※本連載は、資金繰り表を活用した経営管理の普及を目指す、株式会社アセットアシストコンサルタントのCEO兼統括コンサルタントの大森雅美氏が、経営者が知っておくべき会社の数字や統計データの読み方を解説します。本記事は、2019年1月29日に掲載された大森雅美氏のブログ『銀行から融資を受ける前に』から抜粋・再編集したものです。

増大する「ご勇退層」、減少する「生産年齢層」

厚生労働省の毎月勤労統計の集計ミス問題がニュースになり、すべての統計資料に対しても信憑性を疑われる事態となりました。日本の各省庁の統計データは国際的にも信頼度が高いといわれてきましたので残念なことです。

 

しかし、今後も各省庁の統計資料を基に日本の政策が決定されていくことを考えると、不平不満をいっても建設的ではありません。自分の立ち位置や将来の方針は、情報を見定め切り開いていきましょう。まずは、基本的な現状の確認です。

 

GDPは国内で支出された総額の推移を追ったものです。GDPは三面等価の法則(※1)で、生産=支出=分配なので、誰かが生産したものに誰かが対価を支払い、その支払われたお金は誰かに分配され所得となっており、総額は同じというわけです。当然その総額が多くなれば国が活性化し、豊かになっていると判断されます。

 

現在、日本のGDPの総額は約540兆円といわれています(2019年1月現在・内閣府)。2018年12月10日のGDP速報では年率換算で前年比マイナス2.5%(2018年10-12月期・内閣府)でした。やはり国全体で活力が低下傾向にあり、景気が悪くなっていると推測できます。

 

これを自身の会社に当てはめて分かり易く考えてみましょう。GDPの支出の総額は、会社の資金繰りに置き換えるとBSの現預金の貸方(負債・純資産)が支出の総額です。人件費、仕入先支払、外注費、諸経費、納税、返済と自社と関わるすべての関係者全体に支払い分配され、先様(先方)では収入となります。例えば、支払先、支払額が増えれば、自社の事業規模が拡大していると考えることができます。

 

このようにGDPの統計推移で全体の景気観を伺いながら、自社の方針に役立てていくことは有効な手段だと思います。今後はこのような視点も加えてはいかがでしょうか。

 

※1 三面等価の法則…国内総生産(GDP)を生産・分配・支出の異なった三面からとらえた生産国民所得・分配国民所得・支出国民所得のそれぞれが等価であるというマクロ経済学上の原則

 

次に、このGDPを生産し享受し、消費している日本国民の数はどうなっているのでしょう。総人口は1億2632万人です(2019年1月21日公表)。ご承知の通り減少のペースが止まりません。少子高齢化が進み、働き盛りの収入を生み出す年齢層の割合は減少しています。一方、第一線を勇退して消費が期待される年齢層は増加しています([図表1]参照)。

 

勇退して消費が期待される層(ご勇退層)が増大し(需要増大)、働き盛りの年齢層(生産年齢層)が減少して生産が追いつかない(供給不足)のであれば、物価が上がり景気が拡大していく要因になるはずですが、そうはなっていません。

 

なぜなら、「ご勇退層」は医療技術や健康意識が高まり長寿が期待できる一方、年金は減少傾向にあり、収入を得る機会も少なく、実際には積極的に消費ができないと感じている人が多い層なのです。「生産年齢層」は働き方の多様性の名のもと、収入を得るための生産土台は安定しなくなっています。本来、生産拠点であるべき企業も人不足という状況に至っています。

 

これでは、シンプルな需給バランスが生まれず、閉塞感が蔓延するのは当然です。まさに今、デフレ脱却ができない原因にもなっています。これらを改善するためには、国の政策や法制度の改正などに期待するだけではなく、私たち一個人、一企業においても、今までの考え方、やり方など、意識を変える必要があるでしょう。

 

これまでのように、需給バランスを考えたプライシング、流通、生産や在庫調整、顧客のマーケティングをしていては、経営が行き詰ってしまいかねません。足元の資金管理を徹底し、事業継続から拡大に至るストーリーを想像しながら経営方針を立てていきましょう。

 

【平成31年1月1日現在(概算値)】
<総人口> 1億2632万人で,前年同月に比べ減少 ▲27万人(▲0.22%)
【平成30年8月1日現在(確定値)】
<総人口> 1億2649万6千人で,前年同月に比べ減少 ▲25万9千人(▲0.20%)
・15歳未満人口は 1546万3千人で,前年同月に比べ減少 ▲17万8千(▲1.14%)
・15~64歳人口は 7552万5千人で,前年同月に比べ減少 ▲52万7(▲0.69%)
・65歳以上人口は 3550万8千人で,前年同月に比べ増加 44万7千人( 1.27%)
<日本人人口> 1億2435万3千人で,前年同月に比べ減少 ▲41万6千(▲0.33%)
[図表1]総務省統計局 人口推移(平成30年(2018年)8月確定値、平成31年(2019年)1月概算値)より抜粋
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html

資金や担保がないと起業できない時代ではなくなる

また今回は、私が事業再生に長く関わった経験から、起業や新事業、第二会社設立時に多くの起業家が悩む資金調達において絶対に知っていただきたいポイントについても触れておきます。

 

「アイデアはあるのに、資金がないから起業できない。担保がないから融資も得られず起業できない」は、もう言い訳にしかならなくなるかもしれません。

 

なぜなら、今は担保も代表者個人の連帯保証がなくても事業計画が実現可能と判断されれば、資金調達が容易な状況が広がっているからです。ただ、融資希望額が高額の場合や、調達方法によっては、代表者の個人保証が求められていますが、連帯保証には要注意です。資金調達のために個人のすべてを差し出すべきではありません。

 

連帯保証制度は日本特有ともいえる制度で、問題が長年指摘されてきました。ここ数年、連帯保証制度の見直しが推し進められ、代表取締役個人の連帯保証を入れずに融資する金融機関、銀行が増えてきました。

 

とはいえ、今でも各保証協会は代表者個人の連帯保証人を必須としているところも多いようです。金融機関からプロパー(無担保・無保証)で融資を得るのは難易度が高いので、保証協会付きの融資を勧められる事が多く、結局、経営者が連帯保証人にならざる得ないのが実情です。

 

しかし、安易に金融機関の勧めに応じるのではなく、まずは商工会議所から情報を得てマル経融資(※2)を日本政策金融公庫に打診してみるなど、慎重に情報収集をしてから先に進めていきましょう。

 

補足ですが、会社の資本金(設立時資金)が受けられる融資の金額に大きく影響することはこれまでと変わりません。アイデア一つでどうにかなるさと、甘く考えすぎてもいけません。

 

※2 マル経融資…商工会議所等で、経営指導(原則6ヵ月以上)を受けた人に対し、無担保・無保証人で、日本政策金融公庫が融資を行う国の制度

本連載は、株式会社アセットアシストコンサルタントCEO兼統括コンサルタントの大森雅美氏のブログを抜粋・再編集したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。ブログはこちらから⇒http://masami-omori.com/column/

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