格の30%くらいは受け取る額が減ってしまうというのは、前回(第34回)でお伝えしたところです。しかし、仮に100万ドルで購入した物件を90万ドルで売却した場合には、売却益が出ないので源泉税も支払う必要がないのでは? というご質問をよくいただくのですが、この場合はどうなのでしょうか?

 

内藤 これも気をつけたほうがいいポイントですが、源泉税は「売却益」に課税されるわけではなく、「売却額」に対して課税されるものです。そのため、泣く泣く損をしながら売却した場合でも、源泉税は収める必要があります。売却益が出ないとあらかじめ分かっている場合には、規定上は源泉税の免除申請も可能なのですが、この申請には時間がかかるため、実務上は難しいのが現実です。

 

田村 そうなると、日本人がハワイ不動産を譲渡する場合は、ハワイ州に5%、連邦に15%の源泉税を納税するものと想定しておくべきということですね?

 

内藤 そうなります。一旦源泉税を納めた後は、アメリカの確定申告期限である4月15日までに、実際のドルでの売却損益を計算していきます。法人の場合は決算までに、ということになりますね。実際の損益に基づいて、どれだけ源泉税が戻ってくるかを計算することになります。

 

田村 実際売却した際の税務の流れを教えていただけますか?

 

内藤 まずは売却した時点で、売却額に対して20%の源泉税を納税します。翌年の3月15日が日本での確定申告期日になりますので、その際にこの20%を外国税額控除として申告することが可能です。しかし、外国で収めた税金は丸々控除可能かというとそうでもないので注意が必要です。国内・海外における所得の割合によって按分し、その限度においての控除が可能となります。

 

次に、ハワイの確定申告期日4月15日がきます。それまでに、実際の譲渡損益を算出し、それに応じて納税または還付を申請することになります。日本の確定申告では仮の20%で外国税額控除をしているので、このハワイの確定申告時に算定された実際の税額にて再び日本で修正申告をすることになります。このように、売却後には大きく4回の税務ポイントがやってきます。

 

(1)源泉税を納税

(2)日本の確定申告で外国税額控除

(3)ハワイの確定申告で実際の損益に対する税金を算定

(4)日本で修正申告

アメリカの「1031エクスチェンジ」は使えない!?

田村 所有期間に応じて減価償却をしていくことになると思いますが、日本とアメリカではその計算方法が違います。日本人の方が注意する点はありますでしょうか?

 

税理士法人アーク&パートナーズ 代表税理士 内藤克 氏
税理士法人アーク&パートナーズ
代表税理士 内藤克 氏

内藤 日本においては、減価償却をして帳簿価格が下がっていきますね。実際の売却価格と、減価償却後の帳簿価格との差額が売却益という扱いになってしまいます。しかしアメリカでは、減価償却をして下がった帳簿価格と、実際の購入時価格と売却時価格との差額とは分けて税金計算をするので、日本とは扱いが異なってきます。

 

ここでよく勘違いされるポイントが1つあります。日本で減価償却をして節税をしていても、売却時にはそのまま、また売却益が課税されるから税金を繰り延べているだけでないか? と言われる方がいます。

 

しかし日本の場合は、不動産譲渡で得た利益は譲渡所得と言って、他の所得から分離されています。節税時は総合課税と言って、給与などの他の所得と通算して考えますが、売却時の所得はいわゆる分離課税というものになります。

 

さらにその中には、短期譲渡と長期譲渡があり税率が異なってきます。短期と長期との区別は、所有期間が5年以内か超かどうかが判断基準となっています。しかし、この5年の数え方も単純に所有してから5年経っていれば良いわけではなく、譲渡した年の1月1日時点で5年経過していなくてはなりません。たとえば、12月31日に取得をした人は最短で長期譲渡が可能で、1月1日に取得をした人は6年近く必要ということになるのですね。お正月を6回迎えてから売りなさい、と言われています。

 

田村 それと、日本だと事業用不動産の買換え特例というものがありますが、ハワイにも似たような制度はあるのでしょうか?

 

内藤 アメリカでも「1031エクスチェンジ」という買換え特例制度があり、非居住者に対しても適応可能なようです。減価償却が終わり、節税効果によりお金も貯まったので、より大きな物件へ買い換えようかなという時に、ハワイの不動産エージェントから勧められたりするようです。しかし、アメリカの税金としては非居住者でも繰り延べが可能ですが、日本の買換え特例では海外不動産は対象になりません。つまり日本では、ただ売却しただけということになります。

 

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田村 ということは、この「1031エクスチェンジ」は日本人にはメリットはないということでしょうか?

 

内藤 そうですね。逆に、売却して得た資金を次の物件購入の資金へ充当しているわけですから、手元に納税資金がないということになり得ます。納税額をきちんと確保し、余った資金で物件を購入しているなら良いのですが、売却して得た資金にさらに追加資金を足して次の物件を購入した場合、確定申告時に日本の税金は繰り延べできないことに気がつき納税資金が足りない、などということが起こり得るので注意が必要ですね。

 

まだまだ話は続きますが、今回はここまで。今回のポイントは以下の4つでした。

 

ポイント1 円転したタイミングではなく、決済時のレートで税金を計算

ポイント2 源泉税を納める想定での資金繰りを

ポイント3 長期譲渡はお正月を5回迎えてから

ポイント4 日本の名義では「1031エクスチェンジ」にはメリットなし

 

次回は、譲渡費用や相続について内藤税理士に伺っていきます。

 

 

 

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